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ひのきのぼうでも勝てますか!?  作者: リレー小説に参加して下さっている皆さま。
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第一話:佐東鳴狐

 ──分かっていた。分かっていたさ。


 よくある話だ。あるところに男がいた。そいつはたった一人、周りと違う意見を述べた。周りの奴らは意見の違ったその男を淘汰しようとした。文章に表せばただそれだけ。


 ただそれは、ともすればこんぼうを片手に振り回して裸でラスボスに挑んでいるようなもので、集団という強大な個体に対して、男は成す術もなく当然のように負けた。慈悲も、慈愛も、滋養もなく、男は切り捨てられた。


 ──いつか必ず俺は、お前たちに対して一矢報いてやる。


 これは本当に、よくある話だ。たった一人では権力と結束力という最強の武器を携えた巨悪なボスには太刀打ちできない。そんな、よくある多数決の話だ。


 だからそんなに悲しい顔をしないで欲しい。彼だけじゃあない。他にもそういう経験をしている人はいるだろうし、何も彼だけが悲劇の主人公ってわけじゃあないんだ。


 ……え? 彼はその後どうしたのか、だって?


 男は結局逃げたのさ。一人ぼっちの孤独に、味方のいない孤毒に耐えられなくなって逃げた。死ぬならクスリが一番楽だって調べたんだけど、やっぱり簡単には手に入らなくて苦労した。


 ……可哀想?


 そうでもないよ。だってほら、その男は今こうして笑っていられるんだから。


 ✜ ✜ ✜


「人生はクソゲーだった!」


 両腕を高々と突き出し空に向かって吠える。死んだ後に目を覚ましたらやってやろうと思っていたことの内の一つなのだが、まさか本当に死後の世界があるとは思っていなかったので自分自身が一番驚いている。


 もちろん驚いたのは俺だけではなかったようで、俺の大音声に反応して鳥が一斉に飛び立った。よく見ると周りは大自然に囲まれており、背の高い木々が俺を見下ろしてさやさやと笑っていた。


 地面は土のようだ。小石が裸足の足裏に刺さって痛いが、死後の世界にも痛覚が働いているとは思っていなかった。


 そうだ。俺は死んだのだ。


 自殺志望者に向けたサイトを片っ端から漁り、その中で最も楽に死ねる方法、即ち服毒死によってその短かった生涯にピリオドを打った。親よりも早く死んだ。


 結局、ステータスなんてあってないようなものだった。


 そこそこ有名な私大に進み、そのままエリートとして活躍していくハズだった。家族からも将来が期待されていたし、俺もバラ色の人生が送れるものだと思って疑わなかった。


 でも、待っていたのはどこまでも深く、先の見えない暗闇の人生だった。


 そこはどれだけ高学歴なステータスを見せたところで意味をなさない世界だった。必要なのは肩書。いわゆる『職業』みたいなモノだけ。俺はそこで最弱の『平社員』だった。


「結局、“ステータス”なんて飾りなんだよなあ……」


 そう独り言つ。風が穏やかに吹いている。その度に木の葉が揺れる音が、徐々に俺の頭を冷やしていく。頭がクリアになっていくにつれ冷静になる。


 冷静になった頭でよく考える。周りを見渡す。


 森、とでもいうのだろうか。周りは全て木で囲まれており、その中のぽっかりと開けた小さな空間に俺は立っていた。


 そして俺は理解する。どうやらここは死後の世界ではないらしい。


「……なんだコレ」


 少しだけ目を動かし、自分の右斜め前方を確認する。先ほどから空や背の高い木を見上げていたので気が付けなかったのだが、そこにはこの自然豊かなこの雰囲気にそぐわない異質なものが浮かんでいた。


 それは見る限り、ゲームのステータス画面のようだった。


 自分の名前とその横にレベルと表記された項目。その隣には1と表示されているところを見ると、どうやら自分はレベルが1らしい。……意味が分からん。


 体力、魔力、筋力、耐久力、知力と走力。六つの項目にもそれぞれ1という数字が表示されている。魔力と耐久力はともかく、体力と筋力と走力、それに知力が1というのが酷く気に入らない。


 他に見当たることと言えば『スキル』と書かれた項目だろうか。その下にかなりの余白があり、そこが空欄になっているところから何もスキルを持っていないというのだろうか。『スキルポイント:10』という表示も気になるが何より。


「コレは一体何なんだ……。ゲーム……RPGか何かなのか……?」


 だとすると自分は、ゲームのキャラクターにでも転生してしまったのだろうか。そうなのであれば最悪だ。なにせレベルもなければ力もない最弱のキャラクターになってしまったのだから。


 転生、という言葉が自然と出てきたことに自分で笑う。死ぬ直前、何度も何度もインターネットで見たワードの内の一つ。頑固にしがみついて必死に人生を終わらせたくなかった恥ずかしい記憶。


 それにしても消えない。先ほどから何度も掌で擦ったり、腕を振って消し去ろうとしているのだが全く消える気配がない。


 こうなってくると途端に恥ずかしくなる。なにせ自分のレベルは1だし、全てのステータスが1なのだ。お世辞にも自慢できるようなステータスではない。焦って何度もパソコンのウインドウのようなそのステータスを殴りつける。それでもそれは、毅然とした態度でそこに居座っていた。


 ステータスの画面を消そうと躍起になっていて気が付かなかったのだが、後ろから話し声が聞こえていた。徐々に大きくなっているその声の持ち主たちは、どうやらこちらに近づいているようだ。


 隠れるかどうか迷う。普通に考えれば話しかけて少しでも情報を貰いたいところなのだが、ここがゲームの世界かもしれないという事は、盗賊や山賊である可能性だってある。それに、もしも一般人であったとしても、言葉が通じるとは思えない。


 そんな自問自答を繰り返していると、目の前の木の陰から人が現れた。どうやら迷っている間にかなり接近されてしまったらしい。


 俺は観念して、営業で培った営業スマイルを浮かべて話しかける。


「あー……。失礼、少し道に迷ってしまったんですがここから一番近い街の場所を知りませんか? 出来れば案内もしていただけると助かるのですが」


 帰ってきた言葉は肯定でも否定でも無かった。


 正確には、肯定か否定か分からなかった。


「────? ────」


 ここで俺ははっきりと自覚した。


 ああ、俺は異世界に来てしまったのか、と。


 目の前に現れた三人の男の耳は、異様なほど長く、尖っていた。

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