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遥か彼方は何処へ行く  作者: おこげっと
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遥か彼方は何処へ行く2

お待たせしました!2話でございます。

「んで?次は何処に行くんだ?不良さん。」

 季節が秋に移り変わろうとしている放課後の図書室には男と遥かだけがいる。青空に負けじと青みを帯びていた木の葉は次第に色が変わり、まだ抜けきらぬ残暑と共に冬への支度を始めていた。男はあくまで読んでいる本から目を離さずに遥かに聞いた。

「私は不良じゃないってば。この髪は病気みたいなもんなの。」

「質問の答えが返って来ていない。何処に行くのかと聞いてるんだ。」

 くっ・・・こいつの人を微妙に馬鹿にしている物言いは何とかならないのかしら。

「A県に黒神病に詳しい人物がいるんだって。今回はその人を当たってみる。」

「おいおい、そういって前回も大した収穫は無かったんだろ?お前の黒かった髪なんてもう誰も憶えてないんだし、諦めるべきなんじゃないか?」

 男は諭すように、けれど事実は濁さす率直に伝えてくる。遥かの髪が金髪になってから、1年以上が経過したが、今や彼女が黒髪だったことを一部の人間を除き憶えていない。

「わかってるよそんな事。けど、徐々に、徐々にだけど真実に近づいていってる感じはしてるの!例え数十時間費やして得られるものが1つだったとしても私は絶対に前の黒髪に戻ってやる!人が憶えてなかったとしても私が一番憶えてるんだから!」

 遥かは声を荒げて答えを返した。男は既に本から目を離しており、遥かの熱弁に真剣に耳を傾けていた。

そしてコクリと頷いたあと、

「お前がそこまで言うなら俺がお前を止める権利はない。だが無茶はするな。絶対に帰ってこい。お前が帰ってくるのを待ちわびてる人がたくさんいることを忘れるな。」

 相変わらず父親みたいな物言いだ。思えば私が金髪で自暴自棄になっていた頃も親身になって話を聞いてくれたっけか。遥かは踵を返し、図書室から出て行こうとする。

「じゃあ、私が生きてたら週明けの学校で会おうね。」

 遥かは男は嘲笑を交えながら返す。

「死ぬ可能性を考慮しているのか。今のお前なら簡単に死ねないと俺は思うがな。」

「余計なお世話よ。いえつぐ。」

 遥かは図書室を後にした。


 駅の改札を通った時だった。目的地までの距離を調べようとスマホを取り出していると、急に後ろがざわつき始めた。後ろを振り向くとすごい速さで少女が階段を飛び下り、改札口に向かって走っている。

 高さ3m程から跳躍したにも関わらず全くスピードを落とさず走り出した少女は跳躍したかと思うと開いていない改札を飛び越えようとしていた。

 もしかして無賃乗車?確かにあの速さなら駅員も捕まえられそうにないなぁ・・・。

 しかし、遥かの考えを裏切る形の行動を少女は取る。少女は空中で1回転し、切符を投げきっちり切符を通した。誰もいない改札の検知バーが開く。

 「よし!大成功!」

 少女はそう叫ぶと、また空中で一回転し、体操選手も目を疑う程綺麗な着地で私の目の前に降り立った。

 時間にしてわずか5秒の事だった。理解しがたい濃密な時間だった。やっといま改札の検知バーが閉じた。周りにいた人の半数は拍手をし、その半数は混乱している。少女に興味を持った人が集まり人だかりができる。

 私の目の前に降りてこなければ惜しみない賞賛と共に10点を差し上げていたが、場所が悪かった。野次馬が私と少女の少し離れたところで円状に囲っている、自然と私にも注目が集まる。

 何故私にも視線が集まるのか、それは私と少女が似たような服装をしていたからだ。少女は誰もが羨み、妬むであろう(特に私)漆黒の髪を靡かせ、黒を基調としたゴシックロリータのワンピース。如何にもお嬢様と言った格好でのあのワイルドな動き。さらに背中に大きな剣?の鞘を背負っている。

 剣道のお稽古でもあるのかしら?いやでも、こんな格好では剣道はしないだろう。

 私の着ている服が似ているといったが、私も今日の曇り空を見て黒のワンピースにしている。

 向こうは黒髪、こっちは金髪。出来ている人だかりの中にも俗世間で言われるオタクという人種の割合が高い。「コスプレの撮影か?」というささやき声も聞こえてくる。まずい。写真を取られるのは別の意味で慣れてはいるが、今回はこの少女にも被害が及ぶ。

 今すぐこの場を離れないと・・・。少女は着地をした場所から動かず周りをキョロキョロ見渡している。

「ちょっとあなた。」

「お姉ちゃんも私のお仲間?私はね!治水翠っていうの!やっとお仲間に出会えたよ~!」

 そう言うと、少女は急に私に抱き着いた。周りから「おぉ・・・。」というため息に似た歓声が沸き上がる。やめろ。私はこの子を知らないし、私は見世物ではない。ここは何とか話を繋げて乗り切るしか。

「そうよ。とりあえず案内するから私に付いて来てね。」

「わーい!ねえねえ?手を繋いでもいいかな?」

「いいわよ。さ、行こう。」

 手を繋いで歩き出した。さっきから私たちのやり取りを見てゲスな笑みを浮かべている豚共の前を通る抜けようとする。

「どきなさい!豚共!人様の道塞いでんじゃないわよ!」

 キッと睨みつけながら怒鳴る。豚の群れがザッと分かれ、道が出来る。モーゼが海を割った時、きっと今の私みたいに快感に似たものを得てたのかもしれない。私がモーゼだったら楽しくて何回も海を割っている。

「すごーい!今のどうやったの?教えて教えて!」

 少女が目をキラキラさせながら聞いてくる。ぶっちゃけこの無垢な少女に大人の穢れは教えてはいけない

気がした。

「そうね、もう少しあなたが大人になったらできるかも。」

「さすがお姉ちゃん!よおし!私も早く大きくなるぞー!」

 ピョンピョン跳ねながら私と並んで歩く。こうして二人で歩いていると私に妹がいないことを非常に悔しく思うのだった。


 公園のベンチに座り、遠くを眺めている。私はどうしたらいいのか。

 成り行きで少女をここまで連れてきてしまったが実は保護者の様な人物がいるのではないか?という疑問に至った。

 例えばその・・・今日は別居中だったお母さんと出会うために遠方からはるばるやって来た。というのはどうだろうか。いや、それだと私に易々と付いて来ないし、そもそも背中の剣が説明できない。

 旅をしている剣士・・・?この子が?いくら少女とは言えども職質ぐらいはされるはずだ。だって普通に剣だったし。剣の種類には詳しくは少女の体格に相応しくない大きな剣だった。

 この子の親はかわいい娘にこんな凶器を持たせるのか。可愛い子には旅をさせよとはよく言ったものだが凶器を持たせてうっかり人を真っ二つにしてしまったらどうする。

 やっぱり本人に直接聞くべきか・・・。

「ねえ、お嬢ちゃん。」

 何だこの聞き方は。私は無意識のうちに誘拐犯のお手本手口の様な尋ね方をしている。こんな見た目はしているがまだ私は犯罪者ではない。ついでに言うと問題を起こすような人格も持ち合わせてはいない。

「翠でいいよ。」

 幼い笑顔を振り撒きながら1匹の猫を抱きかかえる。公園に集まっている猫の集団と戯れる少女の姿はとてもかわいい。その背中に背負っている物が無ければの話だが。

「翠は何でここまで来たの?というか何で私に付いて来たの?」

「私はねーおばあちゃんの家に行くの!お姉ちゃんは私の知ってる人にそっくりだったからお仲間かな~?と思って声を掛けたの。人を恐怖させる力の持ち主だし間違いないよね。」

 仲間?力?人の群れを割ったのは単純に不愉快だったからだし、私はこの子とは知合いでもない。

「お腹すいたね。お姉ちゃん何か食べ物持ってない?」

「あるよ。お昼ご飯用に買ったサンドイッチがね。」

「わーい!貰ってもいいかな?」

「いいよ。」

 コンビニの袋からタマゴとハムのサンドイッチを取り出し翠に渡す。嬉しそうに頬張る姿を見ると私にも妹がいたように錯覚する。こんな何もかも忘れてしまう時間が続けばいいのに。遥かはそう思った。

「さっきの話の続き。私を変な人とは思わなかったの?」

「悪い人だったら成敗すればいいもん。私強いから。」

 背中の鞘の剣を引き抜きブンブンと振り回す。剣が空を切る音に鉄の重みを感じる。

「じゃあ最後。変わったものって元に戻せると思う?」

「無理じゃない?死んだ人は生き返らないし過ぎた時間は戻せないのと一緒で無理だと思うよ。」

「妙に達観してるわね・・・。あんたいくつよ。」

「私は今年で10歳だよ!」

 こんな10歳がいてなるものか・・・。天真爛漫かと思いきや理知的な思考を兼ね備えているとは。過去に戻りたいと思う私が子供に思えてしまう。

「ああ、お嬢様!やっと見つけましたよ!」

 私の思考を遮るように大声で叫ぶ女性が一人公園の入り口に立っていた。

「やっと来た。じゃあねお姉ちゃん。またどこかで会えるといいね。」

 翠は私に手を振りながら去っていった。迎えに来た女性に楽しそうに私の事を話しているようだ。

 静寂が訪れた公園。遥かはただ遠くを見つめている。まるで見えないはずの幻影を見ているかのように。ぽつぽつと雨が降り始めた。傘は持って来ていない。それより私には他の目的があったのだ。遥かは歩き始めた。後ろで車のブレーキ音が聞こえた気がする。


 雨がざあざあと降り出した。夏の名残があると言えど雨は冷たく鋭く遥かに降りかかる。

 遥かは我武者羅に走っていた。車のブレーキ音がした後、振り返ると数人の男が遥かめがけて走ってきた。全体的に黒い服装を身に纏い、手にはスタンガンなどを持っている。あまり人気のない住宅街。明らかに遥かを狙った誘拐としか思えない。

「どうしよう・・・。」

 遥かは、迷っていた。ここから目的地は近い。だが男たちが乗り込んでくる可能性も否定は出来ない。

 どうにかして撒けないかかと20分以上逃走劇を繰り広げてきたが、体力に限界が近付いている。

 容赦なく降り注ぐ雨が遥かの体力を奪っていく。服は濡れて重く水の冷たさが体中に広がる。遥かは息をつく為に近くの壁に寄り掛かった。

 「何処に行きやがった!」「探せ!近くにいるはずだ!」男たちの怒号が近くで聞こえる。

 「もう・・・ダメ・・・。」

 息が上がっている。もうこれ以上は走れない。地面にへたり込んだ遥かの指先から感覚がなくなっていく。心なしかいえつぐの声が私の頭の中でリピートされる。

「絶対に帰ってこい。」

「私はもう動けないよ。」

 遥かは小さく呟く。すると頭の中のいえつぐが私に答えを返してきた。

「今のお前なら簡単には死ねないと思うけどな。」

 そうだ。まだ私はここで止まってはいけない。まだ真実を掴めていないのだから。

 何十時間費やしても、傷ついても絶対に答えにたどり着きたい。髪の色が元に戻らなくてもいい。ただ私の髪の色が変わった理由。「黒髪病」についてまだ私は知らない。

 だから私は真実にたどり着くまで止まるわけにはいかない。

 遥かは立ち上がり、歩き始めた。

 しかし、遥かの意志とは裏腹に体は付いてゆかず、そのまま倒れこんでしまった。

 意識が遠のいていく。後ろから「いたぞ!」と叫ぶ男の声が聞こえた。終わった。

 遥かは何も出来ないまま眠りの世界へと落ちていった。


 夢の中で誰かが私に語り掛ける。またしてもあの声温かい声だった。

「遥か、彼方あなたは何処へ行くの?」

「わからない。私は今何処にいて、私が何処に行くべきかわからないの。」

 声は私を諭すように言った。

「私の所に来ればいいのよ。大丈夫、怖くないわ。」

 まるですべてを許し、包み込むようなそんな優しさを私は感じた。


あれ?家継出てきたじゃん!って思った方。しかも感じじゃない?って思った方。安心してください。今はまだひらがなですがいずれは家継かどうかはおのずとわかります。それが一年後になるかはたまた十数年後になるかはわかりませんが、気長にお待ちください。

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