記憶の鍵が解ける時
【無敵の宿屋】
《タズルの部屋の扉の前》
「ぅ……」
タズルが部屋の中で苦しそうに悶えている声が聞こえる。
「まだ終わってない見たいだな」
「今日は長くないか?」
「もしかして媚薬使われてないよね?」
「もし使われていたとしたら倍の苦しみだ」
「ヤバくないかそれ」
「ヤバいね…私たちでもやりようがないよ」
「ビワト、行ってこい」
「なんでオレが!」
「素直になれ、ビワト。タズルが気になってるんだろ?」
「ちゃっちゃうわ!」
ルウカが羽交い締めしてきた。
「ちょっ!サンゴ!ルウカを止めろ!」
サンゴを見ると悟りを開いた表情をしていた。
「ねぇ、ルウカ。もしかして封印が解けるかも知れないね」
「フジトラたちが封印した記憶がな」
「時期は早いけどやってみて良いかも」
ふたりはさっきから何の事を言っているんだ?
「ビワト、私たちを恨んで良いよ。それだけの事するから」
「おっオレに何をするきだ!サンゴ!」
「少し大人しくしてね」
サンゴはルウカに羽交い締めされているオレに何かの液体を使った。冷たっ!何この液体!
「良い結果が出ることを祈ってるぞ。やって良いのはキスまでだからな。それ以上の事やったら…呪うからな」
「へっ?」
「「グッドラック」」
ふたりにタズルが居る部屋に無理やり押し込まれ外から鍵を掛けられた。
「だっ……誰………?」
「うぉお!?」
タズルはベッドの上で悶えていた。シャツは濡れて所々透けてイヤらしかった。
「………………」
オレは扉に背を預けてタズルの様子を見ていた。
「……………っ……」
「ふたりはオレに何をさせる気だよ………っ!」
突然オレの頭にガツンと鈍器で殴られるぐらいの痛みが襲ってきた。
「っ!…いっ…痛っ!…頭が割れる…!………」
オレは突然やって来た強烈な頭痛によりその場で倒れた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【シルトフォレストの秘密の花畑】
《彩り花の群生地》
「えへへっ…きれいなおはなはたけ……びわとくんはすごいね」
「ここはおれのひみつのばしょなんだ!」
『なにいってるでしゅか…わたちもしってるでしゅ』
「ふふっるえるもしゅごいわ。どうしてわたちをつれてきてくれたの?」
「ちはやがさみしそうだったからだよ」
「そっそんなことないよ、わたちは」
「ほんとにそう?ほらこれあげりゅよ」
「わぁ…きれいなおはなのかんむり…」
『わたちにもよこしなちゃい、びわと』
「かあさんがつくりかたをおしえてくれたんだ…わっわかったよ。るえるにもつくるよ」
「もらっていいの?」
「うん」
「ありがとう!」
「…ちはや」
「なーに?びわとくん」
「おおきくなったらおれのおよさんになってくれないか?」
「…わたちがびわとくんのおよめさんかぁ……びわとくんならいいよ」
『えぇ…いいの?』
「うん」
「ならやくそくだぞ!」
『びわとをえらんじぇこうかいしないでしゅか?』
「きっとだいじょうぶ!」
「しつれいなやつ~」
『あたりまえでしゅ』
(これは…オレの記憶か?それにあの子は……)
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【アシュクラフト本宅】
《リビング》
「どうしてだめなの?とうさん!かあさん!」
「聞き分けてくれ。ビワト」
「どうしてちはやにあいにいっちゃだめなの!」
「チハヤちゃんの家の方で良からぬ事が起きているからだ」
「そんなのなっとくいかないよ!」
「ビワト、お願い…もう家に来ては行けないと手紙が来たの。何か良からぬ事が起きているの…だから…」
「フジトラ兄様たち……あたし潜入してこようか?」
「ビスカ…その必要はない」
「フジトラ兄様…でも」
「ビワトはいずれこの家を継ぐ…いや継がないとしても親心として敵地に向かわせる訳には行かない。ビスカお前もだ」
「シアレ義姉様は?シアレ義姉様は良いの?」
「それは…」
「……とうさんたちだいっきらい!おれひとりでもいく!」
「あっビワト!」
「フジトラ兄様たち!ビワトを追わないと!」
「シアレとビスカはここに居てくれ。俺が連れ戻す」
「あなた…」
「無理やり連れてくる事はしない。抱き抱えて連れてくる」
(オレはこんな記憶知らない…)
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【シルトフォール山】
《麓》
「やっぱり来たぜ。このガキが【アシュクラフトの跡取り息子】か」
「はっはなせ!ちはやのところにいくんだっ!」
「ウルセェぞ!ガキが!」
「ひっ!」
「このガキを連れていくんすか?」
「それが命令だからな」
「えいや!」
「痛てぇ!ガキだと思って手加減してやったのに!オラァ!」
「うぐっ……!」
「早くこうして置けば良かった」
幼いビワトは意識が朦朧しそして気絶した。
「ほう…私の愛息に手を出すとは…万死に値する」
「だっ誰だ!」
「お前の汚い手で無造作に掴んでいる子供の父親さ」
「!?…短剣っ!」
「貴様の背後を取るのは容易いものだ……誰の依頼だ」
「それは言えねぇな…」
「そうか」
「俺の身体には爆弾が仕掛けられているんだぜ?子供拐うのを失敗したら発動付きでな」
「人間爆弾か…こんなことをするのはストレアだな。答え言って居るじゃないか」
突然男の体からカチカチとカウントダウンが始まり爆破した。
「本当にやりやがった、ビワトっ!」
フジトラは魔力を全身に纏いビワトを爆破する前に回収した。
「…ふぅ…どうにかなったな……狙いは【妖精の祝福】か…爆発男は結構な家柄出身だぞおい。これで失敗したから家と家を衝突させる気だな?……すまない私たちではチハヤちゃんの家の問題を片付ける事は出来ないな。それにルトラウス様たちにいつまでも頼ってばかりで居られるか。そろそろ自分たちで解決出来るようにならないと、いつまで経ってもこの世界は………この事は私の胸の中に閉まっておこう」
(そう言えばこの時期の父さんたちと過ごした記憶が抜けていた…この頃から確かにビスカちゃんと過ごした記憶しかない)
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【アシュクラフト邸宅】
《リビング》
「本当に封印してしまうのですね」
「あぁ、そうしないとビワトはいつまで経っても意地を張り続けるだろうからな…1度記憶を封印しよう。例え記憶を取り戻した時に恨まれたとしても構わない」
「鍵はどうするのですか?あなた」
「鍵はルヴェルに持たせる。チハヤちゃんと一緒に封印を施す。そうすれば約7年は何事も無く過ごせるだろう……暫くビワトに構ってやれないがな」
「その事なら安心してフジトラ兄様たち。あたしが責任もってビワトと遊んで寂しい思いをさせないわ。チハヤちゃんの様子はあたしの情報網で随時教えて貰えるようにするわ」
「ビスカちゃん」
「良いの良いの。シアレ義姉様もチハヤちゃんとビワトの為に動くのでしょう?あたしはこう言う時の為に居るのよ?」
「どうやったら記憶が戻るようにしますか?」
「最初はいがみ合って過ごすだろうが…学園では嫌でも絡むようになる。そうして入る内にお互いに気に始めるだろうから。きっかけはソレで良いんじゃないか?」
「フジトラ兄様たら甘いですわ」
「どこがだ?」
「学園でふたりして騒ぎを起こしたりバタバタ倒れたりしたらそれこそ何か有るんじゃないかって疑い出しますわよ。クラスメイトや教師達が」
「この事はモーリン学園長だけには話を通す」
「ならあたしはビワトとチハヤちゃんがそうなっても大丈夫な様に学園の用務員になるわ」
「私も気合いを入れなくては」
「では始めるぞ…ルヴェルすまないな…お前との契約も利用させて貰う」
『仕方ないでしゅ。…人間て大変でしゅね……わたちは初代守護竜からの約束でビワトを見守るだけでしゅの』
「ありがとう。なら始めるぞ」
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【ビワトの深層心理の中】
《深層》
(…ルヴェル…お前は知ってたんだな?)
『えぇ、全て聞かされてたもの』
(これまで大人しくしてたのって…)
『直ぐにこうなるのが見えてたから。変に入ってぐちゃぐちゃにしたくなかったのよ』
(……今まで見守ってくれてたんだな)
『だからこそチハヤに関してわたしは何もしなかったでしょ?』
(確かに…何もしなかったし何も言わなかったな)
『ビワト、どうかしら?スッキリした?』
(ずっとモヤモヤしていたのもが取れたよ)
『喋り方が昔に戻ったわね』
(そう?…少しだけ目覚めるのが怖いよ…現実はカオス空間にいるし)
『ヘタレ…あなたは小さかった時の方が男前だったわよ』
(うっうるさいな……ルヴェル)
『何かしら?』
(いつまでもオレと一緒に過ごしてくれるか)
『あなたの魂が今の体から解き放たれる時まで』
(そうか……そろそろ起きるよ)
『えぇ、後でわたしにもハンバーガー食べさせなさい』
(わかったよ。やっぱりルヴェルは食い気か、サンゴに作って貰うよ)
オレは光に包まれ意識が遠退いて行った。
【無敵の宿屋】
《チハヤの部屋》
「……さて…起き上がらないとな」
「……っ……」
悶えているチハヤの側に向かった。
「チハヤに先を越されたんだな。男として情けない……チハヤ」
「………?」
「オレは君が好きだ。チハヤに先を越されたけと…オレからの口付けを受け取ってくれるか?」
チハヤを押し倒して軽くふれ合う口付けをした。チハヤの首元を見ると大きな呪印がみるみる内に小さくなっていき治まったらしい。俺はチハヤに毛布をかけて離れた。
何か急に眠くなったから部屋にあるソファーの上で眠ることにした。