第七話:魔王さん様
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『すっ…すごいですユージンさんっ!まさかこんな短期間でレベルを5も上げて来るなんて!』
街に帰るとリーネは驚愕の顔で俺のステータスを見ていた。
『まぁ、俺が少し本気を出せばこんなものかな 』
俺がそう笑うと、ルクスも苦笑しながら手を差し出してきた。
『まさか君がこんなにすぐに強くなるなんてね、もしかして君は神に選ばれた勇者なのかもしれないね』
『ふっ……さぁな。それよりルクス、ポーション、髪に付いてたぜ……』
『っ!? な、なにを…!』
『あっ! ルクスずるいです! ユージンさんは私に報告に来たんですからねっ!』
『えー? でも君、最初は彼氏じゃないって言ってたじゃーん』
二人は俺を取り合って言い争いを始めてしまった。やれやれ、俺も罪深い男だ…。
俺は咥えたポーション瓶のふたをあけながら肩をすくめた。
という妄想にふけっていると見事に道に迷いました。
嘘だろオイ…何かリーネ達といった地点より全然深いとこにいるんじゃね?レンシュウっつか…もの〇け姫の森レベルだよねここ。早急にさっきの妄想の世界に戻してくださいお願いします。てか髪にポーション付いてるってどんな状況だよ。芋けんぴかよ。
初心者御用達とは思えない獣の声が木霊する。というかなんで異世界でぼっちしてんの俺。大体の転生もの作品ってリアルではぼっちだったやつも可愛いヒロインと冒険するやんけ。異世界なんだからリーネのツテでもなんでも使って誰か同行してもらっておけよ。………まぁそんなコミュ力あったら元の世界でも生きてたと思うが…。
それなりに歩いて疲れていたので、倒れた木に腰かけて手持ちの飲み物を口に入れる。…………あ
「これポーションじゃん!!」
一気に喉を潤したそれは、最後の命綱である回復ポーションだった。小瓶な分、もう底をついている。
なんてこった! ダメージ受けてねぇのに最後のポーション飲んじゃったよ! 不足の事態陥る前にピンチになっちゃったよ! というか水くらい持っていこうよ馬鹿なの死ぬの!?
「マジかー……」
いよいよ帰りたくなってきたとき、ふと遠くの道なりに何がか落ちていた。あれは……
「…っ!? 人!?」
俺はあわてて駆け寄ると、そこには大きめなリュックを背負った桜色髪の少女がうつ伏せになっていた。耳がとがってないのを見ると…人間か?
「だ、大丈夫ですか!?」
声をかけて揺すると、少女はうめき声をあげながらゆっくりと赤い瞳を開いた。
そして肩を抱くような形になっている俺を見るや否や、小さくため息をついた。
「なんだ……ただのモブ顔か」
「余計なお世話だわ!」
悪かったなモブ顔で! 元いた世界でも年齢イコール彼女なしの人間だったよ!
開幕から極めて失礼な一言をかましてきた少女をそのまま置いてやろうと思ったが、一応倒れていた理由を聞く。
「それで、こんなところで何があったんですか?」
「話はあとにして、まずはご飯をもらおうか」
「図々しいなアンタ!」
「きっとお腹がすいてるから君の顔がモブに見えるんだよ。ご飯くれたらイケメンって言ってあげるから」
「もうモブ顔のことはいいから!…あと俺食べられるものなんも持ってないんですけど」
「…………………つっかえねぇー。君、アタシのフラグ折り過ぎ」
「こっちから御免こうむるわ!」
少女はしぶしぶといった感じで立ち上がると、リュックから小包を放ってきた。俺はあわててキャッチすると、少女は同じような小包を取り出して中から小麦色の何かを取り出して口に咥える。
「とっふぇおふぃふぁっふぁがほうがはい、やふほ」
「食べながら言わないでくれ。わかんないから」
「…んぐっ…やるって言ったの。一応縁ってことで」
小包を開け、小麦色のソレを取り出す。手触り的には柔らかい饅頭みたいなもので匂いを嗅いでみると少し香ばしい。
ちびりと齧ると、若干知っている饅頭の食感とは異なるしっとり感がある。
更に食べ進めていくと、香ばしさの発生源にたどり着いた。
「っ!? う、うまいっ!?」
「だろだろう? とっておきだからな」
ドヤ顔を浮かべる少女をしり目に俺はもう口を動かしていく。肉のようなそれはピリッとした辛さ旨味を引き立てており、饅頭の部分が甘さと中身の辛さが相乗効果を発生させている。
なんだこの肉まんとピザまんの最上位互換みたいな食べ物は!?
あっという間に平らげてしまった俺をみて、少女は柔らかく微笑んだ。
「なんか餌付けしてる気分だったわ」
「…あ、ありがとう」
「良いって良いって。んじゃま、調査行きますか」
「………………調査?」
俺が首をかしげると、少女はリュックを背負い直し、こちらに振り返って言い放った。
「いや、アタシの飯食ったんだから、お前もアタシのこと手伝うに決まってんだろ」
「えっ!? ちょっちょっと何勝手に決め」
「あー、あの食べ物超高級品だったんだよなぁ! 金払えんのかなぁ! ぶっちゃけモブの身ぐるみ剥げるくらいのレベルはあるんだよなぁアタシ! 怖いお兄さんたちとのツテもあるんだよなぁアタシ!」
「…………………ど、同行させてください……」
「素直でよろしい」
少女は満面の笑みで俺の同行を快諾した。所詮モブに選択の余地はないのだ。女の善意には裏があることを忘れていましたよ前世の神様……。
カモの子供のように少女の後ろを歩いていると、前方を歩いていた少女が「あ、そうだ」と、思い出したようにこちらに振り返った。
「まだ自己紹介してなかったね。アタシは村人Cだ」
「絶対嘘だろソレ!?」
「あれ、Bだっけ?」
「細かい部分の真偽は問いただしてないから!」
「冗談、冗談。アタシはアリエラ。職業は…………情報屋ってとこだな。信じるかは任せるけど」
「俺は桜羽悠…じゃなくて……ユージンだ」
「自分の名前間違えるとか、お前頭大丈夫?」
「お前にだけは言われたくないわ!」
何はともあれ、とりあえず握手を交わした俺たちは、森の更に奥へと潜っていった。
※
最初はアリエラをただの頭の残念な奴だと思っていたが、行動を共にしてその考えは徐々に改まっていった。
耳を澄ませたかと思えば突然こちらを引っ張って身をひそめ、その瞬間数匹のハッチーが俺たちのいた道を通り過ぎたこともついさっきだ。
逆に単独行動のモンスターには、アリエラが正面から大きな音を立てて近づき、気を取られているモンスターを俺が背後からひのきのぼうで殴って僅かにダメージを与えたのを確認した瞬間、少女が的確に剣をモンスターにあてて絶命させることを繰り返している。
どうやらそのモンスターが倒されたときに、一回でも攻撃していればダメージ割合に応じて経験値が貰えるらしく、僅かずつだが経験値が加算されていく。
「お前まだまだ初心者っしょ? だったら単純な数値だけじゃなくて、戦闘慣れもしとかないといけないっしょ。それくらいは付き合ってやるよ」
何この子カッコイイ。
惚れ直しているところに、少女は俺が持っている武器をみて不思議がった。
「というか、なんでお前の武器ひのきのぼうなの? ドM縛りプレイなの?」
「違うわ! よく分かんないんだけど、なんか他の武器は一切装備出来ないんだよ」
「ほうほう……そういう設定プレイか」
「だからプレイじゃねぇよ! 今見せてやるから!」
俺はそう言って袋に入った毒針を見せてアリエラに武器であることを確認させると、それを装備しようと手で掴もうと試みる。が、先ほどと同じくつるつると手のひらから逃げる。その様子を見ていたアリエラは吹き出した後、盛大に笑いこけた。
こっちとしては全く笑えないんだけど。
「アリエラは情報屋なんだろ? それ系統の情報なんか持ってないの? かなり困ってんだけど」
自称情報屋は笑い涙をふくと、うーんと頭をひねりながらぶつぶつと呟く。
「…呪装具なら外れないのも分かんだけどひのきのぼうだろ…とすれば持ち手本人に直接影響させる呪いか魔法か?……いや、それだと効果時間が長すぎる……うん、分からん!」
「……そうか」
だぁぁ! もうなんなんだよこの積んでる状況は!
予想はしていた答えだがやはり少し凹む。
そんながっくり落ちた肩に、アリエラは手を置きながらこちらに笑いかけた。
「まぁ別にこのまま魔王倒しに行くわけじゃねぇし、武器を扱った職業しかないわけじゃねぇから大丈夫じゃね? っと……それよりほら、着いたぞ。なるべく音を立てるなよ」
「着いたって…どこ……ぃぃ!?」
「しっ!」
「むごっ!?」
大声を出しかけた口をアリエラに塞がれる。
いや…うそでしょ…マジでやばい奴じゃねぇか…今すぐ回れ右して帰りたい…あ、でも帰り道分かんない!
恐る恐る俺は、目の前の大穴に存在する事実を隣の少女に震える小声で確認する。
「あの…アレって…まさか…」
「黒い体に赤い斑点…にこの特有の毒の匂いとくりゃあ、デッドリーウィングドラゴンしかいねぇだろ。………さすがに大声ださなきゃ起きないっぽいけどな」
ぽっかりと森にうがたれた穴で丸くなるようにして眠っているそれは、RPGお馴染みのドラゴンそのものだった。
だがその迫力と迫りくる恐怖はゲームの比ではない。ハッチーですら苦戦する俺がそのまま挑んでも勝ち目など微塵も無いだろう。たぶん目力で殺されるレベルだ。
ふと、立ちくらみが起こりかけた俺の顔に黒い布が押し当てられる。
「それ鼻と口に当ててろ。こいつの毒の匂いを嗅ぎすぎると気持ち悪くなるからな」
「あ、ありがとう。あれ? アリエラはいいのか?」
「アタシは匂い抵抗スキル『スメルレジスト』使うからいいんだよ」
そういいながら、少女はリュックから筆と一冊のスケッチブックのようなものを取り出した。
「アリエラはここで何するんだ?」
「何って…あぁ、言ってなかったな……絵を描くのさ」
「は? 絵? 」
「そ、皆に情報として伝えるためにな。別に同じ個体だからって全く同じ状況かどうかわかんねぇだろ。爪は長めなのかーとか、全長はいかほどなのかーとか、口では説明しきれない部分はいっぱいあるよ。
あと周囲の環境状況も大切だな。退路はあるのかーとか、この場合だと穴の深さや大きさはどれくらいかー、とかを知らせるために精密な絵は大事なんだよ。まぁ周囲にどんなモンスターが出現するのかっつう情報をセットで添えるのが普通だな」
「……す、凄いなお前…」
「んーそうか? こういうのは情報屋なら基本中の基本だぞー」
どうやら途中までは描いてあったらしく、アリエラは筆をさらさらと進めていく。滑らかに滑る筆は、言うだけあって非常に正確に描かれていた。
「この仕事って収入良いの? 」
「んー、普通? その辺の冒険者と大して変わんないと思うなぁ」
俺は淡々と言う少女に驚いた。
「え? じゃあなんでこんな危ない仕事してんだ? 下手すりゃ死ぬでしょこれ」
「まぁねー、そのまま帰ってこないなんてこともザラだなー」
アリエラの表情はひどく真剣なものだ。先ほどの不真面目さなど微塵も感じられない。
俺は、何故少女が対価に見合わない仕事をしているのか理解できなかった。
が、少女はそんな俺の考えに答えるように続けた。
「まぁ、誰かがやんなきゃいけない仕事だしな。アタシじゃ魔王とかは倒せないから、せめて役に立つくらいはしたいなって。
………まぁ、本音を言えば、みんなの幸せの一部はアタシの仕事が支えてるんだぞっ!って自分の中で胸を張りたいだけかも」
「……………」
俺は、元の世界では確かにエリートを目指して歩いていた。みんなが遊んでいる間も必死に勉強したし、入社した場所をよりよくしようと必死に働いた。
だがそんな人生に、俺はやりたかったことが一つでもあっただろうか。
少女のように自己満足なものでも何でもいい。なにか夢があっただろうか。
かつて目指していたバラ色の人生とは、何を指すのだろうか。
「………つか、アタシ今めっちゃ恥ずかしいことぶっちゃけたんじゃね? あーやっぱ描きながらだと会話に気ぃつかえねぇ…」
僅かに赤面する少女が、俺には少し眩しく見えた。
「俺にも見つかるかね、お前みたいな自己満足な目標」
「…………さぁな。まぁ色んな冒険してりゃあいつかは出来るんじゃね? 知らんけど」
「…なんだそれ」
ため息をつきながらも、俺は少しだけ、そんな無責任で適当なアドバイスを参考にしようと決めた。
「ところで、俺が手伝うことってなんかあんの?」
「あーそういや言ってなかったな……さっき一回撤退した理由ってハッチーに襲われたからなんだけどさぁ…アタシって基本絵をかくときは索敵スキル使わんのよー。んで、描いてる間、周りにハッチーが出ないか見ていてく…」
ブゥーーンッ! ブゥゥゥゥゥンッッ!!
大きな羽音が真後ろから響いてくる。振り向けばすぐそこにみんな大好き蜂怪人ハッチーがいるのだろう。
アリエラはふぅと一息ついた後、パタンとスケッチブックを閉じてリュックに放ると、それを背負ってゆっくりと立ち上がった。
「お前…レベルとスキルは?」
「ろ、6…スキルは言語習得だけです…」
「…………………そうか。なら体の力を抜いとけよ」
「え?」
「……せぇのっっ!!」
「うわぇっ!?」
「掴まってな!」
視点はぐるんと上を向く。アリエラは自分より大きい俺をひょいとお姫様抱っこでかっさらうと、森を一気に駆け出した。
俺のファーストお姫様抱っこは、桜髪の少女に抱っこされる側として成立してしまったのだった。
どうも今回の話を担当した魔王さんです。クレームを言うときは『魔王さん』さんへにしましょう。
というわけで何か裏話でもしようかと思いましたが、身の上話ほど面白くなるか分からないものはないので新キャラの説明を書いておきます。絶対に本編を読んでから読むんだぞ!絶対にだ! どこかの異世界の魔王とのお願いだ!
新キャラ紹介:アリエラ
桜色の長髪に赤目の人間の少女。
情報屋を営んでおり、その腕は確かなもの。真面目な話をするときとふざけているときのギャップが激しい。リーネ、ルクスとも知り合いで、親しい人を冗談でからかうのが趣味。特にユージン相手だとボケる。マジでボケる。これ以上無いレベルでボケる。
ステータスを誰にも明かさないが、様々な街を行き来し、モンスターの情報も自分で調査に向かっていることから非常に高いと推測される。特に生存率上昇系のスキルが豊富(隠密・索敵・聴覚・逃げ足・暗視など)。彼女の経歴は一切謎に包まれている。
多くの街を渡っている影響か、口調がユージンが元いた世界の若者と同じようなものになっている。