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「港町の或るギルド」  作者: アルジュナ
5/20

「代償」

歓迎会の翌朝 ー

「ふぅぁ…ぅ…眠い…」新しい匂いのする部屋で起きた僕は、未だしょぼしょぼする目を擦って広間へと降りた。昨晩は孤児院に送る手紙の内容を考えていたから、ちょっと寝不足だ。

「…お腹空いたな…」僕は一先(ひとま)ず、厨房へ向かった。日がそんなに登っていないからか、床はひんやりと冷たい。

厨房の戸を開けると、なにやら香ばしい匂いが流れてきた。

「あぁ、おはよ〜ジュナくん。眠そうだね」

まだボーッする頭をフラつかせて欠伸(あくび)をすると、カウンターの方から、声が聞こえた。

「おはようございます、藍珈さん」

声の主は藍珈さんだった。彼女は、このギルドで最も僕と歳が近い団員で、主に錬金術師(アルケミスト)としてこのギルドに貢献しているらしい。歳が近いからか、昨晩の歓迎会ではすぐに意気投合できた。やはり同世代の人がいると心強い。

「皆さん、朝は遅いのですか?」僕は広間の閑散とした様子を見て訊ねた。

「あぁ…それね。普段はこの時間帯に起きてる人多いけど…今日は居ないね」

何かあったのだろうか…。若干の心配が芽生え始める。「僕、ちょっと見てきますね」そう言い、階段を駆け上がった。

二階に着いた僕は「取り敢えず、ツァーンさんを起こそう」と、右に曲がってすぐのドアでノックした。「ツァーンさん?朝ですよ〜」

「……」

だが、返事はない。他の部屋からも音はせず、廊下はシンと静まり返っている。

「は、入りますよ?」何も無いと良いのだが…。僕はゆっくりと扉を開けた。

「ツァーンさ……ツァーンさん!?し、しっかりしてください!」

至る所が青い部屋の中では、ツァーンさんが、部屋と同じくらい青い顔で床にうずくまっていた。僕は慌てて駆け寄り抱き起こした。

「うぅ…気持ち悪い…」ツァーンさんは掠れた声でそう呟くと口をぎゅっと結んだ。

「と、取り敢えずトイレ行きましょうか」僕はそのままツァーンさんの肩を担ぐ状態で立ち上がった。彼の体重が僕の両肩にのしかかる。長身で筋肉質なため、かなり重い。なんとか立つと、一歩ずつゆっくりと前進した。

「さぁ、トイレまであと少しです…頑張ってください」僕は冷や汗を流し始めたツァーンさんを励ましながら足を踏み出す。そんな言葉に、彼はウンウンと声を出さずに頷いた。

そうして、なんとかトイレの前にたどり着いた。

「やっと着きました…さぁ……あれ?」取手を回したその時、

「開かない!?まさかっ…」扉が開かないことに気がついた。ロックがかかっている。『うぅっ…』中では、誰かが苦しそうに呻いていた。既に先客がいたようだ。

その時、

「そろそろっ…ヤバい…っ…」横で青い顔をしていたツァーンが生まれたての子鹿みたいに震えてきた。彼の頰がどんどん膨らんでいく。

「ちょっ…まだ待ってください!ここで出さっ…いやぁぁぁぁっ!?」

その朝、一人の少年の叫びが、アルファネリア上空に打ち上げられた。

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