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いのちの残高  作者: 村井なお
第四章 六桁
15/15

15. 僕は生きていていいのです

 街を歩きます。


 当てはありません。お金がありませんので。


 これが三回目です。


 他の選択肢がありません。


 いよいよこのときが来たようです。


 僕に選べるのは手段だけです。


 刃。炭。薬。火。縄。


 なるべく汚くないやり方にしましょう。


 発見までの時間を短く、かつ、蘇生の見込みは低く。


 お誂え向きに季節は冬。冷たく乾いた空気。


 やはり縄ですね。


 携帯電話が震えました。


 メッセージです。えり緒さんからです。


『シャバの空気は』


『うまいっすか』


『足りなかった分は』


『まけてあげるっす』


『楽しかったんで』


『またやってほしいっす』


『特別授業』


『ただ』


『警察への説明』


『めんどかったんで』


『その分の小遣い』


『もらわなきゃっす』


『今ドコっすか』


『はあと』


 携帯電話の電源を切ろうとボタンに指をかけます。


 と。


 昨晩のうちに他のメッセージが届いていました。


 和葉さんからです。


『授業料、振り込みました』


 郵便局へ急ぎます。


 ATMにカードを差し込みます。


 口座の残高が六桁になっています。


 久しぶりに見る数字です。


 メッセージはまだありました。


『足りるか分からないですけど、貯金全部です』


『もういらないから』


『お姉ちゃんも秀人くんも泣きました』


『和ちゃんが分からないって笑』


『せんせい』


『ちがい多分わかった』


『しにたいとしぬしかないの』


 和葉さんは僕の教えを受けとりました。


 教え子の成長を見届けること。


 それが教育者の本懐です。


 和葉さんはきっと特別になれます。


 秀人くんの特別に。


 何しろ初めて死なせた相手ですから。


 彼の心には深く刻まれることでしょう。


 美桜さんに勝ち目はありません。


 この先どうしようと並ぶことはできません。


 きっとそのくらい特別です。


 確かなことはいえません。


 僕は人を死なせたことがありませんので。


 携帯電話をしまいます。


 郵便局から外に出ます。


 空気は冷たく頬を刺します。


 僕は大丈夫です。


 懐には選択肢が生まれました。


 財布には確かな厚みがあります。


 僕の寿命がそこにあります。


 生命の尊さ。


 人生の可能性。


 僕は生きていていいのです。


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