第六話:林集一様
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ユージンはその紙をソッと畳んでポケットに仕舞った。冒険の高揚感で気付かなかったが、その紙は東京砂漠の中で1人、それこそ砂粒ほど居る人間に囲まれてずっとずっと1人で育ってきた俺が初めて得られた厚意だった。
ユージンは考えていた。ルクス達の厚意に対してどうする事が一番良いのか。それは、ルクスが渡してくれたチュートリアルの通りに行動して、一人前の冒険者やら狩人やらになる事だろう。ただ、俺がその選択肢を選択してしまったら、真の意味で俺が自立する事など出来るだろうか?
ユージンは無言のまま教会を出て、ただ真っ直ぐ歩いた。すると一軒の冒険者向けと書かれた雑貨屋があった。その店先には保存食としての干し肉や乾パン、投擲用の武器や蒔き菱等が並んでいた。棚の一番上には爆弾やさっきのポーションもある。きっといつかは使うんだろうな。
!?
「待てよ、爆弾……?」
「おい、おっちゃん!爆弾ってどれ位の威力だ?」
「うーん、どれくらいと言ってもな、仮にあの爆弾が爆発したら棚は粉々になるかな。多分それくらいだな」
「ハッチーにヴン投げたら勝てますかね?」
「うーん、そもそもハッチーは群れで行動するからな。爆弾使えば1匹位は楽にバラバラに出来るだろうけど、多分毒受けて君死んじゃうんじゃないかな?」
「ハッチーって経験値どうですかね?」
「ただのハチの100倍はあるんじゃない?」
「おっちゃん、爆弾いくら?」
「銅貨が50枚くらいかな」
「どうにかまけてくれないか?30枚に」
「うーん、ハッチーに使うの?多分君死んじゃうからなぁ。残念だけど売れないよ」
「このポーションを売ったら幾らになりますか?」
先程貰った回復用のポーションを見せる。
「うーん、銅貨30枚かな」
「じゃあポーション3つ売りますから爆弾2つ下さい」
「いやぁ、やめといた方がいいと思うなぁ」
「下さい」
「まぁ、そこまで言うなら、ほら、ポーションは2つでいいよ。1個は持ってきな」
「ありがとうございます!」
取り敢えず、まずハッチーを倒して彼女達の仇を取ろう。出来るのにやらないのは勿体無い。それに経験値?多分相当美味しい。俺に毒が効かないならば、倒せない相手ではない筈だ。ここで、ヘタレて女を頼るなんて俺らしくもねー。
俺はレンシュウの森へ向かった。
「あれは……ハチか。ソォイ!」
ペチーン!ひのきのぼうの一撃は吸い込まれるようにしてハチに命中し、手足や羽根を撒き散らしながら爆散した。
「この程度なら付き添いもいらねぇな!」
「ひのきのぼうで勝てますか?」
「勝てらぁ!」
「ふふはははは!」
俺は何を心配してレベル上げを躊躇していたんだ!高々虫じゃないか!ポジティブアクション自問自答!これこそが俺の真骨頂!
「待ってろよハッチー!居たハッチー!早いな!」
再度俺の前に現れたハッチーは威嚇しながら仲間を呼ぶようなダンスを踊っている。そして相変わらずデカイ。蜂と言うより蜂怪人!そうだ、お前を蜂怪人と呼ぼう!
「毒霧を出したらお前の最後だぜ!& 出さなくても最後だぜ!」
俺は懐から爆弾を取り出してハッチーが毒霧を出すのを待った。技後の硬直と言うとゲームっぽいが、黄色の毒霧が吹き出す瞬間の方が確実だった。複眼で何処見てるかわからないけど睨み合う俺と蜂怪人。先に動いたのは蜂怪人だった。
「ソォイ!」
俺は、レバーを引いて強い衝撃を与えると爆発すると言う爆弾のレバーを引き、全力でハッチーに向けて投げて、勢いそのままに右前にのめり込むように伏せた。
「ステータス!」
ドォオオオオン!
黄色の毒霧を吹き飛ばすように爆弾の爆風が破壊の波を引き起こす。蜂怪人の気配がなくなると俺は顔を上げた。
ナナメ前方を見ると爆弾の破片がステータス画面の裏側に刺さるようにしてこびりついている。
「ふぅ、やはりステータス画面は爆弾ごときで破壊されるほど弱くなかったか……」
立ち上がって辺りを見渡すと、バラバラになったハッチーの破片が散らばっており、爆弾の欠片は木々に深くめり込んでいた。
「これ、下手に近くで爆発したら巻き添えで俺も死なないかな?もしかして俺は運が良かったのか?いや。あのステータスで運が良いってのもあれだな。うーん、お、レベルが5上がってる」
ステータスを指でスライドさせながら変わった所を確認する。そう言えばドロップアイテムとかはないのか。まぁ蜂怪人粉々になっちゃったしな。現金は相変わらず0。
取り敢えず爆心地を見るて回ると、蜂怪人の毒針が落ちてる。これは拾って役に立つものなのか……。ん?拾えない。
「あれ、うぐぉおおおおおおおお!」
「ふんぬぅああああ!」
何故かつるつると弾かれるようにして毒針を拾う事が出来なかった。
「あ、まさか」
教会で貰った袋に地面から直接掬うように毒針をインする。……はいった。成る程、毒針は武器扱いで、俺は武器を拾う事も許されてないのか。
「何たる不便。まぁ俺にはこれがあるから大丈夫か」
左手で爆弾を弄りながら拾った毒針を袋越しに観察する。これは売っぱらって爆弾にしようか。幾らになるかもわからんが……。さて、手元には爆弾が1つとポーション1つ。蜂怪人が群れをなしてるならまだその辺に居る筈だ。もう1体退治したら一旦村に帰るかね。他の虫程度ならレベルも上がったし、負けるって事はないと思うが、取り敢えずスキル修得したりして他の戦闘手段も探さないとな。