誓い
ユウトが去って半年が過ぎた。
緑化運動でようやく大地復活の兆しがみえた。
異星人に襲われたヒデトとシゲトは改心し、カイトらに協力するようになった。
「ユウト、どうしてるかしら…」
弟のように心配してたアサミが思い出してユウトの名を口にする。
「彼はどこかで戦っているかも知れない」
アサミの一言に触れたカイトがぽつりと言う。
四人の間に沈んだ空気が流れる。
「ご、ごめんなさい・・・」
発言を忘れてくれとばかりアサミは謝る。
「いや、いいんだよ。みんなの中にユウトはいるんだろ?」
空気を読んだのか、ヒデトの大人の言葉に三人はうなづいた。
緑化運動は国が推奨しているが殆どは民間が運営している。
拡大する科学に力を入れ過ぎたために予算が減少し環境改善には乏しかった。
温暖化による日々の暑さで人々のモチベーションが薄れている。
少しづつ緑化と作業は進んでいるが元々壊したのは前世代。
「何をいまさら」
と後世代は恨む。
そんな中、複数の火球飛来が確認された。
数か所に墜落すると強い光と爆音が響いた。
翌日、国は各自治体に墜落した火球についての調査依頼した。
警察を始め、科学捜査員、民間団体も加わって墜落したと思われる地域を調べたが、隕石の小片らしきもの以外は何もなかった。
「へっ、結局はこんなもんなんだよ」
「クソ暑いのに無駄なんだよ」
不満がいくつかの怒声となる。
調査結果は『ただの隕石』。
投げやりな態度で報告された。
だが、隕石と片づけられた落下物から事件が発生する。
緑化と同時に瓦礫化とした街も建て直され人も増えた。
まだ安定していない街は治安もよくない。
以前のような不良のたまり場も増えてきた。
ビルの陰に屯する五人の少年。
何することもなく雑談していると一人の男が通りかかった。
「カモだぜ」
背が高くリーダー格の一声で男を取り囲む。
見たところ金品を持っている様子もなく、顔が隠れるフード付きのコートを羽織っている。
「ちょっと小遣いくれないか」
少年たちは金をせびろうとする。
男は無視して行こうとすると体格のいい少年が男の襟をつかむ。
「おい!聞こえなかったのか?」
男は襟をつかんだ少年の手首をつかむ。
威嚇する少年だが身体が冷たくなり思うように動けない。
他の少年が手を貸そうとすると腕をつかんだ手が氷のように固まり溶けだした。
「えっ?」
少年たちは後ずさりする。
男が硬くなった少年を払うと粉々に砕けた。
「ひ、ひえー」
「逃げろ!」
恐怖のあまり残りの少年は逃げていった。
男は何もなかったかのように立ち去る。
仲間はもう一度、砕けた少年のもとへくるとみるみる身体が溶けた。
「何だよこれ・・・」
「やっぱり行こう」
頭の中が真っ白になりその場から走り去った。
「そんな馬鹿なことが」
警察の捜査で目撃証言するが相手にしてもらえない。
溶けた水を分析すると人間の細胞と知る。
熱射病で体内が解ける現象の事例や保護スーツの欠陥をあげるがそれらとは違う。
絶対零度つまりマイナス196度の液体窒素ではないか。
しかし容器内なら凍るが外へ出すと蒸発してしまう。
捜査は謎に包まれた。
治安が悪ければ夜中にバイクが暴走する。
「うるさいなあ」
道沿いに住む人たちは呆れていた。
走るバイクの前に人影が浮かぶ。
「この野郎!脅かすぞ!」
バイクを運転する若い男が叫ぶ。
構わず突っ走るバイクに熱風が襲い跡形もなく燃えてしまった。
次ぐ朝、事故があったと通報受けた警察が現場検証したが燃えた灰が残っているだけ。
灰を化学分析すると金属の粉、そしてここでも人間の細胞が検出された。
金属の粉はバイクのものと仮定できるが、骨まで燃えたのかと怪異な現象だ。
人が溶ける、粉になる・・・。
科学で解明出来ない怪奇現象にいろいろな憶測が飛び捜査は難航した。
この様子はテレビのニュースで流れた。
「何このニュース」
アサミは怖そうな顔している。
「これってあの時と同じではないのか」
カイトが言うと三人の記憶が甦る。
異星人に襲われた記憶は消したいがユウトのこともある。
まして、同様な事件がまた起きた。
彼らがまた地球へ来たのか。そんなことを想像してしまう。
「とにかく奇怪な事件が起きている。外出は十分に注意しないと」
四人はそれぞれの顔を見てうなづいた。
ヒデトとシゲトが部屋に入る。
「ユウトどうしてるかな」
「ユウトの話はしない約束だろ」
ヒデトはシゲトに注意した。
「だって、もし彼らの仕業だったら相手に出来るのユウトしかいないじゃないか」
異星人であるユウトの能力なら対等に争えるだろう。
だが、街を去ったユウトの行方は誰も知らない。
築何年経っているのだろうか。
古い館に肝試しに来た小学生が二人。
「本当に中に入るの?」
大人しそうな子はオドオドする。
「大丈夫だよ、俺入るよ」
ヤンチャな子は積極的だ。
「えっ?」
先に入られると一人で残らなくてはならない。
すぐにでも帰りたい気分だった。
パタン!
一人が入るとドアが閉まった。
「カッちゃん!カッちゃん!」
ドアを叩きながら仲間を呼ぶが物音ひとつしない。
「た、大変だ」
残された子どもは大人を呼びに帰った。
「大変だ!カッちゃんが」
「あら、マーくんじゃない」
館から道へ出ると閉じ込められた子の母親が買い物途中だった。
「あの家へ入ったきり出てこないんだ!」
「ええっ!怖いから近づくなと言ったのに」
二人は館に向かった。
館の前でパトロール中の警官に出くわす。
「すいません!ウチの子がこの中に」
警官はパトカーから降りるとドアをガチャガチャ開けようとする。
「ここは誰もいないはずだが」
ガチャ。
ドアが開き初老の男が出てくる。
「何か用かな?」
「ここはあなたの家ですか?」
怪しむ警官に対し平然とする男。
「ここに子どもが来なかったか?」
「これのことかな?」
そう言って子どもが着ていたシャツを出す。
「あ!それはウチの子の!」
叫ぶ母親。
警官はシャツを持った男の手をつかみ
「おい!子どもはどうした!」
男は薄ら笑いすると警官は次第に凍り溶けだした。
「ギャー!」
その場に居合わせた人たちは逃げていった。
「そろそろ地球人に知らしめたほうがいいんじゃないかな」
黒ずくめの男が二人現れた。
「フッ、言われなくても分かってる」
警官を溶かした男が鼻で笑うと三人は姿を消した。
男らがやってきたのは国の防衛機関。
「何だね君たちは」
銃を持った門番の隊員が男らを止めようとする。
黒ずくめの男ひとりが隊員を払うように手を出すと、隊員は砂のように崩れた。
防犯カメラが彼らをキャッチすると数人の隊員が銃を構えて走ってくる。
「これ以上近づくと撃つぞ!」
隊員の忠告を無視する男。
「撃て!」
一斉に三人に向けて撃つがかすり傷一つも負わない。
「なんだ、こいつらは」
驚きと恐怖が交差する隊員たちは引き金が引けない。
「首相に会わせろ」
「それは出来ん」
ひとりの隊員が震えながら答える。
そこへ男の仲間と思われる者が数体現れた。
「こいつら、人間でない」
「一連の事件は彼らの仕業か」
男らに注意しつつ隊員同士話す。
「これで分かっただろ。首相に会わせろ」
さらに念を押す。
「ちょっと待て。今連絡する」
隊長が無線で官邸に連絡すると
「我々に危害を加えないのから会うと言ってる」
これ以上被害者が出るのを避け、首相自身も命乞いする返答だった。
「だが、大勢で来られては困る。代表者一人にしてくれ」
「分かった。もし余計な手出ししたら・・・」
隊長は両手を出し「何もしない」とばかり男を案内した。
隊長の案内で官邸まで来ると議員や職員が遠巻きにして見ている。
ガードマンさえ物陰から覗く。
「あれが何人も殺したってやつか」
「しっ!聞こえるぞ」
囁くように話す議員たち。
応接室に着くと首相の安田が待っていた。
脇には官房長官ら側近がいる。
安田のこめかみに汗が流れる。
側近も男を見るが蛇に睨まれた蛙のように動きがとれない。
「要件はなんだ」
安田は声を絞り出した。
「我々の星は死が近づいている。調査したところこの星が移住に適している」
「移住だと?」
「そうだ。あなた方はこの星を壊している。我々が住めば修復ができる」
男はそう言うとテーブルの花瓶を手をかざすだけで割った。
「な、何をする」
震える安田。
すると男は手から霧をだすと割れた花瓶が元に戻った。
不思議な現象に安田は目をこする。
「我々には修復機能がある。一万人ほどいれば、この星は修復できる」
「い、一万人だと?」
「そうだ。一万人が移住してこの星を住みやすくする」
「それぐらい私たちが・・・」
「壊すようなお前たちに何が出来る」
温暖化で荒地にさせた人間にとって耳が痛かった。
「地球を侵略する気か?」
「いや、その地球とやらを貰うつもりだ」
無表情で平然とする男。
さらに言い続ける。
「断ったら地球人を消すだけだがな」
どこからか忍者の如く十体現れた。
全員レオタードのような黒装束。
反抗すると消される恐怖が圧し掛かる。
「す、少し返事を待ってもらえないか?」
「いいだろう」
そう言うと男ら全員消えた。
「総理、どうします?」
「彼らに対抗できる何かを見つけ出さねば・・・」
安田は唇を噛んだ。
彼らの手がかりを探すべく火球が落下した場所を再調査した。
「まさか奴らが流れ星になって来たのか?」
「しかし、本当に何も無かったよな」
宇宙船にでも乗ってきたのなら手がかりはあるだろう。
見つかったのは隕石と思われる破片だけ。
採取した破片を詳しく分析するよう科学省は指示した。
火球落下地点のひとつ富士山麓の地質調査を重ねるうち、大きな割れ目を発見した。
「おかしいな、前はこんなのなかったはずだ」
割れ目は洞窟へとつながっている。
「行ってみようか」
「やめたほうが・・・」
「いや、彼らから逃れるためにも何か見つけないと」
自分たちも助かりたい。
ここで調査を止めるより手がかりをつかもうとしていた。
洞窟へ着くと数十体の人体が見える。
「人形?ロボット?」
人の形だがSFに出てくるサイボーグにも見えた。
「誰だ!」
振り向くと武装した男がいた。
慌てて両手をあげる捜査員。
「ふん、地上の者か」
「地上?どういう意味だ」
武装した男の意味が分からない。
「我々は地底に住む地球人の原住民だ」
「原住民だと?」
地底に住む原住民なんて聞いたことがない。
この男は頭がおかしいのか。
捜査員の目は冷ややかだ。
「信用できんようだな。中に大将がいる。話だけでも聞け」
銃を片手に捜査員を誘導して洞窟へ案内した。
洞窟といっても意外と明るい。
光ファイバーの束で壁を照らし、発電機も備えていると言う。
奥へ行くと王室らしき部屋が見える。
洞窟内のため広くはないが石積みでしっかりとしている。
「なんだその者は?」
どうやら、大将と呼ばれる人らしい。
彼もまた武装し風格がある。
「例の隕石の調査中にここを発見したようで」
ゆっくりと調査員に近づぎ
「私はここの将、アームだ。我々が原住民と言っても信用できないのは無理もない」
「本当に原住民なのか、そしてあのロボットみたいなのは何か説明して欲しい」
アームは大きくうなずくと自分たちのことを話した。
今の人類が現れる前にアームの祖先は存在してたという。
しかし、人類が登場してから数で劣る祖先は地下へ集落を創った。
人類は地上を支配し自然を壊しながら生きていると批判していた。
驚くことに祖先は地球人ではないかも知れないと言う。
証拠に地下でも科学力を発揮し、例のアンドロイドを作りだした。
アンドロイドは人一体に装着しプロテクター兼武器となる。
人類は外気から保護するためのサイバースーツを開発したが、それより大きく勝っている。
発達した科学力から地球人と異なる人種だとアームは説明した。
当然、地球人は受け入れられるものではない。
科学省や首相にどう説明していいのか分からなかった。
「ならば私がそちらへ行って説明しよう」
「え、それは」
副将はそんなところへ行ったら捕らわれるのではないかと懸念した。
「あのアンドロイドを装着していけば分かってもらえると思うが」
捜査員の案に同意し、首相のもとへ向かうことにした。
特殊金属で出来たプロテクターをまとい安田首相の前に現れた。
「これは見たことのない金属だ」
安田は目を丸くした。
「軽くて丈夫、弾もレーザーも通さない」
官僚らは顔を見回した。
レーザーを通さないとなると数十ミリの厚さが必要だ。
プロテクターはどう見ても数ミリしかない。
「これで戦うとしたら?」
「地上の物なら十分だ」
アームは嘲笑う。
「もし、そうなら我々にも作ってもらいたい。そして奴らと戦えれば・・・」
「ふん、断る。地球を壊すような人間に加担するつもりはない」
アームはぶ然とした表情で官邸を後にした。
首相はじめ官僚は彼を止められなかった。
街へ出たアームの前に一人の男が立ちはだかった。
「おまえ、地球人の味方するのか?」
無表情に聞く男、数人を冷却させた者だった。
「地球人?私の祖先は彼らより先住していた」
あくまでも自分らの存在を強調するつもりだ。
「いや、おまらの祖先もこの星を支配するつもりだったのだろう」
「侮辱すると許さんぞ」
アームは拳を突き出した。
冷却の男はその拳をつかみ氷漬けにする。
「ん!」
アームは振りほどくと氷を散らした。
凍ったのは表面の水滴だけでプロテクターにはダメージがなかった。
「おまえは一体・・・」
驚く冷却の男。
アームは再び拳を突き出すと閃光が男を刺した。
「うっ・・・」
男は苦しむ間もなく細粒になって散った。
「ふう、生身だったら凍らされただろう・・・」
じっと腕のプロテクターを見つめる。
その様子を建物の陰から官邸職員の一人が見ていた。
そのことを安田に伝えると
「そんな武器を持ってたのか・・・本当に彼らと組まないと我々の存在が危い」
今度は首相自ら富士山麓へ向かうことにした。
宮殿とまではいかないが煌びやかとした室内。
地下とは思えない造りに安田は目を見張る。
首相が出向いたと聞いたためか十数人の側近がついている。
全員がプロテクターを装着し物々しい警備だ。
「断ったはずだ。ここへ来ても意味ないぞ」
相変わらず顔色ひとつ変えない。
「いや、君たちの存在は認める。君たちも彼らに占領されたくないだろ」
アームは自分を軟化させようとしているのではと眉間にしわをよせた。
「我々はあなた方より科学、武力は劣るかも知れない。だが、地球上の人間として協力をするつもりだ」
危機感からなのか安田は低姿勢のまま願いを申し出た。
「我々を利用するだけではないのか?」
「いや、とんでもない!」
安田は両手を広げて否定した。
アームと副将は小声で相談する。
「成功したら我々を追い出すつもりでは」
副将は懸念する。
しばらく考えて
「話は保留にしよう。それより地球を護るほうが重要だ」
安田は言葉が出ない。
「それにそちらの科学力でどう協力できるのか」
科学力の違いに足を引っ張っては困る。
アームの意見は厳しかった。
帰りの足取りは重かった。
「彼らに負けない科学を結集せねば」
「新たな武器を作るということですか?」
「我らで防衛しなければ」
安田は早急に対抗できる武器の製造を命じた。
「温暖化を無視するのか」
「半壊の地球を捨て、戦争を始めるのか」
国民は反対を訴えた。
しかし、彼らの奴隷になるのも拒否したい。
原住民を味方につけろという声も大きい。
安田は頭を抱えた。
官邸付近に数体の異星人が現れる。
原住民の攻撃により、地球人は反逆に出たと怒りを覚えた。
「あれは彼が勝手に・・・」
アームの単独だと安田は話すが聞き入れてもらえない。
「おまえらが手を組もうとしているのは知っている。もう待てん。総攻撃をかける」
そう言うと空へ消えていった。
「こうなったら迎え撃つだけだ。出来るだけ武器を集めろ!」
安田は強い口調で命令した。
「何か騒がしいわね」
アサミは遠くで響く音が気になる。
ニュースで自衛隊集結を聞くと胸騒ぎがした。
「また異星人が来たのか」
カイトも気になった。
アサミもカイトも口には出さないが、またユウトが来てくれるのではと思っていた。
官邸周辺で徐々に増えてくる異星人。
自衛官がレーザー銃を撃つがダメージなく貫通した。
「我々には通じないと言っただろ」
銃弾を撃っても当たる瞬間に粉々になる。
「まだ奥の手がある」
「往行際の悪いやつだ」
何とかしようとする安田を冷ややかにあしらった。
安田の合図により消防ポンプのような車が登場する。
ポンプからの放射により一体の異星人に冷却水がかかる。
さらに機関銃により体の一部が崩された。
「無駄だ! 我々は修復能力があることを忘れたか!」
「それはどうかな?」
いつになく安田は強気だった。
今度は崩れた体に強い酸の溶解液がかけられる。
「我々の科学力をなめるなよ」
酸により蒸発する体に火が放たれる。
溶解液は揮発性が高く溶けた体が燃え上がった。
「これは?」
異星人のリーダー格の男が驚く。
「液体ヘリウムで凍らせ銃弾で砕く、そしてフルオロアンチモンで溶解させ揮発性が高くなったところで火をつける。そうなれば二度と修復することなく蒸発する」
得意気に話す安田だが男は笑う。
「分散させた攻撃では一つでも落とせば効果なし!」
そう言うとフルオロアンチモンの容器を砂状にして破壊した。
急激に熱を持ち辺りは火の海となった。
退却する自衛隊。
異星人らに近づけられない状態になってしまった。
リーダー格の男は激怒。
じりじりと安田らに迫った。
奥歯を噛む安田。
そこへ一つの光が異星人の一体を貫き、ばらばらとガラクタのように落ちた。
放たれた光のほうへ視線を向けるとアームら地底人が二十体ほど並んでいる。
「来てくれたのか?」
「勘違いするな。我々は我々で護るだけだ」
味方についたのかと思えばそうでもなさそうだ。
「お前らを倒さないと意味がないようだな」
リーダー格の男の合図により小走りで地底人へ攻寄る。
冷却能力持った者や粉塵能力の者が一斉に攻撃するが地底人のプロテクターには通じない。
それどころか地底人の放つ光で次々と異星人の身体が損傷する。
噛みしめるリーダー格の男。
「まさか我々に弱点があるというのか」
アームと距離をおいて睨みつける。
「それはお前たちから強いガンマー線が発していたからだ」
「何?」
放射能の強い宇宙空間に生存していた彼らは蓄積された放射能を武器としている。
ガンマー線は分子の破壊が強く物質を粉々にしてしまう。
アームたちは彼らの生体を測定していたのだ。
「そこで作られたのがラジカル重合。これで逆に光分解したってことさ」
「まさか地球にこんな化学があったとは」
リーダー格の男は考える。
自分たちは肉体から創生されているが彼らはプロテクター。
プロテクターを外してしまえば生身のはず。
男は瞬間移動し地底人一体の背後に回った。
矢のような光を放ちプロテクターの隙間を突いた。
「やはりそうか」
プロテクターの一部がずれると身体が現れ冷却光線を当てる。
「うわっ」
光線を受けた地底人は身体の一部が崩れ倒れた。
「ん!」
アームが振り向く。
「所詮、お前らはプロテクターに頼るだけだ」
逆に弱点を突かれたアームは男に背を向けられない。
他の地底人が攻撃を受ける。
プロテクターが壊れ数人が倒れた。
「表面的には防御が効くが、まさかそんな隙間狙われるとは・・・」
そして破壊されたはずの異星人が元に戻っていく。
アームの眉間にしわが寄る。
「忘れたか、我々には修復機能があると。流石に溶解して燃焼させるまでは思わなかったがな」
余裕で笑われるとアームも安田も悔しさがにじみ出た。
「さて、仕切り直しといこうか」
リーダー格の男がそう言うと一体がアームに向かった。
するとその一体が粉のようになり空間へ消えた。
「どういうことだ!?」
驚くリーダー格の男が消えた先を見ると人影が現れた。
「誰だ!」
そこにはサイバースーツをまとったユウトが立っていた。
「あれは自衛隊の特殊スーツ・・・」
安田が言うと地球人に空間へ消し去るほどの能力を持った者がいるのかとリーダー格の男は驚く。
「いや、お前は地球人ではないな」
無言のユウト。
「そうか、我々と同じ星の者だな。その能力はレベルの高い種族・・・」
別の異星人が現れる。
しかも地球のスーツを着ている。
「これはどういうことなんだね?」
安田はユウトに尋ねた。
「能力的には僕は彼らと同じ星の人間のようです」
「なんだはっきりしてないのか?」
さらに安田は聞く。
「小さい頃、僕は偵察要因としてこの地球に送り込まれた。それは移住した場合、ここで生活できるかということ」
「子どもを偵察に?なんてことを」
驚く安田にユウトは説明を続けた。
「生活が出来る星だと分かった時に移住を始めたようです。でも、僕は地球人の良さに気づいたのです」
「そうか・・・それで他の偵察メンバーを消したのはお前か」
リーダー格の男は憤慨した。
「そうだ!地球人を殺してまで移住なんて許せない!」
ユウトは声を荒げた。
「頼む・・・我々を助けてくれ」
安田は命乞いするような声でユウトに頼んだ。
「地球人の味方する気か・・・」
男は手を上げて合図すると数体がユウトに向けて走り出した。
ユウトに近づくと空間が歪み数体の異星人が消えた。
「うっ・・・」
リーダー格の男がたじろぐ。
「異次元空間へ飛ばしたのか・・・」
「分裂した粒子ひとつひとつが別空間へ飛んでしまえば二度と修復出来まい」
リーダー格の男は為す術がなかった。
「この地球から撤退することだな」
これ以上戦えば自滅が目に見えている。
「これほど地球人に味方するとはな・・・」
男は仲間を連れ宙へ飛び立った。
「ユウト!」
叫んだのはアサミだ。
胸騒ぎがしたカイトらメンバーもやってきた。
「戻ってきてくれたの?」
「いや、彼らを追い出すだけだ」
嬉しそうにするアサミだがユウトは冷静だった。
「知ってのとおり僕はこの星の人間ではない」
同じ星の者が蔓延るのを防ぐために戻るが地球人でない以上留まる訳にはいかない。
ユウトは自分の立場を考えて行動しているという。
「ひとつユウトに聞きたい」
アサミが尋ねる。
「彼らと同じ能力を持つなら、破壊された人は戻れるの?」
せめて彼らによって凍結されたり粉砕された人が蘇生できないものかアサミは願う。
「それはどうかな?人は物ではないから・・・」
命ある人間が割れた皿のように修復できるものではない。
厳密にいえば分子構造を繋ぐことしか出来ない。
「私からもお願いします!」
やってきたのは老人の館で消された子どもの母親。
ユウトは話を聞くと考え込んだ。
「わかりました。僕が異次元へ入り修復すべき断片を集めましょう」
「でも、ユウトまで消えてしまうのでは」
アサミは心配そうに話す。
「それは分からない。消された人たちを戻せるとしたらそれしか方法はない」
「みんなの分まで・・・」
母親はつぶやく。
「ええ、一人だけという訳にはいきません」
アサミも母親も下を向いたままだ。
「同じ星の者の償うというか使命かも知れません。やれるだけやってみます」
ユウトは自分の身体を光の粒子化にさせ異次元の世界へと消えていった。
「あ・・・」
声が出ないアサミ。
「私、無理言っちゃったかしら・・・」
自分の事だけしか言わなかった母親は申し訳ないとばかり落ち着きがない。
「いえ、これがユウトなのよ。地球で育った彼は少しでも地球人のために力になろうと」
アサミは母親をなだめた。
空中から幾つものの光が現れ地面にゆっくりと落ちると人の形に変形した。
光が消えると異星人により消された人たちが現れる。
凍結され溶かされた不良少年。
戦った自衛隊員や警察官など。
そして一人の子どもも姿を見せた。
「ああ、カズキ!」
「かあちゃん?」
親子は抱きしめた。
「よかった・・・」
アサミも安堵の表情。
「でも、ユウトは?」
あたりを見回すがユウトの姿はない。
すると薄っすらとユウトが現れる。
「え?ユウト?」
ユウトは半透明のままだ。
「僕自身、エネルギーを使いすぎた。完全に蘇生するまで休むよ」
ユウトは再び異次元の世界へと消えていった。
「私たちがピンチのときに来てくれたもの。また会えるよね」
アサミの涙は止まらなかった。
地上の人間と地底人は和解し地球の再生を誓った。
まだまだ時間はかかるが自分たちの手で造り上げ護っていかなければならない。
それが地球人の使命なのだから。