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23 名門なら一家に一人はいた郵便係

仮面舞踏会の翌日、書斎にロザリナ様がパウロに出していた手紙を並べてもらって、一通り読み通した。どうやら信仰深い人らしく、聖書を引用する文言が多いが、色恋の香りがするものは一切ない。なんというか清潔な感じの手紙ばかりで、怪しいところがないんだよね。無機質だ。


カプレーティ家に俺が婿入りするにあたって、障害になりそうなのはロザリナ様とパウロの間にあったという密約。内容を知りたいけど忘れたというとショックだろうし。


「ピエトロ、フォスカリさん、パウロとロザリナ様の間にあったという約束、何か聞いてない?」


二人とも首を振る。


「家のものはパウロ様への私的な手紙は開きませんでしたので。」


執事のフォスカリは人の良さそうな小太りのおじさんという外見で、アンドレアやストルネロ夫人と比べると口数が少ない。アンドレアほど特徴がないわけではないけど、家令のマリーノ が大久保利通風ナイスミドルなだけに、若干影が薄くなっている気がする。


「ロザリナ様とパウロ様は時々文の往来がありましたが、そんなに頻繁というわけでもなかったですよ。」


ピエトロは今日も半ズボン。それ以外に特にコメントすることはない。


「妹のリヴィア様にそれとなくお聞きになっては。パウロ様とも親しくされていると聞きましたが。」


フォスカリさんはリヴィアに直接会ったことがないに違いない。あの子に話したら「お姉様、パウロ様が誓いを忘れてしまったそうよ、やっぱりパウロ様は私と踊る運命なのよ。」とか言い出すに決まっている。


「あの子は悪い子ではないのだろうけど、きっと秘密が守れないよ。」


「いえ、パウロ様、逆に言えばちょっと水を向けるだけで色々話してくれるかもしれませんよ。」


確かにリヴィアは口数が多かった。「踊りましょう」以外の発言はあまり記憶に残っていないけど。ちょっとそれっぽいことを聞けばベラベラ話してくれるかもしれない。それに密約が「禁欲的」とかなんとか怪しい言葉を使っていたリヴィアは何か知っていたようだったから、ちょっと探りを入れてみることにする。


「7月29日の土曜日に、二人で一緒にピクニックに行きませんか。」という内容の手紙を、ピエトロに頼んで出してもらった。手紙といっても郵便局なんてないので、ピエトロがそのまま向こうの家まで届けるんだけどね。ピエトロには悪いけど、ロザリナ様が手紙をインターセプトする心配がないので、郵便より安心かもしれない。


午前中のうちに短い返事がきた。「嬉しいです。それでは一緒にジュ・ド・ポームをしましょう。」


「ジュ・ド・ポームってなんなの?」


「その名の通り手のひらでボールを叩いて、柵の向こう側の相手の陣地まで返すフランスの遊びです。あちらのルイ王太子が気に入って広めたのをきっかけに、イタリアでも流行になっております。」


フォスカリは意外と詳しかった。「その名の通り」ってなぜなのか分からないけど、この人はフランス語ができるのかな。パウロ様も自称フランス語話者だったのに全然入ってこない。


「いや、最近では平たい革手袋をするのが流行りらしいですよ。屋外が一般的ですが、ルイ王太子は四方を壁で囲まれた専用のコートを作らせたそうです。」


へえ。そういえばピエトロは流行ごとに敏感だとマリーノが言っていた。なるほど、つまりテニスか。ラケットはないみたいだけど、革手袋で打つのはむしろ楽しそうだし、練習すればできるようになるかもしれない。リヴィアは前回一緒に踊ってあげられなかったし、週末は思い切り遊んであげよう。


「よし、体も鈍っているしちょっと素振りしてみようかな。」


「スブリとは?」


フォスカリが不思議そうだ。


「実演しようか、こうやって・・・」


「フォスカリさん、賭けてもいいですがパウロ様は当初の目的をすでに忘れていますよ。」


ピエトロはパウロ様を格好悪く見せるのが相変わらず好きなようだ。


「ピエトロ、日時を指定する手紙をさっさと出してきて。」


まさか、当初の目的を忘れるほど俺も馬鹿じゃない。確かロザリナ様関連の何かだったはずだ。


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