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第二部 残された者達のエチュード


「父さん、あんたが残した遺物が独り歩きし始めたよ……」


 実験段階でのコンピュータディスクに欠番が見つかった。

 いつどこで紛失し、流出したのか定かではない。

 ただ言えることは、自分以外の誰かが勝手にデータを盗み出して上書きされた。


「これ以上“エンジェ”で被害を広げてたまるか。それが犯罪者たる息子の贖罪なんだ……」


 東吾くん、響子ちゃんを巻き込んで本当にゴメン。 

 だけどまだ、二人の力を貸してほしい人物がここに居ることを知って欲しかった。


「隠してたのはお互いさまだったんだね。でも俺は出し惜しみするつもりはないよ。全力であんたに歯向かい、“エンジュエヌ”を壊してやるつもりだ」



 武器庫を閉じて、彼らの来訪を待った。

 












 

 






「西條グループってあかりちゃんとこの?」

「ぎゃう?」

「教えてあかりちゃん。あなたのお父さんお母さんは何をしようとしているの?」

「ぐぎゃあぅ……」


 食堂にて、私が作ったサンドウィッチを口にもごもごと、飲み込む前に聞いたので苦しそうに呻いている。小雀のメルちゃんが慌てて水を飲めと促すから、水を飲み流していた。

 

 焦らせて悪かったかな、でもこちらはそれどころじゃないの。

 だって、藤堂雪吹とあかりちゃんのご両親が繋がっているだなんてそんなこと、とてもじゃないけど信じられない。


「響子、こいつは何も知らされちゃいないんだ。マリー、その情報は確かなのか?」

「……他ならぬ、ワキヌマ家からの情報ですわ」

「ジジィ共の……」


 コクリと頷くと、響子と東吾は浮きだたせた腰を落とした。


「まず一つ。日本にはワキヌマ家のご長男・東吾さまがおられますわね。核攻撃に憂う東吾さまのお祖父様の手の者により明かされた真実ですの」


 マリーは深い息を吐いて、どこから話すべきかと悩んでいるけれど、こちらとしては知ってること全部話して欲しい。

 はやる気持ちを押し留めていると、隣に座る東吾さんがわたしの手を優しく撫でてくれた。


「金だけは豊富にありやがる一族のことだ。大方、資金調達とやらで握った極秘情報なんだろうよ」


 けっと、口汚くもワキヌマ家を罵る東吾さんに、わたしは口をつぐんでしまった。生い立ちをあまり話そうとしないことから、疎ましく思っているのかもと追及することはなかった。



(好きな人のことわたしだって知りたいんだよ、東吾さんのバカ――)



 ワキヌマはリゾート施設を立ち上げたグループとだけは聞いたことがある。東吾さんがたまに連れて行ってくれる遊園地での示唆を見た限りでは、一般人ができるような手際じゃない――それこそ得意分野をさも当然とばかりに、ゾンビ達に仕事を与えていたのだもの。

 

 ゾンビ達の統率者な上に、世間では名の知れた御曹司。東吾さんが遥かに遠い存在の人だって言ったら怒るだろうか。



「ワキヌマグループが援助したのは藤堂雪吹が居なくなってからですわ」

「え?」

「東吾さまには大変言い難いのですが、ワキヌマグループが西條グループに加担している可能性も否定できないのですわ……こちらでも情報を把握することは難しいんですのよ」


 マリーが辛そうにしている。

 そして東吾さんも……黙りこくり、一点だけを見つめる視線には西條さんを見ていた。



「……“エンジュエヌ”を作った目的が、それぞれ違うように俺は感じる」

「そ、そうなのかな」


 真摯な視線を向けられて、わたしは東吾さんの推測を待った。


「ワキヌマはわかる。一族をさらに強大なモノにしようと画策してるとな。だが西條グループはどうだ」

「?」

「経営に失敗したような、落ちぶれた家とは思えないほどの巨大グループなんだ。東のワキヌマ、西のサイジョウと呼ばれてるほどなんだから……均衡は、保ってきたつもりだ。では、それとは関係ない何か別の目的なのか?」


 ブツブツ呟く東吾さんに、シャナマンが話を割って入ってきた。



「妄想してるとこ悪いがな。トーゴ達に時間が無いってお嬢は言ったよな?」

「てめぇはうるせえんだよ……あ、俺のサンドウィッチまで食いやがって!」

「もう来る頃だ――次の使節団が」

「なに?」


 シャナマンとドルイドが食堂の窓から外を眺めると、聖ミケランジェロの校門から黒塗りベンツが数台、猛スピードで乗り付けてきた。

 黒服集団数名が早歩きでこちらへと向かってきている。



「国籍の違いそうな輩が二種類ほどいるな――」

「片方はチャイナ、もう片方は……ロシアか? ここにいる俺達、合衆国も忘れずにな」

「東吾さま、響子。ご決断を」

「と、東吾さん……」



 体が震えてしまう。

 東吾さんがわたしを抱きかかえて決断を下した。










****


「東吾くん、響子ちゃん」

「藤堂先生」



 堂々と歩く東吾さんを見て、こちらへと手招きしてくれた藤堂先生の後を追う。いつもと違う部屋に連れてきてもらい、ある実験室へと通された。



「東吾くん達にボクの尻拭いをさせるみたいで悪いなって思ってたんだ」

「分かってるなら」


 東吾さんが苛々している。 

 それもそうか、人類の命運が東吾さんに掛かっている。


「東吾くんの細胞を練り込んだ殺傷能力の高い武器を作ってもらった」

「な、これは」


 すらりとした銀の刃を手渡して、東吾さんが息を呑む。

 細身なのに凛として、ときおり紫色や緑色に輝きを放っている。


「東護……君の名前にちなんで名付けた。その刀は傷つける為にあるんじゃない、君や響子ちゃんを守るために存在している世に二本しかない逸品だ」

「俺達を、守るための?」

「そう、君の大切な人を守るための……ね」


 切なげにこちらを見つめてくる東吾さんと目が合った。


「響子ちゃんはこれ。クライムハーツだ。少し重いかもしれないね」

「わわ……」

 

 小型の銃のリボルバー部分を見ると、ハート型の絵が描かれている。


「この留め具を横にずらすと安全装置が外れて弾が打てるようになる。急いで作ったから、自動式じゃなくてごめんね」

「え? あの、 自動とか……先生、わたしじゃ何も分からないですよ……」

「うん、それでいいんだ。だってこのクライムハーツも、君を守るためのものなんだから」


 ホルスター一式とポシェットを腰に巻き付けられる。

 中を見ると目を見張った。

 弾丸が紫色だなんて、東吾さんの細胞でも混ぜてあるんだろうか。


「先生からの餞別で良いんだよな? これで今までのをチャラにしてやってもいいぜ」

「おや、最良の結果込みじゃなくて良いのかい?」

「俺達の力量次第だろ。武器がナマクラだったら怒鳴りつけて帰ってくるからな……先生に限ってそんなことないと思ってるけど」

「あ、東吾さん、確か一年分のお肉……チャラにしちゃだめだよ!」

「! わり、そーだったな、今のナシ。じゃぁ、失敗できないか……」


 東吾さんがクライムハーツを見ながら淡々と喋る。 

 警察官だった東吾さんなら銃の扱いはお手の物だと思うのだけど。



「君たちの健闘を祈るよ」

「あぁ、尊大な気持ちで待っててくれ」


 無理に笑う先生の顔が、目に焼き付いて離れない。

 別れを惜しみながら、わたしと東吾さんはシャナマンたちが待つ車へと戻った。 





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