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「港町の或るギルド」  作者: アルジュナ
4/20

「歓迎会」

その晩、ランプの炎が楽しげに揺らめく広間に、乾杯の音頭が響いた。

「ええと、ジュナくんの入団を祝しまして、乾杯!」ツァーンはそう言うと、ビールジョッキを頭上に高く掲げた。

「かんぱーい!」それと同時に、ギルドの皆んなも各々(おのおの)の飲み物を上げた。

「か、乾杯!」少し遅れて、僕もオレンジジュースを掲げる。

テーブルに目を向けた僕は、唾をゴクリと飲み込んだ。豪華絢爛(ごうかけんらん)な食べ物たちの中央に鎮座するローストビーフは綺麗な桜色で、その周りに点々と囲む海老は見事な猩猩緋(しょうじょうひ)に染まっている。

これは参った。あれよあれよと目移りして、何から食べれば良いかわからなくなってしまう。僕はソファからちょっと身を乗り出した状態で固まっていた。

「おや?食べないのかい?」隣の席から顔を覗かせてきたのは赤毛の男だった。

「あぁ、僕はコノエ。みんなからオジキって呼ばれてるよ」コノエさん、通称オジキはビールジョッキ片手によろしく、と気さくな笑顔を見せた。

「は、はい。よろしくお願いします。コノエさん」僕が頭を下げると、そんな畏まらなくていいよ、と笑いかけた。

「それに、君も今日から仲間なんだし、オジキとかオジキさんでいいよぅ」

「じゃあ、オジキ…さんで」僕は後者の方を選んだ。流石に、年上の人にさん付けしないで呼ぶのは失礼だ。

「オッケー!それで、何か食べないの?急がないと全部なくなっちゃう…っていうか、現にロブスターは、エリシャちゃんが一人で全部食べちゃったみたいだけど…」

その言葉にテーブルを見ると、さっきまで有った赤色の山が、いつのまにか消失していた。そして、その横には黒髪の乙女が幸せそうに、口をモゴモゴと動かしている。彼女の口からは真っ赤な海老の尻尾が飛び出していた。

嘘だろ…まだ10分位しか経ってないのに、あの量を一人で…!?

「まぁ、誰でも美味しいものは好きだから…ね?」オジキは引きつった笑みで言った。

「で、ですね」

僕は全部取られてしまう前にハンバーグを選んだ。ロブスター、食べてみたかったな…。

「あぁ、いたいた!」

ちょっと残念がっていると、口の周りに赤い殻を付けたエリシャが何かを持ってやって来た。

「え?エリシャさん?何か用ですか…はっ、それは!?」彼女の手に持った物を見て、僕は目を輝かせた。「ロブスター!?さっき全滅したはずじゃ…」

「実は、一つ取っておいたんだよ」エリシャはニッコリと笑った。「この街の水産業は国内トップだからね。海産物はどれも美味しいんだよぅ〜。と言うわけで、今日の主役でもあるジュナくんにお祝い!」

エリシャはそう言うと、僕のプレートにロブスターを置いた。

「え、良いんですか?」

「うん、良いよ。ホントはちょっと(かじ)りたいけど…じゃなくて、ちゃんと味わってね!」一瞬本音が垣間見えたが、それは無視するとしよう。僕はありがたく受け取った。

「はい!ありがとうございます!」こうして僕は、念願のロブスターを入手できたのである。



その後、ギルドのメンバーと楽しく料理を食べ終えた僕は、自室に籠ってしまった姉への差し入れの料理を取っていた。

「エリシャさんが(ほとん)ど食べちゃってるけど…何かないかな…」エリシャの食撃は他のテーブルまでに及び、大半の席の料理は全部持ってかれてしまっていた。因みに、そのエリシャさんは満腹になった!とデザートのアイスを食べている。本人曰く、デザートは別腹なのだとか。

「お、良かったぁ…まだ残ってた」

カウンターの横を通ると、肉まんが一個、残っているのを見つけた。

僕は、まだ生き残りが居たことに安堵して手を伸ばす。だが、その肉まんには、僕以外の手もあった。

「……あ」

微妙な間が流れたのち、相手が先に口を開いた。「あ、ごめん。ジュナも欲しかったんか」その相手、ツァーンはサッと手を引っ込めると、はにかんだ。「見た目の割によう食うなぁ!」

「え、えぇ!食べ盛りですので!」当然、姉への差し入れとは言えない。それにしても見た目の割とは…

僕は咄嗟に出た言葉と笑顔で誤魔化すと、辛子を取りに行くと見せかけて階段をそっと上がった。彼にバレたら渡せないどころか僕もペナルティだろう。

廊下を歩いている途中、今朝のことを思い出した。

そういえば、まだ ちゃんとお礼を言えてなかったな。普通にありがとう!とかで良いのか…それとも、人相手だったから、もっとこう、丁寧な感じの方が良かったりするのかな…?

どちらにすべきか悩んでいると、姉の部屋の前まで来ていた。

ど、どうしよぅ…。丁寧な方だと実の姉弟なのに変だなとも捉えられる。ぐぬぬ…どうすればいいんだ…。ドアの前で頭を抱えていたその時―

「何かお悩みかな?ジュナくん?」急に耳元で囁かれて、僕は思わずひっくり返った。

「あっ…つ、ツァーン…さん…」

驚いて瞑った目を開けると、ツァーンの笑顔が僕を見下ろしていた。

「なんか怪しいと思ったら…やっぱり、その肉まんはレンに渡すもんやったのか」バレてた…。観念して僕はむくりと起き上がる。

―だがしかし!

「ええ、確かに渡そうとしています。ですがこれは、今朝助けてもらったお礼としてです。決して、ペナルティが可哀想だからとかじゃありません!」

流石にこの言い訳は言っててそこそこ辛い。勿論、こんな詭弁(きべん)が通用する筈ない。ギルドにおいて、掟は絶対。ペナルティを受けた人を助けて、自分もペナルティを受けるとか嫌だ。それでも…!

「え、あぁ…そういうことやったんなら、仕方あらへんなぁ…」ツァーンは異議を唱える様子もなく、ただキョトンとして頭を掻いた。

「………え?良いんですか?」予想とは180度違う答えに、僕は唖然として聞き返した。

「んまぁ、さっき自治団の人たちから話は聞いたし…そのお礼なら大丈夫やと思うで?」その姿はあんまり釈然としていないようだ。大丈夫やと思うって…。

まぁでも、これで堂々と姉に食べ物を渡せる。

「あ、ありがとうございます!」僕は、そんじゃね〜と階段を降りていくツァーンに深くお辞儀をした。


拝啓、田舎の兄弟姉妹、そして神父様とシスターさんへ。どうやら、僕たちの上司は良い人みたいです!

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