勇者の記録を切り離す作業は大変です
【澄谷家】
《リビング》
「新婚ホヤホヤなのに呼び出して悪いね」
「良いのよ、かなり重要な事を話したいって言われたから」
「私も呼ばれたと言うことは…」
「そちら系の話だ。全員揃ったら話すからな」
ラブさん含めて呼ばれていた人たちが全員揃うとルウカとサニカがオレの魂に付いて話し出した。
「……的な事になっている」
「でも悪いことは特に起きたことないけど」
「そうかも知れないけど、これから先何が起こるか分からないから用心してね」
「了解です」
「魂の分裂ですか…それも勇者の記憶と共に半分づつ厄介ですね」
「そうでもないぞ」
「え?」
「ビワトの魂は既に1つの個となっていて別物の魂になっているからな」
「シアレやキトリエスたちが見守り抜いてくれたから誰にも悟られる事なく弄られなかったからね。
幸福の記憶を持つもう片方の魂に関してはまた別の人物として存在しているかも知れないよ」
「ビワトが完全な一個人になるためには【勇者の記憶】を完全に切り離さないと行けないのだよ」
「だからアタシとエンロウ、カーウェン、マジェリルカが呼ばれたのね」
「今の俺たちでは出来ないからな。ルヴェルとシアレには断ち切った時の壮絶な痛みを少し肩代わりして貰うために来てもらった。俺とサニカも肩代わりする」
「今からやろうとしている【秘術】は対象者の絆が強い人たちがいた方が手早く、そして負担が少なく出来るからね」
「それで、ですか……あなた隠れてないでさっさと
出て来なさい。さっきから目線が気持ち悪いです」
「気持ち悪いって酷くないか?」
なんと2階から父が降りてきた。
「酷くないです。本当に目線が気持ち悪いのですから」
「ルディオスから「グダグダしてないでさっさと行って来い」って言われて来たのに…」
「隠れてないでリビングにドンと構えていたら違っていたと言うのにあなたと言う人は」
「二人とも、喧嘩はこの件が終わってからにしなさい」
「相変わらずですね…」
「だな…それでオレは何をすれば良いんだ?」
「ビワトは用意された魔法陣の上に乗ってくれれば良いよ。あとはこちらで調節するから」
「わかった」
オレは既にリビングに用意されていた魔法陣の上に乗って待機した。
「では始めるか。【マジックレコードザッパー】発動!」
すると直ぐに変化が現れた。
「えっ!なに!この魔力!」
「ビワトの魔力が輝き過ぎてビワトが直視出来ないっ!」
「コレが悠久の時を掛けて培われた勇者の魔力の根源!」
「呑み込まれるなよーエンロウ、ちゃんと維持しろ」
「分かってます!これ本当に切れるんですか⁉」
「意地でも切らないと後々面倒事になるのう」
「うむ、魔力が高潔過ぎて我々は絶えられるかのう?」
「サニカ!」
「タイミング見てるから」
サニカが何処からか持ち出したのか見た事がない得体の知れない剣が用意されていた。
「なにその剣!」
「【絶の剣】と呼ばれる長生きしている知り合いに借りた奴さね!ルウカ!」
「おう!ルヴェルとシアレとフジトラがいてもかなりの痛みを味わう!良いなビワト!フジトラたちも歯を食いしばれ!!」
ルウカは躊躇なく輝きが一番凄い太い糸の様な物を魔力の束に向けて剣を降ろした。
その直後に痛みが……!
「ぐぅ!!痛ってえ!!」
「かはっ!」
「コレ、かなり痛いを越えてるって!!」
「コレで肩代わり分なのですか⁉」
「だぁ!マジで痛えがやるっきゃない!」
「先生たち大丈夫なのか⁉」
「俺たちに触るな!痛みが移るぞ!!」
(ルヴェルたちが居なければ持っもヤバいのかよっ!何か骨がギシギシ言ってる!)
「後どれ位ですか!」
「あともうひと押し!」
「そのもうひと押しを教えて下さい!」
「マジェリルカちゃん!!」
「分かっおるわ!!行くぞ、カーウェン!」
ついにはカーウェンのじっちゃんとマジェリルカちゃんが母さんと父さんの側に向かい触れて支える形になった。
そこへ澄谷家のドアが開くとエクルがやって来た。
「カーウェンさん、頼まれていた……って何が!」
「エクル!ドアを閉じろ!そしてその場から動くなっ!」
「えっ!てかフジトラさんたち所々血だらけじゃないですか!!」
「こっこの痛みはっ!…ぐはっ」
「皆で何をしているのですか!」
「ビワトをただの一個人とするために因果を断ち切っているところだっ!」
「くそッ!」
「ビワト!気絶するなよ!お前が気絶したらまたやり直しだからな!」
「大丈夫よっ!ワタシが絶対に支えてみせるわっ!」
ルヴェルはフラフラになりながらも俺のもとに来てガシッと腰の当たりを掴んで来た。
「絶対に離さないんだからぁ!!」
何故かエクルも俺の元に来てルヴェルとは逆側を支えた。
「くっ!何だ!この痛みはっ……!体の骨が折れる!」
「まったく、大人しくしておけと言ったのに…」
それから数分後に体感時間は数時間後にブチッと何かが切れる音がした。
すると輝いていた光が収束して微かな光だけが残った。
「はぁ………最後の仕事は私だね…」
「あとは頼んだ…あー…痛かった……死ぬかと思った」
サニカは生まれたての子鹿の様な動きでオレの元に来て見た事がない光の針と糸を使って瞬時に何かを縫い付けた。
「コレにて終了……ビワト、これでもう君は勇者ではなくこの島の島民のビワトととして生きて行ける、勇者の記録に干渉される事無くすごせふように…なる。
勇者の記録は【向こうの世界】に住み生きている人間で勇者に相応しい人の元に神託として授与されるよ…」
「完全には無くならないのですね」
「………そうだね、向こうの世界では勇者は理の根源に定着してちゃってるから」
「ビワトから切り離す必要はあったのですかな?」
「うん……必要だったよ。こちらの世界に向こうから【理の番人】が来てビワトが拐われてただろうし」
「ここで【理の番人】の話をしますか?」
「でもその【理の番人】はもう来れないから」
「例え向こうの世界との空間を断ち切ったとしてもビワトがさっきまで持っていた記録を通してこちらの世界にやって来ていただろう……コレで本当に向こうの世界とは繋がらないぞ。
向こうの世界に行くときは我々は異界の旅人として扱われるだろうな」
「さて…まだやることがある」
サニカはよっこいしょと上半身だけを起き上がらせ杖をアイテムボックスから取り出した。
「えっ…皆瀕死なのによく動けるな」
「……それだけの記憶の経験があるからね……【この豊穣の杖を触媒としてこのクレイバール島全体に継続的な癒やしと外からの侵入者を拒む結界を作らん…リザレクション】」
温かい光が寝転んでいる場所から体を包んできた。
サニカもまた寝転んだ。
「あー…癒やされるの〜腰に効きそうじゃ〜」
「痛みが消し飛ぶのぉ〜」
「明日まで休んで2日後から通常に戻る感じだなー」
「この事はフアネリアやルクリスたちに教えてあるからゆっくり休むんだよー」
「所でエクルは何をしに?」
「カーウェンさんに頼まれた物を届けに来たのだが…全員死にかけて居たから手助けしてしまった…」
「自ら死にかけるとは」
話し込んでいると誰かがドンドンと澄谷家のドアを叩き出した。
「誰かドアを叩いてますけど?」
「開けなくて良いよ。フアネリアたちなら開けられるけどドアを叩き、開けられないのはこの場にいる誰かに危害を加えようとしているやつだから」
「えっそれって大丈夫なのか?」
「大丈夫。この島の島民たちに今日は家から出ないようにって言ってあるからね」
「それ聞いてない…」
エクルが悲しそうな声で言った。
「え」
「え?」
「………まぁエディスたちこの島の島民たち全員、家から出ていないから大丈夫だろう。それにしても伝え忘れか?大丈夫なのか?まだボケるのは早いぞサニカ」
「うるさい……この島の全ての家はオリハルコンとアダマンタイトとヒヒイロカネの資材で作られてるから壊されることないから大丈夫…この事は一旦置いて休んでから考えよう」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「…………」
あれから何時間経ったんだろうな?体を起き上がらせたいが出来ないオレの腹には寝相が悪いルヴェルが寝そべっている。
「ルヴェルさん、起きようか」
「ふへへ…もービワトの✕✕✕✕〜」
「……今規制音が入ったよな?ルヴェルはいったいどんな夢を見ているんだ」
トントンとノックして入ってきたのはサニカである。
「おや、起きたかい?」
「サニカさん、助けて起き上がれない…てか今何時?」
「今は朝の7時半だね」
「結局あのまま爆睡か」
「このままじゃ駄目だなと思って部屋にそれぞれ移動させたけど、もう起きるのであれば手伝よ?」
「お願いします」
サニカはルヴェルを魔法で持ち上げオレの隣のベットに丁寧に置いた。
「これでようやく起き上がれ…ないんだけど」
「そう?…なら私の手を握ってごらん」
オレはサニカの手を思いっきり握るとサニカはそのまま上半身だけ起き上がらせた。
「どう?痛みを感じる?」
「いや、大丈夫」
「手とか動かせるなら問題ないと思うけど。倦怠感が残ってるのは勇者の記録をビワトから切り取ったのが影響しているかも知れないね…もしこの後先も残るようなら教えてね」
「わかった」
「それはそうと歩けそう?」
「その辺はもう大丈夫そう」
「朝ごはんは何が良い?」
「パン系の料理」
「肉」
「見事に別れたね。わかった作っておくから顔を洗ってリビングダイニングに来てね」
サニカは部屋から出ていきリビングに向かったようだった。
「ルヴェルも起きてたのか」
「起きたのは少ししてよ」
「それじゃ洗面台に向かって行くか」
「えぇ」
部屋を出て洗面台に顔を洗いに向かいリビングに向かった。
【澄谷家】
《リビングダイニング》
「サンドイッチが沢山ある」
「パン系の料理で肉も使ってとなればサンドイッチが手早いかなと」
「サニカのサンドイッチって美味しいのよね!」
「そう言って貰えると作りがいがあるよ」
「あれ?母さんたちは?」
「シアレたちはクレイバール島の見回りとそれぞれの家に行って出歩いて良いよーって知らせてもらってる。
エクルは朝早くに起きて帰って行ったよ。
今はゆっくり食べて休んでから家に帰ると良い」
オレたちは澄谷家でゆっくりしてから帰った。
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一方その頃【ルランフェル(エクルの)家】では
(………しっ心臓の鼓動が収まらない!ビっビワトのアレが…!まさかあれ程とは!
近くにいたために形がくっきりと見えてしまった!)
こちらはこちらでなんか混乱していた。