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カミヒトエ  作者: 三日月 翔
2/10

クラス分け

門をくぐり、中庭を数分歩くと校舎の入り口があった。入り口は解放されていて、脇には「第54回入学式」と盛大に書かれた縦看板があった。それらを素通りし、入り口をくぐる。

「うわぁ」

わたしたちは同じタイミングで声を上げた。そしてお互いの声にびっくりしたかのように互いに顔を見合わせる。

「思ってたより広いんだな」

男の言う通り、そこは外観からは想像出来ない程広かった。もちろん外観も大きな建物だったが……何かこう、建物の中というかんじがしないのだ。世界、そう世界だ。世界という莫大な空間がある。外とは全く別の、ここだけで完結できるほどの広い場所、空間。

世界とはいえど、そこはしっかりと学校だった。前方に広場があり、その奥に檀になったステージがある。さらにその奥は階段があり、2階へと繋がっている。とにかく、とてつもなく広い。

「新入生の方は、やってきた順にこちらに並んでください!」

と、おそらく生徒であろう人が叫んで誘導している。

「とりあえずあっちに並ぼう」

男が独り言のように言った。言われずともそうするつもりだった。

「前から10人ずつ順番に部屋に入ってもらいます。部屋は全部で10個あり、それぞれ1から10までの番号が扉に書いてあります。我々の案内に従って部屋に入ってもらうので、順番が来るまでは並んでいてください。待っている時に近くの人と話しても構いません」

新入生が全員集まったところで、先程の生徒がそうアナウンスした。それまで静まり返っていた空間は、一気に喧騒で溢れかえった。

「そういえばお前名前なんていうんだ」

「ケシ」

「ケシ……か。聞いたことない名前だな。俺はコウンだ。よろしくな」

わたしはなんて返せばいいのか分からなくて、少しの間だまって男を見つめていた。

そういえば、

「そういえば、ええっと、コウン?っていうのね……すごく綺麗な色の瞳をしてる」

地面の底にはマグマというものがあるらしいけど、マグマがもし地面から浮上して、結晶のように固められたら、そんな色になるのかもしれない。わたしはマグマなんて見たことがないけど、マグマがとてつもなく熱いってことは知っている。彼の瞳には熱の熱さのようなものがあった。ただ、それは情熱の熱さとは違って、静かに燻る。いつか、誰かにその狼煙を見つけてもらう日まで絶えることはなくて、でももし見つかってしまったら自分もろとも燃やし尽くしてしまいそうな、そんな力が感じられた。

「それは……よく言われるが、俺はあまりそうは思わない。自分のこの目が嫌いなんだ」

コウンは顔を曇らせて、ついでに瞳も曇らせて、顔ごと目を逸らした。その目を見ながら思った。たとえ曇りがかってしまっても、その奥にあるものは消えなくて、ずっと存在しているのだと。誰からも忘れられても、燻り続ける命は宿っている。

「次10人、7番の部屋に入ってください!」

次はわたしたちだった。


部屋は薄暗く、すべての視認できるものが、天井にたった一つある小さな明かりだけで支えられていた。わたしたちの中心には、先生と思われる中年女性と、ふしぎな装置があった。その装置は天井近くまでの高さがあった。全員が揃い、扉が閉まるのを確認して、女性は口を開いた。

「ではこれから、あなたたちの性質を調べます。本校では、性質ごとにクラスを分けます。そして、クラスが決まってから入学式に移っていただきます」

言い終わると、女性は手元のボタンを押した。その途端、装置が発光した。

「光った……」

女性はわたしたちの驚きを手で制す。

「初めに、簡単にではありますが、性質の説明をします。わたしたちは、生まれた時から人によって性質が違い、その性質は全部で5種類あります。例えるならば血液型のようなものです。しかし、血液型とは違い、性質は、その性質によって日常生活の送り方が違ってきます。学校は、性質の違いを学び、そして性質ごとに自分に合った生き方をしていく、その方法を学ぶ場所です。

今からこの装置に入って、自分の性質を知ってもらいます。装置に入ると、今は白い光ですが、あなたがたの性質の色へと変化します。……そうです、性質の違いは色で呼び分けられます。それぞれ、赤、青、緑、白、黒といいます。注意していただきたいのは、白の方だけ、この装置の光の色が変化しません。では端の方からどうぞ」

そうしてちょうど端にいた少年が装置へと歩みを進めた。装置へと入った瞬間、装置は緑色に光り輝いた。

「あなたは緑クラスです!このまま奥の扉から教室へ移ってください」

初めに呼ばれた少年から数えて、コウンは9番目、わたしは一番最後の番だった。

もうすぐコウンの番だという時、コウンが小声で言った。

「お前と同じクラスだったらいいな」

コウンは僅かに笑ってみせた。そうしてコウンの番がやってきた。

「……たぶん違うクラスだよ」

彼にそう返そうとしたけど、わたしはただ装置へと歩み寄る彼の背中に言葉をぶつけただけだった。

コウンは、なぜだか自分で色を見ようとせずに、目をつぶっていた。光はコウンが入ってもとくに変わった様子はなく、初めと同じようにひとり輝いていた。

「あなたは白です!白のクラスへと移動してください」

装置から出た時、コウンはちらりとわたしの方を見たが、女性に背中を押され、去って行った。

分かっていた、なんとなく。コウンが白だということ。なぜならコウンの周りの空気が白い色をしていたから。

今までに呼ばれた生徒の色も、生徒の周りの空気の色と一致していた。空気の色はきっと性質の色なんだと、この僅かな時間の中で、ほとんど確信していた。実際その通りになっていた。じゃあわたしの色は、「最後の方、どうぞ」

不思議な感覚だった。空気とも違う。水?水の中はこんな感覚なんだろうか。光が満ちている。真っ白な光が。

しかしその光はわたしの身体を認知すると同時に、消えた。

瞬きをする。何も見えない。瞬きをしているのに、目を閉じているのと目を開けているのとで全く差がない。真っ暗な景色。

「あなたは黒のクラスです。早く移動してください」

手を掴まれたかと思うと、装置から引きずり出された。

黒。それがわたしの色。

一つ当てはまらないとすれば、わたしの身体、つまりわたしだった。他の人にあってわたしにはないもの、それは空気の色。

わたしは何色でもなかった。わたしには色がなかった。

だから、もしかしたら、黒なんじゃないかなあと思っていた。わたしが見ていた中で、黒と言われた人はなく、みんなそれぞれの色の空気を纏っていた。わたしに色がないのなら、今までに言われなかった色、それが黒だ。

廊下に沿ってずらっと教室が並んでいた。手前から順に、白、青、赤、緑。緑が一番奥だ。じゃあ黒はどの教室なんだ?

緑の教室の奥に暗い階段があった。古びていて、埃くさい。階段の壁には黒の教室の行先を示す矢印があった。どうやら、この階段の上にあるようだ。

そうして上がった先は、黒の教室だけで完結された世界だった。下の階のようにずらっと並ぶ教室などない。例えるならば屋根裏にある倉庫、家からは完全に隔離された場所。そういった感じだった。

その屋根裏倉庫からガラッとドアを開けて、二人の人間の顔がこちらをじっと見つめていた。女の子と男の子。二人ともよく似ている。

「もしかして、黒の子だったりするっ!?」

女の子が下の階まで響くんじゃないかというくらいに大声で叫んだ。

「ちょっと、ここ狭いんだからそんな大声出さなくても聞こえるよ」

男の子が女の子をたしなめた。そうして男の子がくりくりとした瞳でわたしを見る。

「はじめまして、黒の子だよね?」

「……うん、そうだよ」

わたしは少し気圧されていた。

「わぁ、本当に?やったー!わたしたち以外にもいたんだね!」

女の子の顔がぱっと明るくなった。

「わたしたち以外にもって、どういうこと?」

そう言うと、二人ともいっそうくりくりとした瞳で、あふれんばかりの笑みを抑えられないといった顔で、同時に言った。

「つまり、黒のクラスは僕ら三人だけだってことなんだ」

「わたしたち三人で一つのクラスなんだよ!やったね!絶対楽しいじゃん!」

同時に別々のことを言った。

背後から足音が聞こえた、古くさい階段だから変に響いてくる。足音の主は言った。

「お前ら、席に着け。名前を確認するぞ」

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