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カミヒトエ  作者: 三日月 翔
7/10

わたしの知っている黒色は、

「よしっ、決まりだな」

空欄にはわたしたちの名前が埋められた。


委員長 ケシ


保健係 キエン


雑務係 ムエン


「僕、雑務係とか、やだなぁ……」

ムエンがぼやくと、即座にキエンがつっかかる。

「ムエンにはぴったりよ!最高!」

向日葵は高らかに笑う。笑うと、花びらが揺れて、金色の花粉がひらひらと降ってくる。小さなつぶが、一つづつ、一つづつ、しっかりと光り輝いている。よかった、と思った。元のキエンに戻った。

「ケシは委員長がんばってね」

ムエンが言う。きれいな黒髪がさっと揺れた。その黒色。わたしの知っている黒色は、

「なんだか楽しくなってきたー!ムエンがいるのは嫌だけど、ケシがいたら、絶対楽しいって!黒組でよかった!」

腰まである黒髪が、キエンに同調するように、わずかにはねた。その黒色。わたしの知っている黒色は。

チュウギが二人の声を片手で制した。

「三人の中で、寮に住むというやつはいるか?式のあとは基本的に、寮に住むやつはその説明を受ける、自宅から通うやつは解散なんだが」

わたしたちは一同に首を縦に降った。つまりは、全員自宅から通う者ということだ。

「珍しいな、ほとんどのやつが寮なんだぞ。まあそれはいいとして、もう用事はないからお前ら、帰ってもいいぞ」

「やったー!」

キエンがすぐに叫ぶ。

「ねえねえケシ、この後なんか用事ある?暇?」

「言い忘れてたが」

チュウギは思わせぶりにキエンの方を振り返る。

「ケシはこの後、代表会議に行ってくれ。一年生の各クラスの委員長が集まる。何か決め事をするわけではないが、一応代表同士の挨拶をしていた方がいいだろうということでな、ケシ、すまんがそっちの方に行ってもらえるか?キエンは残念だったな」

「分かりました」

わたしがそう言うと、キエンが腕にすがりついてきた。

「ケシ、ケシ、また会えるよね?また明日だよね、ばいばい」

わたしの首元で、キエンの黒髪がひらりと踊った。少しくすぐったさを感じた。

「また明日ね」

「ケシ、代表会議頑張ってね!」

ムエンがわたしからキエンを剥がしにかかっている。声には出さずに、口だけを動かして、ごめんね、という形をわたしに伝えた。わたしはそれを真似して、いいよ、と伝えてみたかったけれど、上手くいった気がしなかった。声がないのに、言葉が伝わるなんて信じられなかったから。それでもムエンは、わたしの透明の声を読みとってくれたのか、にっこりと微笑んだ。微笑んだとき、黒い髪の毛が頬に触れた。


わたしの知っている黒色は、どれも嫌な感じがした。不快感。どうしてそう感じるのか、なぜそれが黒色なのかは分からない。けれど、黒色は嫌な色、と勝手に自分の中でイメージを作ってしまっていた。でも、違った。キエンやムエンがいる。二人のもつ黒色は、嫌な感じがしない。むしろ、なんだろうな、いい感じ、って言ったら単純だけど、世界中の「いい」を全部集めてスープにしたとき、そこから漂ってくる香りは、とてもいい匂いなんだろうな。

代表がつどう部屋は、校舎から離れた、別の古びた建物の中にあった。黒組と遜色ないほどの古さ。すうっと埃が、鼻に舞い込んだ。

しっかりとした木造りの扉に、金色の取っ手が豪華に拵えられていた。それも、古びていて、ところどころが剥がれかかったり傷ついたりしている。忘れられている、そんな言葉が思い浮かんだ。取っ手を掴み、思いっきり引いた。

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