ずっと一緒だ(ⅱ)
階段を降りながらムエンが小さな声で言った。
「チュウギ先生、ダンディーでちょっとかっこよくない?」
するとキエンが言い返す。
「ダンディーでもおっさんはおっさんよ!わたしは若くてイケメンの先生がよかったなあ」
その声量ではチュウギに聞こえてしまう。
「おーいキエンよ、俺はこれでも昔はイケメンでモテモテだったんだぞー!」
思った矢先にチュウギの声が飛んできた。しかしキエンはそれに全く屈しない。
「なんか埃っぽいのよ。教室がああだから仕方ないのかしら?」
それよりキエンが徐々にわたしの距離とを縮めてきているのが気になって仕方ない。ついには肩と肩が触れ合うくらいになり、キエンはきらきらとした瞳でわたしをじっと見つめてくる。それにしても不思議だ。こんなに薄暗い階段の中に、瞳を輝かすだけの明かりなんてないのに、キエンの瞳はひとり輝きを放つ。
「チュウギ先生、結構黒いよね」
何か発言を求められている気がして、適当に言ってみた。その瞬間、キエンの肩が少し離れた。
「黒い?結構色白じゃない、あの先生。ケシってふしぎー!」
いや、肌のことじゃなくて、と言おうとしたが、ムエンの顔を見てやめた。キエンはともかく、ムエンまでキョトンとしていたからだ。まさか、分かってない?あんなに嫌な空気の中でよく二人とも耐えられるな、とは思っていたけれど……。
「わたしって何色に見える?」
試しに聞いてみた。
「それって性質のことじゃないよね?うーん、何色が似合うかってことかな?雰囲気が何色かってことかな?」
「僕は水色とか黄緑色とか、そういう色が似合うと思うよ」
ムエンが隣に来て言った。自己紹介のときのおどおどとしたかんじはなくて、しっかりとわたしの目を見ている。
「ムエンはちょっと目がおかしいんじゃない?わたしは白色ぽい感じがした!」
なるほど。わたしの周りの空気には色がないから、キエンもムエンも、空気を見て言ってるわけじゃない。
キエンはついに腕を組んできた。
「ねえねえ、わたしは何色っぽい?」
ここは、見たままを答えよう。
「オレンジとか黄色っぽい色と紫色がいろいろ入り混ざったかんじかな」
そう、さっきから疑問だった。キエンもムエンも、他の生徒とは違って、性質の色をしていなかった。ムエンは緑色と灰色が混ざったような感じだ。
「えーいい色じゃん!よかったぁ」
キエンはわたしの手を引いて階段を飛び降りた。その先には、先程まで待っていた広場が。大勢の声と空気の混合物が、風となってわたしの顔面を直撃する。
入学式だった。