番外編 数年前のハロウィン
ここは8年前のクレイバール島のハロウィン…。
【クレイバール中央地区】
《クレイバール雑貨屋の玄関》
「気をつけて行ってきてくださいね?」
「はーい!」
「それとこの【惑わしのロウソク】を落としては行けませんよ?このロウソクはハロウィンの日でこの家に安全に帰ってくるために必要な物ですから」
「わかってます…行ってきます…母さま」
「いってらっしゃい」
マコトとキユクは母ユウコに見守られ家をでた。
家から出たふたりは《カフェ・ド・ラブリー》に向かった。
《カフェ・ド・ラブリーの玄関》
「いやーん!可愛いっ!よく似合ってるわ!ルランフェル家の悪魔っ子たちね!」
クレイバール島の島民たちは長寿なので島に子供が生まれるのが約200年ずつなので子供のうちにしか出来ない行事はとてつもない程の力の入れようである。
そしてこの島では家ごとに仮装が決まっていてルランフェル家は悪魔っ子の衣装、ルイゼントナー家はドラゴンのキグルミの衣装、ヌイミラルラ家はミイラの衣装、サイフォンス家は骨を用いた衣装。
マルドレア家は魔法使いと魔女の衣装、マリスト家はフランケンの衣装、フェンネリーエ家はオオカミ男と赤ずきんの衣装。
ネプチューン家はカボチャを用いた衣装でイガワガワ家はまんまのサキュバスの伝統的な衣装。
そしてアシュクラフト家は白い布を被ったゴーストの衣装と言った風である。
「えっと……とりっくおあとりーと?」
「良く出来てるじゃないっ!」
ラブナシカはとても嬉しそうな表情をしてパチパチパチパチと手を叩き感動していた。
「うんもう!可愛い子にアタシからはカボチャのカップケーキをあげちゃうわ!」
「わーい!ありがとうー」
「ありがとうございます…」
「次行く場所は決まってるの?」
「【クレイバール呉服店】です」
「そうなの〜気をつけて行くのよ?」
「はーい」
ラブナシカはふたりが呉服店に入っていくのを見届けるまで見ていた。
「ラブさん、トリック・オア・トリート」
「あら、ナナヤとソウビじゃないの…アナタ達も相変わらず可愛いわね!もう!」
ドラゴンのキグルミを着たナナヤと白い布を被ったソウビがやって来た。
「ボクたちラブ先生からお菓子貰ったら東地区に戻るだけだから早くお菓子ちょーだい」
「早くない?」
「手伝いがあるから……」
「あっそうだったわね……はい、カボチャのクッキー」
「「ありがとう」」
「ふたりのお姉ちゃん達はどうしたのよ」
「……多分だけど人形の館に居ると思う」
「あー…」
「それじゃパーティー会場で」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【クレイバール呉服店】
《呉服店…玄関》
「あらあら……悪魔っ子が来ましたねぇ」
「トリック・オア・トリートです」
「お菓子をあげないとイタズラされちゃうわ〜…そうだ。飴ちゃんをあげようかねぇ」
フィリムの祖母で人間のリウビィが準備していた飴をふたりの籠に入れた。
「わぁー!この飴ちゃんキラキラしてる!」
「………………」
マコトはリウビィを凝視した。
「大丈夫よぉ鱗粉なんて入ってないから」
「ふぉっふぉっふぉっ!しっかりしとるのうマコトは」
「イグファルドお爺さん……顔に墨が付いてますが…」
「フィリムがワシの妻に対してイタズラを仕掛けて気てな…その名残だ」
「だから、真っ黒い人がそこに立ってるんだね!」
店の隅に真っ黒い包帯を巻いた人物が悔しそうにしながら(ロルスによるとドMな性格をしているらしい)ヌイグルミに腹パンをかましていた。
「それではまた」
「また遊びにいらっしゃいねぇ〜」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
《クレイバール神社…本殿前》
「とりっくおあとりーと」
「あらあら〜マコトちゃんとキユクちゃんねぇ〜」
対応したのはクレイバール神社の宮司をやっているナリノの母で夢魔のナオハルである。
「あったわ〜、はい受け取って〜」
ナオハルはふたりのそれぞれの籠にカボチャの茶巾と栗の茶巾を渡した。
「わー…茶巾だぁ」
「ありがとうございます」
「良いのよ〜…あと大樹の所にいるお母さんから受け取ってねぇ〜子供達が来るのを楽しみにしてたから〜」
「はーい!」
「また来てね〜」
マコトとキユクはナオハルに見守られ手を繋ぎながら元宮司でナリノの祖母のナクモが居るであろうクレイバール神社の大きな大樹がある場所にかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「うー?」
「キユク、見ては行けません」
マコトはキユクに籠を託しキユクの目元に手をやり見えないようにした。
何故なら。
「ナクモさんこんばんは……ナリノは何をしたのですか?」
「お菓子をあげたのにこの大樹にイタズラをしたものだからお仕置でござるよ」
ナリノは祖母ナクモによってコウモリにされ紐で縛られハァハァと興奮していた。
「…………」
「この様子だと効いてなさそうでござるが」
「ナクモおばぁ……とりっくおあとりーと…」
「…それではそれぞれの籠にサキュバス印の飴ちゃんを入れておくでござるよ」
「……普通の飴でいいです」
「今ナメめなくて良い、腐ったりしないから取っておくでござるよ。魅力が効かない様になる飴ちゃんでござるから」
「…ありがとうございます」
「それじゃ入り口に送るからそのままじっとするでござる」
マコトとキユクはじっとしてナクモの指示に従い大人しくしていた。
いつの間にかクレイバール神社の入り口に戻っていた。
「お姉、このままだと歩けないです」
「あぁ…ごめんなさい。もう大丈夫です」
マコトはキユクの目元から手を引いた。
「次はどこにいくの?」
「えーと…このまま西区に行って花屋さんとかじ屋さんと病院と牧場ですね」
「それじゃ…早くいこう」
クレイバール中央区からクレイバール西区に向かってあるき出した。
【クレイバール西地区】
《西区入り口のゲート》
ふたりを出迎えたのは牧場と八百屋を営んでいるクレイバール島出身同士の若夫婦で昔八百屋を担当していたフアネリアの子孫でハーフドライアドのハルディオラと人間でソウビの1番目の姉のイダルベール。
鍛冶屋からはフルーレの祖母でドラゴノイドのルルエールが細かいなにかの部品を作っている。
花屋からはピレリアーネとシェルフィナの祖父でマーメノイドのニイザと母でハーフエルフのピナは料理を運んでいた。
メルファとラタムの祖父であり病院長でハイビーストのファムロスが待ち構えていた。
そしてラタムとメルファとピリアとシェルフィナとフルーレが大人しく用意された椅子に座らされていた。
「おっ!来たな!悪魔っ子の格好した子供たちヨ!」
「……どうしてそこの5人は座ってるのですか?」
「【惑わしのロウソク】を落としたんだよ」
「あのロウソクがないと家にそう簡単に帰らせてもらえず、こわ~いイタズラされちゃうからここでお留守番になったの」
「そういう事もあるものさ」
「ふたりとも気にしないで行っテ」
「気をつけてね〜(ラッキー…あたしは苦手なのよねーハロウィン、ふいんきとか含めて)」
「ふっ…(どうせアネキはラッキーって思ってるわ)」
「……………………」
「…おれが落としたんダ…」
「ドンマイ」
「…レフィがどこにも居ませんね」
「レフィはまた違法な魔術を作った為にルウカ先生によって何処かに連れてかれたよ」
「そうでしたか…聞いてごめんなさい」
「マコトが謝ることはない、あの術式オタク(孫)が悪い」
「そろそろ時間だから、お菓子あげて送らないと…ふたりとも合言葉は?」
「「トリックオアトリートです!」」
「良く出来たナ」
マコトとキユクはファムロスに頭を撫でられそれぞれの家庭からお菓子を貰った。
「今日はイダルベールが用意した【妖精の細道】を使えるようにしてるからその道を使って東地区に行くんだゾ」
「はーい」
ふたりは仲良く手を繋ぎ歩きながら妖精の細道を通り東地区に向かった。
【クレイバール島東地区】
《東区の入り口のゲート》
この東地区でも西区と同じように大人たちがハロウィンの準備をしていた。
「おっ遂に悪魔っ子たちの登場か」
最初にふたりを出迎えたのはクレイバール警備隊の隊員でありながら特級裁縫師でもあるロッカとナナヤの父親でハーフドラゴンのロルスである。
「こんばんは、ロルスさん」
「ロッカさんのお兄さんだ〜」
「…おれはお兄さんじゃないぞ?お前達よりもかなり年上でロッカとナナヤのちゃんとした父親なんだぞ〜?(誰だ、この幼子たちにそう教えているのはっ!)」
「ぷっ……ロルスの見た目はカーウェン爺さんとどっこいどっこいだもんなっ……(やっぱり面白いなーこの反応)」
「こらっ!メルゴ君たら失礼よっ」
「ゴメン、ルファーナ。後でコイツをシバクけど良いよな?(犯人はコイツだ…)」
ロルスをからかっているのはロルスの同級生でありヤスバの子孫で島の大工でもあるアンエルタの父親の護熊族のメルゴとロルスの同級生でアンエルタの母でダークエルフのルファーナである。
「全く、相変わらずねぇ…それでまた今まさにサバトを開いてる人形達にボコられるのを繰り返して楽しいの?」
「メルゴは昔からこうじゃからな」
「後始末が大変なのよ?お祖母様」
「マナリオもそうカリカリするなよ」
ルニスの母で魔女のマナリオとメルゴがグチグチと話し合いをしている所に見習い魔女でルニスの姉のニヴァがやって来た。
「お祖母様、お母様、魔女特製のスープが出来ましたわ」
「ニヴァ、ご苦労さま」
「メルゴおじ様、このままだとロルスさんに空からダイブさせられますわよ」
「…その方が反省するかしらね?」
「何気に怖い事を言わないでくれ…ぞくぞくと背筋が………高所恐怖症なめるなよ」
「ちゃっちゃか準備しないと…鬼がく――」
「誰が鬼だって?」
般若の面を付けたサニカが腕を組んで立っていた。
「ひぇっ」
「お菓子の家が完成したから呼びに来たが…メルゴ、昔のように驚かされたいかい?」
「サニカ先生にやらされたアレが原因で高所恐怖症になったんだぞ!」
「アレはお前が悪さをしたからだろ……それにアレだけの事をして命綱を付けた状態でやらされた事に感謝して欲しいものだけどねぇ?」
「確かに、アレだけの事をしたのに命綱有りで綱渡りをさせて貰えた事に感謝しなさいよ」
「それを言ってはおしまいです」
「妻よ…」
サニカは言い争っている大人たちを残してニヴァから受け取ったお菓子を持ってマコトとキユクの側に行った。
「ご苦労さまだったね、お菓子は貰えたかい?」と言いながらふたりが持つ籠にお菓子を詰めた。
「うん!バッチリよ!」
「はい、さらに籠が重くなりましたが」
「……学校の校庭の会場に行こうか、ロウソクを出してくれるかい?」
マコトは母に持たされたロウソクを出した。
「火を付けるよ」
サニカはロウソクをランタンに入れて火を付けた。
「マコト、どうだい?籠を持ちながらランタン持てそう?」
「はい、どうにか」
「…明かりが付いたジャックランタンが飾られているあの道を通って行くんだ…いいね?」
「キユク、わたしから離れないでくださいね?」
「うん!」
マコトとキユクは頷きサニカに指示された場所を通ってクレイバール学校の校庭に向かった。
学校の校庭までの道はとても暗かったがランタンから発せられる淡い光が校庭までの道を差していた。
そしてクスクスっと森から声がしてお菓子が入っている籠がだんだんと軽くなっているのがわかったが学校の校庭に着くまで気にせず歩いた。
そして校庭に着くと結構な大きさのお菓子の家があり先客が来ていた。
「おや、今年ここまでたどり着いたのはあたしゃの孫とロルスの所とユウコの所とメルゴの所の子供達だね」
そう言ったのはソウビの祖母のアジサイである。
「こんばんは、アジサイ様」
「こんばんは…」
「そう畏まらんでいいじゃろうて」
「母さん、子供たちが萎縮しちゃってるよ」
「もう…義母様たら」
「威厳が凄いですねぇ…」
アジサイの側に居るのはソウビの父親のアジュガと生みの母であるヒセットと二人目の妻のシェシアであった。
「今年の出来はどうだい!なかなかの物だよっ!」
「………カボチャの被り物を外ちたら?」
「ジュナーテ、これは必要な物なのよ」
『この時期になると凄いのぉ』
「カーウェン先生……天に召されかけてませんか?」
カーウェンは肉体から霊体が出ていた。
『いや、天に召されかけてはないぞ?幽体離脱したのだよ』
「それを天に召されかけてるって言うんですよ」
「この時期の名物だな」
「ルウカ先生、いらしてたのですね」
ルウカに簀巻きにされたレフィが引きずられてやって来た。
「レフィ…何をしたんだい?」
「隠れて作った召喚陣がバレちゃった、テヘペロ」
「……だからか、だからなんか。去年よりゴーストが多いと思ったらレフィが犯人か」
アジュガはジト目でレフィを見た。
「えへへ…つい楽しくて止まんなかった」
「…反省してないな」
「まるで幼い頃のメルゴを見ているみたいよ」
「あはは…」
「やっぱりポーリアとヒペリカは来なかったわね」
ポーリアとヒペリカはソウビの年の近い姉でナナヤの姉のロッカの同級生である。
「その3人は人形の館でサバトを開いてたぞ」
「なんでサバト…」
「本物の見習い魔女のニヴァちゃんはちゃんと手伝って暮れてるのに」
「まぁ、あの3人が人形たちとハロウィンパーティしてくれているから、この後の片付が楽に出来るんだけどな」
「そうですねぇ…普段ならロルス君がやってくれてますし」
「それで上空にいるレフィが召喚したゴーストたちをどうするか決めないとだねぇ」
「それなら提案があるんだが―――」
大人たちが何かを企て始めた頃、ドラゴンのキグルミと白布のゴーストがキユクとマコトの近くにやって来た。
「…ふたりも来てたのですね」
「うん」
「今年は少ないですね…大丈夫なのでしょうか?」
「今さっきルウカ先生とお祖母様が話し合ってたよ。このデカいのどうするって」
「お菓子の家…年々クオリティが上がってる…」
「去年はプリンの家で今年は生クリームのケーキの家か」
「お姉たち…しんぱいない見たい」
「えっ?」
キユクが向いている方向に一斉に向くとレフィが呼んだであろうゴーストたちがとてつもない程の早さで生クリームケーキを貪っていた。
心做しかケーキがデカくなっている気がすると子供達は思ったが気にしないことにした。
「おっお菓子の家」
「子供たち、今回はごめんなさいね。ゴーストたちを誘導するためにお菓子の家を使ってしまったよ」
「別に大丈夫です。この少ない人数で食べ切れませんし、ぎりぎりまで小さくしても食べ切れたか…」
うんうんとナナヤとソウビは頷いていたがキは頬を膨らませていた。
「それにレフィの事もありますから」
「…本当に出来た子供たちね」
「子ども大人に聞かせたいわ」
お菓子の家が無くなる頃にはゴーストたちは召喚陣吸い込まれもとの場所に戻って行った。
「何とかなったな…」
「子供達が行うはずの空にランタンを上げるのはどうしましょうか?」
「流石にコレまで取り上げるわけにはいかんな。今すぐここで上げてしまえば良い。子供も待っているだろうからな」
キユク、マコト、ナナヤ、ソウビは灯籠をルウカから渡されルウカが火をそっと付けた。
そして空に放した。
キユクも空に浮かぶ灯籠を見上げ機嫌が治ったようだ。
「とてもキレイだった…」
「子供たちの用事も無事に済んだからどうします?本来ならここでお菓子の家を食べたりですが……今回は出来そうにないですし」
「外で準備していた島民達も灯籠を空に上げてるだろう。
さてサニカ先生に事情を話して場所を変えてハロウィンパーティをしようか」
「それ賛成です!」
「子供たちはどうする?家に帰りたければ送るぞ?」
「……そうですねわたしとキユクは帰ります。母がご馳走を用意してくれてますから」
「ボクとナナヤは父さんたちと一緒に…」
「わかった」
役目を全うしたキユクとマコトはロウソクを持っての帰宅ではなくアジサイが自宅までの【妖精の細道】を作りそのまま家に帰って行った。
ナナヤとソウビはルウカたちと共に学校から東地区に戻り灯籠を上げ終えた父親と共に魔女特製のスープなどをお土産として貰い家に帰ってハロウィンを過ごすはずだった。
だが急にサニカ先生とルウカ先生が家にやって来てクレイバール島の全住人を無敵の宿屋に呼び、今回は宿屋でハロウィンパーティーだとテーブルには様々なハロウィンの料理が並べられていた。
俺たち子供組はサニカ先生とルウカ先生が作った料理に夢中になっていたが両親や皆の親が呼ばれ何かの説明を受けていた。
大人たちは顔を一瞬だけ引きつらせていたが「そういえばこの宿なら大丈夫だった」と安堵した表情をしていた。
それから寝る時間となり好きな部屋に泊まって良いよと言われ俺は姉と同じ部屋の別々のベッドで寝たがいつの間にか小さくなったシューゴが俺のベッドで寝ていた。