久し振りに見た
【ルイゼントナー家】
《リビング》
「………ただいま」
「おかえり、ナナヤ」
ナナヤの目の前には自分よりも幼く見える紺色の髪と青紫色の瞳に眼鏡を掛けたショタ父が高速縫いで俺のお気に入りの服にファンシーな刺繍をしていた。
「……………………」
「さっきから黙っているけど、どうした?」
「それ、俺のお気に入りの服…」
「あー…穴が空いてたから体が勝手に動いたんだよ」
「……(厳ついドラゴンの刺繍がファンシーに)」
「どうした?」
「…何でもない」
「夕飯はサニカ先生の所で食べてきたんだろ?」
「うん」
「それで改まった雰囲気が出てるがもしかしてか?」
「…先祖の生れた世界について教えて欲しい」
「やっぱりかちょっと待ってろ………出来たー」
「………………(相変わらず縫うのが早い。そしてドラゴンの刺繍が入ったお気に入りの服がファンシーに…)」
先にリビングの定位置に座ると父も俺の服をテーブルの上に置いて定位置に座った。
「……遂にこの時が来たか…まずは年齢で言うとおれは16の年に単独での行動で行かされたんだ」
「え」
「おれも悪かったからな。その頃ちょうどおれは反抗期真っ盛りでサニカ先生の事をクソババアって呼んでて、おれはひとりでも出来るって言ってたもんだから「なら単独行動で活躍してみろ」と言われてねじ込まれた」
………このあどけない少年に見える父がな…グレ方が姉さんに似てる…。
家出してるが姉さんは大丈夫だろうか?
「向こうの世界は…一言で言うと生物が生きて行ける場所がまだ限られた場所だった……燃え盛る森、空中に浮かぶ島々、旧エイスワイズ学園とサニカ先生達が暮らしていた山があった場所は至竜の力は無くなって居るが当時の村人やサニカ先生たちの転生前の強さの残り香が残っていて強い魔物が近づかない安全な場所として生き残った人類と亜人たちが暮らしてる」
「交流を持ったりしてたのか?」
「あぁ、おれやユウコ達は物資をその拠点から旧エイスワイズ学園に運んだり、違う町に運んだり周囲の魔物を退治したり…その拠点では雑用みたいな事をやってたな。
そして半年が経った頃にルウカ先生達からの指示で引き上げる事になった時にそこで知り合った女性の方からこのままこの地で暮らさないか?と誘いを受けた」
「…………………」
「ナナヤもわかっているだろうが…おれはその誘いを断った。
クラスメイトや年下の学年の親たちはその環境に順応して現地の必死に暮らしている人達からしたら手放したく無さそうな雰囲気を出してたな」
「……だからこその半年か」
「ルウカ先生達もズルズル行けば抜けられなくなるから最長での期間で半年だったんだろうと思う。
他にも面白い場所はあるから実際に見てきた方がいい経験になるけどな……そうすると寂しくなるなー…暫くは一人暮らしになりそうだしなー」
「父さんにはヌイグルミと人形たちが居るじゃないか」
「生きている人間との会話がしたいんだが?」
「………………………………」
「そこで黙るの止めてくれよー」
父はブーブーと言いながらも自分の部屋に戻っていった。
一段落着いたなと思ったら家のドアが大きな音と共に開き5年振りに引きこもっていたフルーレの兄で幼馴染みのツラを見た。
「はぁ………はぁ………久し振りに外にゅっ…いっイテテ…………………落ち着いた。お久ーナナヤ」
「引きこもっていたんじゃないのか?」
「えっ?ずっと魔術の研究をしてただけだけど?」
「……そうか」
「何だよー昔みたいにキャッキャしないんだな」
「5年だそ?」
「えっそんな時間が経ってたのか?」
「コイツ…」
「それよりナナヤ、随分と背が高くなったな」
「ワン」
「おっリンデか!お前も随分と美人になったな。何だ?おだててる?そんなことないよ」
「それより何しに来たんだ?」
「ミーは凄い発明をしたのだよ!転移の魔法陣だ!」
「それって俺たちではまだ禁止されてる術式…」
「それもただの転移魔法陣じゃないぞ?物体を移動させることが出来るのだ!」
ナナヤはその話を聞いて懲りてないと思っていたら、レフィの後ろにいつの間にかジュナーテと能面の様な表情をしたルウカ先生が立っていた。
そしてルウカ先生はレフィの頭を掴むとアイアンクローを仕掛けた。
「痛だだだだだ!」
「ルウカ先生とジュナーテか、5年前からこの場面は変わらないな」
「そうだな……久し振りだな?レフィよ」
「ルウカ先生っ痛いよっ」
「そりゃあ痛くしてるからな…さっきの話を聞いた限りだと転移の魔法陣を完成させたで良いんだよな?」
「………はい」
「5年も引きこもって何をしているんだ?思っていたらまさかの転移の魔法陣か…お前と言う奴は」
「だってミーも地球系列世界に行きたかったんだもん。先生たちはズルい!」
「まだ6年前の事を根に持ってたんか」
「地球にあるニホンを旅行して秋葉原に行ってゲームとか漫画とかフィギュアとか買い物したいんじゃー!そしてメイドカフェに行くんじゃい!」
レフィはニホンのサブカルチャー…小5の時に見た漫画やアニメにドハマリした。
地球産の漫画やゲームは【クレイバール図書館】に行くと読んだり地球産のゲームで遊んだり出来るのだ。
俺も一時期ハマっていたのを思い出す。
「ナナヤ、悪いがレフィを連れて魔法陣を消してくるが?」
「遊ぶ約束とかレフィに対しての予定は入れてない」
「そうか」
それだけ言うとルウカ先生はレフィを連れて行った。
残されたジュナーテは俺に明日の学校での予定を伝えると宿屋方面に向かった様だった。
…そう言えば6年前の修学旅行の日に熱を出してレフィは休んだんだよな。
俺たちが買ってきたお土産にケチを付けた事で女子からは総スカンを喰らったと思ったら引きこもると言うコンボを入れてきたんだっけか。
ナナヤは懐かしさに黄昏れたが家のドアを閉めて戸締まりして寝た。