わたしの知っている黒色は、
「よしっ、決まりだな」
空欄にはわたしたちの名前が埋められた。
委員長 ケシ
保健係 キエン
雑務係 ムエン
「僕、雑務係とか、やだなぁ……」
ムエンがぼやくと、即座にキエンがつっかかる。
「ムエンにはぴったりよ!最高!」
向日葵は高らかに笑う。笑うと、花びらが揺れて、金色の花粉がひらひらと降ってくる。小さなつぶが、一つづつ、一つづつ、しっかりと光り輝いている。よかった、と思った。元のキエンに戻った。
「ケシは委員長がんばってね」
ムエンが言う。きれいな黒髪がさっと揺れた。その黒色。わたしの知っている黒色は、
「なんだか楽しくなってきたー!ムエンがいるのは嫌だけど、ケシがいたら、絶対楽しいって!黒組でよかった!」
腰まである黒髪が、キエンに同調するように、わずかにはねた。その黒色。わたしの知っている黒色は。
チュウギが二人の声を片手で制した。
「三人の中で、寮に住むというやつはいるか?式のあとは基本的に、寮に住むやつはその説明を受ける、自宅から通うやつは解散なんだが」
わたしたちは一同に首を縦に降った。つまりは、全員自宅から通う者ということだ。
「珍しいな、ほとんどのやつが寮なんだぞ。まあそれはいいとして、もう用事はないからお前ら、帰ってもいいぞ」
「やったー!」
キエンがすぐに叫ぶ。
「ねえねえケシ、この後なんか用事ある?暇?」
「言い忘れてたが」
チュウギは思わせぶりにキエンの方を振り返る。
「ケシはこの後、代表会議に行ってくれ。一年生の各クラスの委員長が集まる。何か決め事をするわけではないが、一応代表同士の挨拶をしていた方がいいだろうということでな、ケシ、すまんがそっちの方に行ってもらえるか?キエンは残念だったな」
「分かりました」
わたしがそう言うと、キエンが腕にすがりついてきた。
「ケシ、ケシ、また会えるよね?また明日だよね、ばいばい」
わたしの首元で、キエンの黒髪がひらりと踊った。少しくすぐったさを感じた。
「また明日ね」
「ケシ、代表会議頑張ってね!」
ムエンがわたしからキエンを剥がしにかかっている。声には出さずに、口だけを動かして、ごめんね、という形をわたしに伝えた。わたしはそれを真似して、いいよ、と伝えてみたかったけれど、上手くいった気がしなかった。声がないのに、言葉が伝わるなんて信じられなかったから。それでもムエンは、わたしの透明の声を読みとってくれたのか、にっこりと微笑んだ。微笑んだとき、黒い髪の毛が頬に触れた。
わたしの知っている黒色は、どれも嫌な感じがした。不快感。どうしてそう感じるのか、なぜそれが黒色なのかは分からない。けれど、黒色は嫌な色、と勝手に自分の中でイメージを作ってしまっていた。でも、違った。キエンやムエンがいる。二人のもつ黒色は、嫌な感じがしない。むしろ、なんだろうな、いい感じ、って言ったら単純だけど、世界中の「いい」を全部集めてスープにしたとき、そこから漂ってくる香りは、とてもいい匂いなんだろうな。
代表がつどう部屋は、校舎から離れた、別の古びた建物の中にあった。黒組と遜色ないほどの古さ。すうっと埃が、鼻に舞い込んだ。
しっかりとした木造りの扉に、金色の取っ手が豪華に拵えられていた。それも、古びていて、ところどころが剥がれかかったり傷ついたりしている。忘れられている、そんな言葉が思い浮かんだ。取っ手を掴み、思いっきり引いた。