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ひのきのぼうでも勝てますか!?  作者: リレー小説に参加して下さっている皆さま。
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第八話:佐東鳴狐

 森を駆ける、駆ける。


 周りの風景が目まぐるしく変わっていく。木々が俺の横をすり抜け、様々な色が目に飛び込んでくる。その情報量の多さに目が疲れてしまうほどに、アリエラの足は速かった。


 彼女が地を蹴る音が耳に届くのは、彼女が足を地面に付けた瞬間から数秒も経ってからだ。それほどまでに速い。


 飛ぶように駆ける彼女の腕の中で、俺はどうして彼女がこのような命の危険を犯すような職業に就いていてなお、その仕事を続けていられるのかが分かった気がした。


「なんっ……」


「あまり喋らない方が良い。舌を噛むよ」


 なんでこんなに、の声は風にかき消された。アリエラが注意喚起をしてくれるが、既に舌を噛みかけていたので遅い。


 盛大に舌を噛んでしまい涙目になっている俺を見て、彼女はようやっと俺を解放してくれたのであった。


「ここまでくればハッチーも追ってはこられないでしょ」


「何というか……。凄まじいな、お前」


 男一人を軽々と持ち上げ、並外れた脚力で森を駆ける。大の男でも簡単に出来ることじゃあない。きっとそういった超上的な行動を可能にするスキルが存在するのだろう。改めて“スキル”という物の異常さに驚かされる。


 そして、それを実際に使いこなし、見事ハッチーから逃げきって見せたアリエラの実力にも舌を巻く。俺も、いずれああなれるかもしれないと分かると、少しだけワクワクしたりもする。


「ちょっとばかし想定外だったね。毒持ちドラゴンデッドリーウイングドラゴンがいるから下手に魔物も近づいてこないだろうと思ってた。いやあ、失敗失敗」


「そんなに強いのか?」


「強い、なんてもんじゃあないね。アレは化け物だよ。アタシだってアンタよりはレベルが高くてスキルも持ってる自信──というか確信はあるけど、それでも勝てる気はしない。何より、まだ誰も“アレ”の解毒薬が作れてないからね。下手したら毒にやられて死んじまう」


「そ、そんなに強い毒なのか……?」


「周り、見たでしょ。“アレ”の周りじゃ草だって一本も生えやしないよ。弱い魔物なら近づいただけで毒に侵される」


 そんなに強い魔物に近づいて、大した稼ぎにもならない情報を持ち帰るために、彼女は危険を冒しているのだ。今更ながらに、彼女が凄い人物であることを理解する。


 もしかすると、そこらへんの男よりもよほど男らしいのではないだろうか……?


「なあ、お前、今失礼な事考えてなかったか?」


「もしや“読心”のスキルでも持っているのか!?」


「アンタは顔に出やすいんだよ!」


 もしかしたら心の内を読むスキルでもあるのかと戦慄したのだが、流石にそんなスキルは持っていないらしい。


 アリエラは未だ周囲を周囲を警戒している。ハッチーは多い。群れを成しているのだから、一度会えば少なくとも四から五匹程度と戦闘になると考えた方が良い。しかし、今のところ戦えるのはアリエラだけだ。


 俺は完全にお荷物なのである。


「なあ、まだスケッチを続けるつもりか?」


「ああ。情報屋にとっちゃ、誰も仕入れてない情報こそが宝だからな。冒険者も、迷宮ダンジョンに潜る理由は同じだろ?」


 なるほど。確かに、そうかもしれない。冒険者にとっての金銀財宝が、アリエラにとっての未知の情報なのだろう。


 ならばこそ、俺も強くなりたい。あのままではアリエラ一人では満足にスケッチも出来ないだろうし、何よりアリエラにはまだ借りがある。それを今返さないでいつ返すというのだ。


 だとするならば、レベルを上げねばならない。俺のステータスは一つレベルが上がるにつれて一つずつしか上がっていない。つまり、平均1だった俺の筋力や知力なんかは、現段階では平均6まで上がったことになる。


 これはおそらく、まだ弱い分類に入るだろう。ならばこそ、俺が手っ取り早く強くなるには──。


「スキル……?」


「そういやアンタ、スキルとかって何持ってるのさ」


「い、いや、“異言語理解”が一つだけ……」


「はあ!? それだけなのに一人でこんな森に来たの? 装備もひのきのぼうで固定されてるのに?」


「あ、ああ」


 だからこそ俺は、今ここで新しいスキルを手に入れなければならないだろう。


 スキルポイントは、レベルが上がったことにより15も増えている。初めに持っていた分と合わせて25.そこから、一つスキルを取ったから24.これが今の俺が所持しているスキルポイントだ。


「ステータス」


 あの時偶然見つけたステータスを呼び出し、リーネに教わったようにスキル所得の画面を開く。つくづく、ここが“ファンタジー”の世界ではなくて、あくまでも“ゲーム”を模した世界なのだと考える。


 さて、ひのきのぼうしか装備できない今、新たにレベルアップで加わった“矢速度上昇”や“斧の才能”などは使えないだろう。少ないスキルポイントで得るならば、魔法系統がいい。そうすればひのきのぼうだけに頼らずに生きていくことが出来る。


 ちょうど、“火の矢(ファイア・ボルト)”の上位互換らしい“火の弾(ファイア・ブレット)”が所得出来そうなので、それに指の腹を合わせて所得のボタンを押す。


《警告:所得出来ません。エラーが発生しました》


「……は?」


 もう一度試す。初級魔法の上位である中級魔法にカテゴライズされている“火の弾(ファイア・ブレット)”。ゆっくりをそれを確認した後、再び触れる。


《警告:所得出来ません。エラーが発生しました》


「なあ……。もしかして魔法とかって、魔法使いのギルドに参加してないと所得出来ないの……?」


「うん? そんなきまりは無いはずだよ。アタシだって、別に盗賊シーフのギルドには所属してないけど、隠密系統のスキルとか持ってるしね」


「じゃ、じゃあさ。この『エラー』って何……?」


「え?」


 アリエラが俺のステータスの画面を覗き込む。そこに映し出される『エラー』の一文を見て怪訝な顔をする。


「初めて見たな」


「情報屋のアリエラでも?」


「ああ。……なあ、念のために聞くけど、初級の火の矢(ファイア・ボルト)は持ってるのか?」


「は? いや、持ってないが……。さっきも言ったように、俺が持っているのは異言語理解のスキルだけだよ」


 もしや、同系統の初級魔法を持っていないと所得出来ないのだろうか。


 そう危惧した俺は、次に初級魔法である“火の矢(ファイア・ボルト)”の所得を試みた。


 そちらの方は何の問題もなく所得出来たので、じゃあと中級を覚えようとしたが、やはり所得は出来なかった。


「なあ、アンタ装備はひのきのぼうしか使えないんだよな……?」


「ああ……。そう、みたいだな……」


「その上“所得出来る魔法は初級以下のみ”って、どんな前世送ってりゃこんな最弱のステータスになるんだ……!?」


 アリエラはそう言うと頭を抱えた。


 俺が使えるスキルポイントは、あと『19』になっていた。

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