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二階へと上がった先には広い空間が広がっており、
その空間の真ん中には燕尾服を着た初老を迎えたくらいの歳の白髪をオールバックにした男が立っていた。
「おお?久々に招かれざる客が来たのぉ…。」
と少しボケた風な老人の様な口調でその男が言葉を発した。
その言葉を受け取ったグレムはそのボケた風な口調を聞いて、笑いもせず、油断もしていなかった。
なぜなら、グレムはその男が纏っている雰囲気を察知しており、同等の実力者。
いや、同等以上であるかもしれない実力者だと一瞬で感じ取ったからである。
「ふむ。言葉を一切交わさず油断もしない、か。
お主は纏っている雰囲気からするに相当の実力者じゃな?」
と男が言うと。
「それはどうも。
そう言うそちらも相当な実力者じゃないか。」
とグレムは返した。
「しかし、お主ほどの実力者がなぜこんなところに来たのじゃ?」
と男が言うと、
「俺の物を返しに…。いや、欲しい物を奪いに来たんだよ。」
とグレムは言った。
「ふぉっふぉっふぉ…なるほど。
なんのせ久方ぶりにお主レベルの実力者と相見える事になるとはなんとも嬉しい事じゃのぉ…。
このローラン全力を出し切って主人をお守り致す!」
と言ったローランは腰につけていたレイピアを構え、グレムへと走って来た。
速い。ローランが走って来たのを見てグレムはそう感じた。
今まで相手して来たどの相手よりも速く、隙がなかった。
だが、反応出来ないレベルではないと思い、
短剣を構えて、次の行動をどうするか少し考えようとしたその時、
一瞬にしてローランが目の前に移動して来た。
その移動に反応しきれなかったグレムの頰にローランが放った突きが掠り、
赤い真っ直ぐな線が走った。
そして、もう一度突きを放とうとして来たので、グレムは後ろへと飛び退いた。
3m程後ろへとさがったグレムは短剣を二本投げて、懐から新たな短剣を取り出し、突撃した。
ローランがまたもや一瞬で近づいて、グレムが投げた短剣2つをレイピアで弾いたのを見て、
グレムはローランがレイピアを構え直す前に攻撃を仕掛けようと短剣を振り抜いた。
その攻撃はローランによって簡単に躱されたが、さらにもう片方の手に持っている
短剣でローランに襲いかかった。
ローランはその短剣を今度は躱すのではなくレイピアで弾き飛ばして、
グレムへと突きを放った。
その突きをグレムが躱して弾かれて手持ち無沙汰になっている方の手で懐から短剣を取り出して
ローランへと投げた。
そして、ローランへ一直線に向かっている短剣とともにローランへと迫ったグレムだが、
また一瞬にしてローランの姿が消えた。
だが、先程とは違い目の前に現れるのではなくローランはグレムの後ろに現れていた。
なんとか気配で後ろにいることを察したグレムだったが、
ローランが移動した後にすぐに攻撃を放ってきて、回避できないと判断し、
一か八かで空いてる方の手でレイピアの軌道をそらす事にした。
なんとかそらし切ることができたグレムは、
当たると思い切っていたローランが一瞬固まったのを好機と見て、
片手に持っていた短剣をローランへと振り払った。
短剣の刃がローランを一閃したかと思うと、残像が残る様な速さでローランは後ろへと下がっていた。
両者とも喋る事なくそのままにらみ合いが続いたが、
10秒たった頃に、グレムから動き出した。
10秒間の間にグレムは考えていた。
どうすれば自分のペースに持っていくことができるか、
どうすれば速く倒すことができるのか。
あの男に使った様な技は通用しないだろうし、
背を向けたりすれば距離を一瞬で詰められて終わるだけだ。
今の脅威はあの一瞬で距離を詰める技と速いレイピアさばきの2つだろう。
逆に言えばたった2つしかないのだ。
だが、その2つが致命的なまでの差を作っている。
短剣とレイピアじゃリーチが違いすぎる。
それなのに振る速度が速いとなると、どう近づいていけばいいのかがわからなくなる。
だからグレムは仕掛ける事にした。
ローランへと向かって疾走し出したグレムは左手に持っている短剣をローランへと投げた。
そして真っ直ぐとローランの方へ走るのではなく、
少しローランを左手側に捉えながら低い体勢で近づいていった。
またしても一瞬にして距離を詰めて来たローランが顔を狙って突きを放ってきた。
その刹那にグレムは体を起こした。
ローランのレイピアはグレムの脇腹に刺さり貫通して少し横へ動かされた辺りで、
根元がグレムの左手によって押さえつけられた。
それを見たローランがレイピアから手を離そうとした時、
グレムは右手に持っている短剣をローランの右腕へと刺した。
そこまでいったところでローランは後ろに一瞬で下がった。
その時に短剣を抜かなかったので、右手は引き裂かれ使い物にならないだろうし、
レイピアも落ちているので最早ローランは敵ではないだろう。
とはいってもグレムも脇腹を貫かれたので、焼ける様な感覚に耐えながら
ローランとの距離を詰めていった。
右手を失っても左手がまだあるローランは、服の中からソムリエナイフを取り出して
最後の抵抗を試みた。
グレムは脇腹から大量の血を流しながら、
ソムリエナイフを持って最後の抵抗を試みるローランに向かって短剣を構えて走り出した。
ローランがソムリエナイフという戦闘向きじゃない武器を使い、
尚且つ使い慣れていない左手で振るっているので、
痛みで動きが鈍っているとは言え、最早グレムの敵ではなかった。
お馴染みの一瞬で距離を詰める技を使ってきたローランが
ソムリエナイフでグレムに斬りかかったが、
それが届くことなく、グレムの刃がローランの心臓部を刺した。
「最後が戦闘で飾れるとは嬉しいわい。楽しかったぞ小僧…」
と心臓部を刺されたローランは言いながら息を引き取った。
「俺をこんなに追い込んだのはあんたが初めてだよ。
こっちも楽しかったぜ。」
とローランの死体に話かけてグレムは広い空間の向こう側にある扉へと向かって歩き出した。
手前にある部屋から調べたが、手前の部屋にはリブル・グリムンドの
家族しかいなかったので、寝ているところを全員殺してきた。
一番突き当たりにある部屋の扉をこじ開けると、
そこには悲惨な光景が広がっていた。
呻き声をあげている傷だらけの奴隷達、
血を流して死んでいる奴隷がそこには散乱していた。
壁には色々な剥製の様な物が飾ってあり、
部屋の中には拷問器具だと思われる物が多くあった。
幸いなことにもレミは数人の奴隷達が立っているところに無事でいたのでグレムは内心ほっとしながら懐にある短剣をリブルに投げた。
ナイフは真っ直ぐ飛んでリブルの太ももに刺さった。
「がああぁぁあ……!なんだお前はぁ!何故此処に居る!私に手をあげたらどうなるかわかって居るのかあああぁぁ!」
と悶えながら言うリブルに
「お前が俺のものを盗むからこうなるんだ。今までの行いに後悔して死ね。」
と言いながら短剣で止めを刺したグレムは、笑顔で無事な奴隷達の方へと向かった。
奴隷達は少し悲鳴を上げるがそれにも構わずに一直線に奴隷の少女レミの方へと歩いた。
そうしてレミの目の前に立つとグレムは
「俺は盗賊だ。お前を盗みに来た。」
と言い、レミを抱えて窓から飛び降り闇の中へと消えていった。




