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恋より食い気の妖精姫②

こんにちは、加乃です。

1話目をご覧になって頂きありがとうございます。

オリジナルを書くのはとても久し振りでドキドキしていますが、読んで下さる方がいてとても嬉しいです。

お仕事の関係上、どうしてもムラのある更新になってしまうのですが、また読んでいただけると喜びます。

右手にタコス、左手にエドワードの手を握り、セレスティアはご満悦の表情で大通を散策した。

エドワードもまた、セレスティアと繋いでいない左手には串焼きとジュースの入ったカップを持っている。

「エドワード、串焼き食べたい!」

あーんと口を開けるセレスティアに親鳥に餌を強請る小鳥を思い浮かべつつ、左手の串焼きを口元に運んでやる。

ぱくりと食らいつくセレスティアは由緒ある侯爵家の姫君としてどうかと思うが、エドワードにしても街の住人達にしても今更だ。

「おいしーい!」

それよりも、にこにこと本当に美味しそうに笑う満開の笑顔の方が大事である。

「はい、エドワードも」

一生懸命背伸びして、頭一つ分以上背の高いエドワードの口元にセレスティアもタコスを運ぼうとする。

少しかがんでそれを一口食んで、

「ん、美味いな」

「ねー!」

エドワードが美味いと言うのにセレスティアのご機嫌度合いがさらに上がる。

美味しい物を美味しいと一緒に食べられることは実に楽しい。

セレスティアは良く言えば純真で天真爛漫、悪く言えば鈍感で子供っぽい。

容姿の愛らしさも相まって「妖精姫」と称されて民衆からも愛されているが、たまに優秀な姉と比較されてしまうこともある。

姉の名はレビオラ・ニゲラーテ。

神秘的な美しさと学園きっての才女と誉れ高かった豊かな知性、聖術と魔術の両方を操れる能力の高さをもつレビオラは、社交界では「精霊姫」と名高く、若い娘でありながら、諸侯達も敬意を示す程の存在である。

セレスティアとは入れ違いで学園を卒業したばかりのレビオラは、まだ婚約をしていない。

ニゲラーテ侯爵家には姉妹の他には子供がいないため、必然的にレビオラが婿を取る形になる。

しかし、彼女は自分には早いからと数多の縁談を断り続けている。

先にセレスティアが幸せになる姿を見てからでないと自分のことなど考えられないとも添えて。

下手をすると社交界の口さがない者達からあれこれ言われそうなものだが、そんなストイックなところも良いと女性陣からも人気が高い。

無論、在学時代は教師達の自慢の生徒の一人だった。

それ故に、どうしても卒業したばかりの姉と入学したばかりの妹を比べてしまうのだ。

セレスティアは座学が得意な訳ではなく、かといって運動神経は思わずクラスメートたちが顔を抑えてしまう程。

聖術も魔術も発露していない為、伸びしろがないわけではないのだが、良くも悪くも未知数である。

実を言えば今日も学園で教師から少しばかりのお小言を貰ってしまったばっかりだ。

数術などなくなってしまえば良いのにとは、セレスティアの正直な気持ちである。

×の多い小テストを丸めてポイっとしてしまいたいところだが、侍女が鞄を預かっている以上それは出来ない。

そんな落ち込んでいた気分も美味しい物を食べれば忘れてしまう。

羊肉に絡まったおじさん特製の秘伝のタレが、肉を飲み込んだ後も口の中で後味を主張する。

それは決して不快ではなくて、時間差でやってくる香草の風味が肉の臭みを残さずむしろ爽やかなくらいだ。

「ほら」

口元に運ばれたストローを加えて、中のジュースを吸い込む。

街の住人たちは和気あいあいと仲が良く、屋台の店主同士も一緒に商品開発に勤しんだりしているらしい。

羊肉の串焼きを購入したセレスティアにジュース屋の女店主が、そのタレにはこれが良いと勧めてくれたのはシトラスが利いた柑橘系とマスカットのジュースだった。

成程、後味の香草の風味と程よく調和する。

ちなみにタコスの具材はそのジュースに合うものならば……とタコスの屋台の店主のお勧めである。

こちらもパクリと頬張れば、ジュースの甘さと喧嘩をせずに口の中いっぱいに広がる肉汁と薬味の旨み。

教師のお小言もこれから待つであろう両親と姉のお小言も全てを忘れられる素晴らしさ。

「美味しいね、エドワード」

「ああ」

泣いたカラスがもう笑うとは、どこか東の方の国の言うことだったと思うが、こういうことを言うのだろうと、エドワードはセレスティアと繋いだ手を軽く揺する。

祭日だからと午前だけで引けた授業にいつもならはしゃぐセレスティアが落ち込んでいたのを気にして街歩きに誘ったのはエドワードだ。

そうでなくても屋台の店主達と気心が知れるくらいには街に降りている二人であるが、今日は特に賑やかな日だ。

セレスティアの気持ちも晴れるだろうとは思っていたが、心配はなさそうだとホッとする。

「お前はやっぱり笑ってた方が―――――」

「可愛いと思うぞ」と、口説くまではいかなくとも少しばかり甘い言葉を囁こうと口を開く。

―――――が、

「あー!あれ美味しそう!エドワード!最後にアレ買っても良い!?」

甘やかな囁きは当のセレスティアの歓声によって掻き消された。

指さされた先には焼いたマシュマロ。

成程、美味しそうではある。

「……はぁ。分かった、今日はアレで最後だからな」

「わーい!ありがとう!」

諸手を挙げて喜ぶ婚約者に溜息と苦笑が零れてしまうのは致しかなかろう。

「……って、どうしたの?溜息なんか吐いて」

首を傾げるセレスティアの頭を、

「何でもないよ」

と、既に空になったカップと肉のなくなった串を控えていた従者に渡して空いた手でぐしゃぐしゃと撫でる。

「ちょっ、髪がぐしゃぐしゃになるじゃない!」

「もうなってるよ」

「え!嘘!?」

慌てるセレスティアに手鏡を差し出す侍女を横目に空を仰いでしまうのは、この鈍感な妖精姫を婚約者に据えてから何度目の事か。

そういうところが惚れた一面でもあるので何とも言えず。

「ほら、髪なんか気にしてる場合か?焼き立てを食べるんだろ?」

「はっ、そうだったわ―――――って、もう!エドワードの所為じゃない!マシュマロはエドワードの奢りね!」

「はいはい」

早く早くと手を引くセレスティアに付いていく。

と、

「―――――あのね、エドワード」

「ん?」

「ありがとう」

今日、誘ってくれて。

蜂蜜色のウェーブがかった髪から覗く耳が赤い。

エドワードはそれを見て、ふわりと笑った。

「ああ」

焼いたマシュマロは、果物のジュースよりも余程甘かった。




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