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恋より食い気の妖精姫①

はじめまして、加乃と申します。

ゆるりと更新予定です。

少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

陽光穏やかな春の祭日。

プリムジア王国の首都・プリムジアに一人の少女が馬車から降り立った。

蜂蜜色のウェーブがかった長い髪が、ふわりと風に揺れ、きらきらと陽の光に煌く。

真白いとまではいかない薄い肌色の手足はほっそりと伸び、小さな顔に嵌められた対の瞳は大きなアウイナイト。

少女はぱちりと一つ瞬きし、おもむろにその小さな手を打ち鳴らした。

パチン!

「さぁ、美味しい物をたっくさん食べなくっちゃ!」

「……夕飯、入るようにな」

隣に立って苦笑を浮かべる少年は慣れたもの。

街の住人達も常連の変わり者のお嬢さんに威勢よく「いらっしゃい!」と声を掛け始めた。

少女の名前はセレスティア・ニゲラーテ。

愛らしい容姿と純真(といえば聞こえはいいが、要は鈍感)なところから「妖精姫」と社交界で名高く、隣に立つ少年―――プリムジア王国皇太子であるエドワード・プリムジアの婚約者でもある歴とした貴族の姫君である。

一応これでもニゲラーテ侯爵家の次女をやっている。




屋台から漂う魅力溢れる匂いに小柄な身体がふらふらと惹かれて彷徨う。

右手から、

「よっ、嬢ちゃん!美味い串焼きがあるよ!羊の肉にタレを絡めてジューシーだよ!」

とお腹具合を擽る声が掛かれば、左手からは、

「新鮮果物の搾りたてジュースは如何?栄養たっぷり!お肌に最高よ~」

と乙女心をツンツンされる。

右手に羊肉、左手に苺のジュースが良いかしらとセレスティアが心を決めつついると、ジュース屋の二軒隣のお兄さんが負けじと声を掛けてくる。

「生みたて卵と朝に絞ったばかりの牛乳を使ったクレープだよ!苺に薔薇の実、山査子もあるよー!甘いのが得意じゃない人には葉物と腸詰肉を合わせたヤツがおすすめだよ!」

それは何と魅力的。

甘い物は大得意だが、甘くないクレープも吝かではない。

羊肉の串焼きに苺のジュース、果物たっぷりのクレープに葉物と腸詰肉のクレープ。

ああ、それだけじゃない。

セレスティアはまだ大通の入り口に降り立っただけなのだ。

通りの奥はまだまだ続く。

ふわふわのコットンキャンディーを並べる店もあれば、綺羅星の金平糖屋、海鮮を網の上いっぱいに焼き上げる店もあるし、チョコレートの量り売りの店もある。

薄い皮に具材たっぷりのタコス、ピンク色のハムと真っ赤なトマトを挟んだサンドウィッチ、白ワインに付け込んだレーズンに薄っすら透けるシュガーコーティングのボンボンはお土産としてお持ち帰りが決定だ。

「どうしよう!全部美味しそう~!」

「……程々にな」

選べない~と本人にとっては酷く真剣な、周りから見れば何とも微笑ましい悩みにエドワードが肩を竦めて見せる。

「夕飯もだけど、……太るぞ?」

「ちょっ、失礼ね!ふ、太らないもん!」

「どうだかなぁ。今は春だから隠せても、夏になったらヤバイんじゃないか?」

にやにやと「この辺とか」と制服の袖の上から二の腕を摘ままれて、セレスティアは「うっ」と声を詰まらせる。

自覚が0な訳ではないのだ。

確かにここ最近、二の腕やお腹の辺りがぷにぷにっと……。

(き、気のせい気のせい!)

ぶんぶんと首を振って、セレスティアはエドワードの手を振り払った。

「そんなことないもん!それよりいつまで乙女の腕を摘まんでるのよ!」

「いやぁ、摘ままれるだけのものがある方が悪いというか……」

「悪くない~!もう、エドワードなんて知らない!」

ぷうっと膨れるセレスティアとエドワードのやり取りを往来に屋台を構える店主たちは、またやってるよとばかりに目を細めて微笑まし気に見守っている。

プリムジア王国の若き皇太子とその婚約者である愛らしい妖精姫の些細な諍いは城下では一種の名物のようなものなのである。

「まぁまぁ殿下も姫様も、折角の祭りの日に喧嘩なんておやめ下さいよ」

「そうよぉ、それに姫様なんて細すぎて、もっと太った方が良いくらいよ」

「だなぁ、そんな細っこくちゃ殿下の子供も産めないだろ」

「こ、子供ぉ!?」

がっはっはと笑う羊肉の串焼きをひっくり返す親父さんに、セレスティアの顔が真っ赤に染まる。

そんなことは構わずに、馴染みの街の住人たちは、「だよなぁ」「そうねぇ」などと頷いて見せた。

「こ、子供って……そんな……もうっエドワードも何か言ってよ!」

「あー……まぁ、そうだなぁ」

つい先ほどまでの言い争いも何のその、羞恥に顔を赤く染めるセレスティアが縋りつくのをエドワードは好きにさせる。

真っ赤な顔で見上げてくる少女は贔屓目を抜かしても可愛い。

アウイナイトの大きな瞳に薄っすらと涙の膜が張って、それが少々心臓に悪い。

幼い頃からよく一緒に遊んでいた二人は、いわゆる幼馴染である。

鈍臭くてしょっちゅう転んではびーびー泣き、美味しい物を食べてはにこにこ笑い、エドワードの後ろをちょこちょこと追いかけて来るセレスティアと、大きくなったら結婚しようとエドワードが心に決めたのはもう随分と昔のことだ。

しかし、セレスティアはまだ幼い。

エドワードとの年の差は一つだけだが、同年代の少女達と比べても少しばかり鈍く、恋より食い気と色気がない。

そんなセレスティアがエドワードとのことをネタにされて顔を真っ赤にしているのだ。

正直、エドワードの心の声は、

(いいぞ、街の衆。もっとやれ)

だ。

だが、まぁ、

「取り敢えず、半分ずつにするか?」

「ふぇ?」

話を切り替えたエドワードに、セレスティアの頭に?マークが飛ぶ。

エドワードはセレスティアの蜂蜜色の髪をぐしゃぐしゃとかき回しながら、

「だからさ、屋台の食い物、俺とお前で半分ずつにするなら一人で食べるより色んなやつが食べれるだろ?」

「エドワード……!!」

きらきらと目を輝かせるセレスティアは、かき回されて崩れた髪の毛に苦情を述べることも忘れて喜んだ。





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