信じられるもの
地球温暖化…人類はそれを防げぬまま生活を強いられていた。
まるで終戦直後のような街。飢餓や病死で地球上の全人口はピーク時より半数に減っていた。荒廃された街でも事件や事故は絶え間なく起きている。物資の飽和な時に比べ、物や時間が制限された人々は感情やストレスの限界に達していた。物を壊す者。人を傷つける者。様々だ。
ある夜、二人乗りのバイクが廃墟化された街を疾走していた。若い男の二人。彼らは苛立ちをバイクで発散する。
「なんだあれは?」
「からかってやろう」
前方に人影が見える。脅かしてやろうとバイクのスロットルを上げた。スピードを上げて人影に突っ込む。すると人影から強い光が放たれた。
「うわっ!」
人影に突っ込んだはずのバイクが二人の男とともに一瞬にして消えた。
「フフ…」
人影は不気味な笑い声を出し、その場からスッと消えた。
ビルの陰から別の二体の人影が様子をうかがっていた。
「派手にやってくれるな」
「どうせ地球は我々のものだ。誰が消えようと関係ない」
「そうだな」
二体の人影はバイクを消した人影の仲間だった。彼らも笑みを浮かべると消えていった。
温暖化による飢餓や病死により親を亡くした子供たちは多数いる。年齢別に振り分けられ、グループごとに仮設住宅で共同生活されている。大人の手を借りながらも基本的には自給自足。学業は義務教育のみ。それ以上の年齢に達すると働かなければならない。働くといっても、今の環境に応じた街づくり。各自治体の助成金で賄っている。
街から離れたとある一軒家。元々農地だったが所有者不明の土地。そこで町が所有となり仮設住宅が造られ、五人の子供が生活している。
年長のカイトは十八歳。四人をまとめるリーダー。
アサミは十七歳。主に家事を分担。カイトに助言し年下の三人の面倒を見ている。
二人は朝食の支度をしながらテレビを見ていると、昨晩起きた事件のニュースが流れる。ここ数日、同じような事件が続き、何人も行方不明者が出ていた。
「いやねえ、まただわ」
「一体、何が起きているんだろ?」
二人とも事件の謎に首をかしげた。
「おはよう」
リビングに二人の中学生が入ってきた。
十五歳のヒデトと十四歳のシゲト。二人の反抗的な態度にカイトらは手を焼いていた。
「早く食べて!遅刻をするわよ!」
「はいはい、分かりました」
強く言うアサミに対して、二人はやる気のない声を合わせた。
「おはよう…」
最年少十二歳のユウトが入ってくる。年下のためか遠慮がちだ。カイトらに面倒を見てもらってはいるが、いつも中学生二人にオドオドしている。
「いいよなあ、ユウトは学校に行かなくて済むんだから」
「そんなこと言うんじゃないの!ユウトは外へ出られないんだから」
ヒデトにアサミが注意する。
昼間の気温は四十度を超え、外出する際には外気に関係なく体温を保てる『サイバースーツ』を着用しなければならない。これは子どもたちも同じ。しかし、サイバースーツ配布の際、手違いでユウトには渡らなかった。
申請はしているものの、手元に届くまでユウトは外出できない。暫くは登校さえも許されなかった。
学校嫌いのヒデトが嫌みを言うのも無理もない。
無言の朝食。一緒に生活しても元々は他人。思春期がいることからかみ合わないこともしばしば。
朝食が進むと突然家が揺れ始めた。
「地震だ!隠れろ!」
カイトが叫ぶと一斉に行動に出た。
カイトとアサミはテーブルの下に潜るが、他の三人は動揺しリビングを飛び出した。
ヒデトとシゲトは自分たちの部屋に避難しベッドに潜りこんだ。
気の弱いユウトは焦り、自分の部屋さえも分からなくなっていた。
地震はかなり揺れている。フラフラしながら廊下の一番奥の部屋にたどり着く。
物置として使われた部屋はあまり近づいていなかった。どこからか物が落ちる音。
ユウトは慌てて扉を開けると大きな箱をみつけた。
「家が崩れるかも…」
そんな恐怖心がわいてくると箱のふたを開けた。
「この中に入ろう」
中に入り内側からふたをずらしながら閉めた。身体を硬直させ地震が治まるのをじっと耐える。
時間にして二分ほどだろうか。地震が治まった。人はパニックになると僅かな時間さえ長く感じる。
「おいっ!大丈夫かっ!」
カイトがリビングから探しに廊下へ出る。
ヒデトとシゲトが部屋から出てくるがユウトの姿は見えない。
「おい、ユウトは?」
「知らない」
カイトは二人に探すよう指示する。廊下の奥まで行くと部屋の扉が開いているのを見つけカイトは急いだ。
(もし、ユウトの身に何かが…)
余計な言葉が脳裏に浮かぶ。部屋に入るとふたのずれた箱を目にする。ゆっくりしゃがみ、そっと手をかけた。
「ここか?」
息を飲み、静かに箱を開けるとユウトが横たわっていた。
「おいっ!」
ユウトの頬を軽く叩く。
ヒデトとシゲトはカイトの背中越しから見ている。カイトの声に気づいたアサミが小走りで部屋までくると、状況を察し心配そうに入り口から覗く。
「大丈夫。気を失っているだけだ」
ユウトの脈と呼吸を確認したカイトは安心する。
「よかった…」
アサミは胸をなでおろした。
「情けないなあ。地震くらいで」
心配して損したと不機嫌な顔をするヒデトにアサミは横目で睨む。
「早く学校へ行ったら!」
「はいはい分かりました。おい、行こうぜ」
ヒデトはシゲトに指で合図し、地震でリビングに転げ落ちたカバンを拾う。シゲトはヒデトから子分扱いされているせいか自らの意思で動いてないこともある。周りの視線を気にしつつシゲトの後をついていく。その様子をカイトはしっかりと見ていた。
それよりも気がかりなのはユウトのほうだ。ユウトが入っている箱に視線を戻す。
「この箱をみつけてしまったか…」
ユウトが見つけた箱はサイバースーツが入っている。地震が起きている間は中身など確認する暇がない。箱に入る際に横の隅へ退かし、自分が入れるスペースを作っていた。
「これって大人用なのよね」
アサミはサイバースーツをそっと箱から取り出し広げてみる。
「あれっ?私たちのと違うみたい」
「防衛省の戦闘用さ」
「なんでこんなところにあるの?」
「自衛隊用に開発されたが必要なくなったのさ。配布するときに紛れ込んだらしい」
サイバースーツには公務用と民間用が分かれている。公務用は防御性が高い。一部民間用と誤ったまま保管されていた。
「…いい加減ねえ」
アサミが呆れているところでユウトが目を覚ました。
「どうした。怖くて気絶したか?」
カイトは怖がらないようにと冗談でユウトを気遣った。
「怖くなんかないよ…それは?」
「これ、大人用なのよ」
アサミは手にしているサイバースーツをユウトに合わせる。大きさが合わないことで着用できないことは知ってはいるが、あらためてユウトはがっかりした。
「別のスーツを頼んであるからもう少し我慢しよ」
「うん…」
ユウトは小さく返事をした。
ある日、ユウトはカイトらに黙って大人用サイバースーツを着て出かけた。
「僕だけ外に出られないなんて、つまらないよ」
自分だけ仲間はずれされているようなもどかしさを感じていた。しばらく歩くと荒地の瓦礫にたむろしている数人の不良に出くわした。共同生活に不満を持つ子たちが必然的に集まり喧嘩やカツアゲなど悪さを繰り返していた。その仲間にヒデトとシゲトが加わっていた。
「なんだ、その格好は」
大人用のブカブカのサイバースーツをまとっているユウト。ヒデトはその不恰好な姿を見て笑う。
「こいつがお前らのいうチビか。ちょっとかまってやろうぜ」
不良たちはヒデトからユウトの話を聞いていた。彼らはユウトを囲んでは小突いたりプロレス技などで痛めつけた。小学生のうえにブカブカのサイバースーツであまり身動きがとれない。抵抗さえ出来なく地面に転がされた。
「やめてよお…」
「こんなの着るのは十年早いんだよっ!」
ヒデトはユウトを起こしては突き倒した。
「うう…」
「おい、ほっといていこうぜ」
彼らはユウトを残して去っていった。悲しさと悔しさで涙が止まらなかった。しばらくうつ伏せのまま泣いた。
カイトとアサミは夕方になっても帰らないユウトを路地に出て探していた。
「どこへ行ったのかしら?」
「あのスーツさえなければ…」
帰宅後、ユウトが居ないことに気付くとカイトは奥の部屋に向かった。空箱を見て悪い予感が的中してしまった。まさかサイバースーツを持ち出す行動に思いも寄らなかった。家の周りを探すが見つからない。カイトは管理を怠った自分を責めた。
「そんなこと言わないで…今はユウトを探さなくちゃ」
「そうだな」
再び探し始めるとヒデトとシゲトが帰ってきた。
「ねえ、ユウトを見なかった?」
「知らないよ」
ヒデトとシゲトがお互いの目を合わせると慌てて家の中に入っていった。
「何か知っているわね」
アサミは二人が怪しいとにらんだ。
「今は何も喋らないだろう。アサミは警察へ連絡してくれ。俺はもう少し探す」
「わかった」
再度探すがその日ユウトは帰ってこなかった。
翌朝、重い空気が漂う朝食。誰ひとり目を合わせることはなかった。ヒデトが何かを言わないものかとアサミはご飯を一口するたびに目配りする。
「ごちそうさま」
ヒデトはアサミの視線を痛く感じたのか、ろくに食事をしないまま席を立つ。話を聞こうとアサミは立ち上がろうとするが、カイトはアサミの腕をつかみ首を振った。素直にヒデトは口を割らないだろう。カイトの目がアサミに語った。そっと溜息をつくアサミ。どうしていいのか分からなかった。ヒデトの姿が見えなくなるとシゲトが後を追おうと立ち上がった。
(遅れると怒られる)
シゲトの胸のうちは慌てていた。すぐさまリビングを出ようとするが立ち止まる。するとシゲトはアサミに耳打ちをしてきた。
「実は僕たちがいじめたんだ」
「えっ?」
「でも、どこへ行ったかは知らない」
シゲトは足早にリビングを出て行った。
アサミは勘があたってしまい呆然とする。
「どうしよう…」
二人が関わっていたとにらんではいたが、事実を聞かされ落胆した。
「どこへ行ったかは本当に知らないようだな…また探すしかないさ」
耳打ちはカイトにも聞こえていた。カイトは唇を噛む。
「でも、なぜシゲトが」
「彼の行動は本心じゃない。ヒデトに付き合わされてるんだ。もし、断ったら自分がいじめられると思っているんじゃないかな」
地震が起きたあの時、シゲトの躊躇する行動にカイトは二人の関係を察していた。アサミはその話を聞かされると面倒を見ているようでも心の内を読めず、何かと感情的になる自分を悔やんだ。
「それより早くユウトを探そう」
アサミの肩をポンと叩いた。
薄暗いビルの瓦礫。元々は高層ビルが建ち並んでいたが地震で崩れ落ちたまま。不気味なビルの影に誰も近寄らない。そんな廃墟がヒデトら不良たちのたまり場。崩れた壁に寄りかかって笑談する彼らにゆっくりとした足音とともに黒いプロテクターで覆われた男が近づく。
「何だお前は!俺たちのシマだ出て行け!」
二人の不良が喧嘩を仕掛ける。男は黙ったまま右手を上げた。
「やるのか!」
二人が一歩踏み出す。男は二人に向けて右手を刀のように振り下ろすと、二人は無言で倒れた。音も無く傷付けられた胴体はまるで日本刀で斬られたような痕。
「う、うわあ…」
残されたヒデトとシゲトは見たことのない一瞬の恐怖に怯えた。男は腰が抜けて動けない二人を睨みつけ近づく。
「まて!」
男が振り向くと戦闘用サイバースーツで身を固めた少年が立っている。ヒデトとシゲトは目を疑った。
「ユ、ユウト?」
子供が大人用サイバースーツにフィットするのは不自然。身体の大きさが違うが顔を見ると紛れもなくユウトだ。
「カイトに知らせて!」
二人の頭の中は混乱している。本当にユウトが現れたのか?しかし、考えている余裕はない。逃げないと自分たちが殺される。ふらつきながらも必死に逃げる。
「邪魔するなっ!」
男の手刀が空を斬りユウトの左肩に切れ目が入った。
「うっ…」
ユウトは左肩を押さえ男を睨む。
「なるほど。その服はかなりの防御があるらしいな。本来なら腕を斬り落としたぞ」
間違えて配布された戦闘用のサイバースーツがここで役に立つとは。ユウトは肩の切れ目を見て複雑な心境になる。だが今は目の前の男を止めなければならない。
「お前は何者だ!」
「この地球を貰いにきた」
何を言っているのかユウトにはさっぱり分からない。冗談とはいえ男の気は凄まじく感じる。それと対照的に、冷血に見下す無表情さがユウトを苛つかせた。
「貰う?何を馬鹿なことを」
「うるさい!」
男の目が光ると手のひらから数本の光の針が放たれユウトの身体に刺さる。
「くっ…」
苦痛に悶えるユウト。
「フフッ、これで終わりだ」
ユウトは自分に向けられた手が光ると殺気を感じて避ける。すると避けた先の岩が一瞬に消えた。それを見てテレビのニュースを思い出した。
「そうか、人がいなくなったのはお前の仕業か」
「そうさ、今度はお前の番だ」
こんな技は地球上では考えられない。男は宇宙人なのか。だとすると本当に地球を狙っているのか。男との間合いを計りながらユウトは思った。男の手が光る。同じように避けようとしたが、光の針に刺された身体では動きが鈍っていた。足場の悪い瓦礫に躓きバランスを崩してしまう。
「うわっ!」
ユウトは男が放した光を浴び、光とともに消滅してしまった。
「これで邪魔者がいなくなった」
男はゆっくりとヒデトらを追う。
男に消されたユウトは別の空間を漂っていた。一瞬、気を失っていたが目が覚めると数分眠っていた感覚。無重力なのか身体の重心さえ移動できない。
「ここは…どこだ…」
意識はある。呼吸もしている。
「あの世でなければ四次元の世界か?」
はっきりと視界が広がっている。視線を横にやると砕かれた破片が浮いている。中にはバイクと思われる破片が見えた。
「ここは、あの男が飛ばした空間なのか?」
しかし、ユウトは意識があり生きている。生物はユウト以外にいない。ユウトは記憶を戻してみる。
「そういえばヒデトらに苛められた後も気を失ったような…目が覚めたら身体がスーツに納まってた…」
身体の異変を感じ、自分は人間なのか自問した。あり得ないと思っていても現実に起きている。
「人間でなければ何なんだ?そういえばあの男が放った光の速さをかわしている…」
ユウトは自分が何者なのか混乱している。ダメージを受けるたびに変化するユウトの身体。
『地球人ではない』
ひとつのワードが脳裏に浮かぶ。
「あの男と同じ人間なのか?」
地球上の人間でなければ考えられるのは男と同一生物。
「同じ人間なら元に戻れるはず」
男の光が別空間を往来できる。自分も同じ能力があるのなら可能だ。ダメージから回復するユウトの全身に電気のようなものが流れる。
「これが不思議な力の素なのか」
全身に意識を集中させると『力』をコントロールできる。ユウトは自分の力を確信するとさらに念じた。
「ううっ!」
ユウトの身体が元の世界へ戻った。
それを目の前にした男はまるで狐につままれた顔をしている。
「何故、戻って来られた?お前は地球人じゃないな。我々と同じ人間なら覚醒したというのか?」
「もしそうなら同じ能力を持っても不思議ではないな」
ユウトは凛とした態度で答えた。地球人でないなら悲しみに暮れてもおかしくない。
『地球を貰いに来た』
男のこの言葉が許せなかった。今、男と対等に闘える能力があるのなら男を地球上から消せる。ユウトは己の悲しみより地球を守ろうという意志が強かった。
二人は無言のまま様子をうかがう。光の速さの技を放つのなら、一瞬の隙を見せてはならない。男の手が光ると同時にユウトは瓦礫の陰に隠れる。男の光で瓦礫が砕ける。その間に二度三度と瓦礫に隠れる。
「逃げてばかりでは勝負にならんな」
男はユウトを挑発する。ユウトは男をかく乱させ何とか隙を狙おうとした。
(よしイチかバチか…)
同じ能力を持っているのなら男と同じ攻撃が出来るはず。男の様子を伺い右手を腰のあたりで隠すようにして神経を集中させた。ユウトの右手が光り始める。視線は男に向けているが右手のパワーを感じていた。意識した右手を男に向けて光を放つ。男はユウトの攻撃をかわし余裕の笑みを浮かべる。
「ほう、そんな技が使えるようになったか」
戦いで攻撃できるようにはなったが、簡単には倒せない。相手のほうが戦いのキャリアがある。力の差は歴然。男の攻撃をかわしては建物の陰に隠れる。同じことを繰り返すばかりだ。
「往生際の悪い奴だな」
何度も光を放してはユウトの隠れる建物を壊し始めた。
「くそっ、せっかく攻撃ができるようになったのに」
ユウトは握りしめた両手を見つめた。すると僅かに左手も光った。
「これは…もしかして」
ひょっとして左手も技が繰り出せるのではとユウトは考えた。男に注意を払いながら左手に意識を集中させる。まだ左手のパワーは弱いが先に仕掛ける。右手で光を放つ。男がよける方向を予測しすぐさま左手から光を放つと男の右胸にヒットした。
「うっ」
光の力が弱いためダメージは少ない。だが男は初めてユウトに警戒心を抱いた。
「予測能力を使うとは…厄介なことになったな」
男は呟く。左手を使うどころか予測能力まで発揮したユウト。同じ星の人間とはいえレベルの高さを察していた。
(早いとこ片づけなければ…)
男は焦り始めた。ユウト自身は自分の能力が分かっていない。未知の能力が身体の中で増幅している。能力を学習しながら戦わなければならない。銃撃戦のような戦い。体力は消耗する。
「そろそろ終わらせようじゃないか」
またも男の挑発。正直、ユウトはかたをつけたい。ユウトを焦らせる心理を逆手に取った言葉。揺れ動く心の中を操られてはいけない。ユウトは見え隠れする男の動きを計算する。
「予測できるのなら見切れるはず」
男の足が建物の陰から見えた瞬間、左手で光を放つ。男がジャンプして避けるところを右手の光を胸にヒットさせた。男はひざまずいてうずくまりユウトを睨んだ。
「もう観念したらどうだ」
力を振り絞って立ち上がる男を見て、ユウトは反撃できぬようにと全身にパワーを溜める。男は青ざめた。自分がユウトを異次元へ飛ばした技と同じだからだ。
「や、やめろ!」
両手を前に出すと光が増幅する。ユウトは男に向けて光を放した。
「うわっ!」
光を浴びた男は次第に消えていった。
「僕はここまで力を…」
両手を見つめ茫然とするユウト。自分の身体の変化に寒気を感じた。
そこへ新たな影が現れる。見上げると二人の男が立っている。見た目は消えた男と同じだ。苦戦を強いられたユウトに再び戦える程の力はない。早い成長を遂げた身体でも二人を相手にしたら勝ち目はない。
「お前たちはあの男の仲間か?」
「そういうお前こそ、我々と同じ種族ではないか」
「うっ…」
地球で育ったユウトは自身のことをすっかり忘れていた。
「無理もない。お前は偵察要員として地球へ送り込まれたのだからな」
「何?」
ユウトの正体を知っているようだ。男の話によると地球への移住のために生存できるか試験的にユウトを送り込んだという。ユウトは唖然とした。同時に怒りで右手の拳を上げるがひとりの男に静止される。どうやら二人の男は闘う意志がないようだ。
「同じ星の人間同士で闘ってどうする?」
消えた男は地球人として向かってきたユウトを仕留めようとしたが、今いる男は同士だと伝える。しかし、ユウトは受け入れるつもりはなかった。
「地球人として戦うのも結構。だか、移住は始まっている。何万という規模だ。お前ひとりでどうしろという」
「それでも僕は戦う」
「好きにしろ」
大人数相手ではかなわない。ユウトに選択肢を与え、二人の男は消えた。
「地球を乗っ取られてたまるか」
ひとりでも戦う決意でいた。
「ユウト!」
カイトら四人が駆けつけた。
「話を聞いた。二人を助けてくれてありがとう」
「ユウト…今まで虐めてゴメン…」
ヒデトの目から涙が溢れ、シゲトも泣いている。
「さあ、帰ろうか」
カイトが手を貸そうとすると首を振った。
「いや、僕は帰らない。また奴らがやって来る。僕は戦わなければならない」
四人は顔を見合わせた。
「そんなこと言ってもお前一人じゃ…」
「僕は恐ろしい力を持ってしまった。どうやら奴らと同じらしい。それに今の地球人では戦えない」
確かに衰退した軍隊では地球は守れない。
「僕の正体がばれたら、みんなが捕まってしまう。だから僕はここから離れる」
「ユウト…」
「みんなと違う人間でないのは残念だ。でもそうしないと地球を守れない。それが僕の運命かも知れない」
「ユウト…」
アサミは泣きじゃくる。
「じゃ、僕は行くよ」
そう言うとユウトはフェイドアウトするように消えていった。
「ユウト!」
四人の叫び声は届かなかった。
「ユウトはまた戻ってくるさ」
「そうね」
いつかまたユウトが帰ってくることを願った。