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3 王族の義務

俺の頭はともかく体は大丈夫だ、という認識で関係者が一致したのか、予定より早くピサを出ることになった。大事をとって、特注の馬車とやらに乗って寝たまま帰るらしい。


屋敷の前に着いた馬車は、なんとなく霊柩車みたいな雰囲気があって、「これ棺が乗るやつじゃないか」と聞いたら半ズボンのピエトロが口を濁していた。まあ道中寝られるんならいいや。


馬車に乗る段になって初めて外に出る。通りの様子はちらとしか見えないが、やっぱり違う時代に来たんだなと実感させられた。


車がないとかそういうレベルではない。通りで不思議な格好の子供が遊んでいたり、生魚をカゴに入れ、スカーフを巻いた女の人がせかせかと歩いていたり。テーマパークで再現するのは可能だろうけど、街中で見る光景じゃない。修学旅行先のピサも古い建物が多かったが、このピサは舗装されている部分も少ないので建物の印象が違ってくる。


でも天気がいいのは気持ちがいい。いつの時代も晴れたら嬉しいっていう感覚は当然なんだろう。


馬車に乗り込むと、すでに名前が思い出せない牧師様と相変わらず半ズボンのピエトロの他に、もう一人乗り込んできた。無表情な中腰中背のおじさんで、アンドレア・モンテコックリと名乗る、伯爵領の農園経営の次官らしい。記憶云々の事情は聞いているという。


「すみません、俺の記憶喪失のせいで、農園経営に問題が生じますよね」


恐る恐る聞いてみる。


「いえ、もともと農園はヴェローナのお住まいから離れたところにありまして、代官を派遣しております。普段パウロ様を実務でお煩わせすることはありません。」


ああ、映画でよく賄賂を受け取っている「お代官様」というやつか。


「では、俺はお飾りですか」


せっかくだし農園経営もやってみたかった気もする。せっかく未来からやってきたのだ、何か知識が活かせるかもしれないし。農学なんて全く未知の世界だったから、具体的に何を知ってるわけでもないけど。


「いえ、パウロ様には3つの大事なお役割があります。第一に、ヴェローナにおける我々の利害を代表していただくこと。第二に、農地改良の予算をとってきていただくこと。これらにはパウロ様のご人脈が重要になってきます。」


アンドレアはテキパキとしているようだ。マントを羽織っているが特徴に乏しく、半ズボンや牧師様みたいな呼び名は思いつかない。


「そして第三に、これが一番大事なのですが、良家の子女と結婚され、お世継ぎを設けてスムーズな継承をしていただくこと」


思わず咳き込んでしまった。パウロ様の職場は農場じゃなくて社交場と寝室なのか。


実を言うと俺はそっちの経験がない。責任は果たしたいと思うが、あまり適任じゃない気もするし、プレッシャーがあると色々な心配もある。


「パウロ様、何やらニヤつかれていらっしゃいますが、重要なことですよ。もちろんご子息の教育、ご令嬢方の結婚も重要になってきますが、いないと始まりません。」


アンドレアはあくまで冷静だ。


「パウロ様がそんなにニタニタしているなのは久々にみました。」


ピエトロが茶々を入れる。半ズボンの分際で言うことをわきまえていないやつだ。俺がピエトロを睨んでいるのを無視してアンドレアが淡々と続ける。


「ピサのゲラルデスカ家はワインの流通ルートを抑えていたのでその面ではいい縁組でしたが、彼らはジェノヴァと仲が悪く、我々の大口顧客と仲が悪くなる危険もありました。破談になったのは残念ですが、絶望することでもありません。」


どうやら、ピサのお見合いのことを言っているらしい。会っていないけど破談になっていたのか。


「パウロ様がもう少し積極的でしたら、うまくいったかと思うのですが。」


ピエトロがまた遮る。従者ってクビにできるんだよね、確か。


「ちなみにパウロ様、女性の経験はおありですか。ヴェローナでの戦績は存じあげますが、ボローニャでの武勇伝までは耳に入りませんので」


半ズボン許すまじ。記憶喪失 ーという設定ー だと言っているだろう。しかし、ピエトロの言い方からして有馬晴樹とパウロ・デッラ・スカラの恋愛事情は似たり寄ったりのようだ。高校でも有馬晴樹の見た目はまあそこまで悪くなかったと思うし、パウロに至っては二枚目なのに、お互い内面が残念なのだろうか。


思った以上に揺れがひどい馬車で、腰が突き上げられるのを感じながら、中世でモテるにはどうしたらいいのか考えていた。あと、返事がないのをみて満面の笑みを浮かべているピエトロは実家に着き次第暇を出したい。


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