━━━第七章・白き三ツ鱗と黒き震皇━━━ 18
予想外の目くらましを食らってしまった為、縮地で仕切り直そうとするが──。
【…………なにいいいいいいっ! なぜだっ、なぜ、縮地が使えぬのだっ?】
驚くべき事に足下が凍り付いていた──否、それどころではない。
なんと、辺り一帯の地表が凍土と化していたのだった。
「そなたの敗因は……、我らをムシケラと侮った事だ……」
むくりと起き上がったのは、優雅な銀の神威に身を包んだ利光。
致命傷となったはずの刺し傷はどこにも無い。先程から度々《たびたび》吹きつけた冷たい風は、体温を奪い取って自身を癒す為に起こしたものである。
不死鳥の如く復活した彼は、太刀を正眼に構えてすぐさま姿を消す。
「いただきです!」
鎌槍をすり抜け、迫り来る大薙刀。
土と足の間には氷が存在するので、髭をいくら動かしても縮地は使えない。されど、それ以外の能力なら使用可能だという事を、彼らは知らなかったようだ。
ニンマリと唇を歪めながら、
【見事な連係だが…………、ツメが甘かったなぁ!】
左手を離した黒露大蛇は大薙刀の柄に掌底をぶち当てた。震拳と同じ衝撃が伝わって太刀筋が大きくブレる。髭を断ち切ろうとした刃は、虚しく宙を薙いだ。
後は、体勢を崩した厳時を弾き飛ばし、力一杯踏みつけて氷を割れば、元通り縮地が使える。彼らに与えられた千載一遇のチャンスは、あえなく水泡に帰すだろう──が。
「それはどうですかねぇ!」
相手の行動は、黒露大蛇の想定外だった。不利と悟ったのか、自ら身を退いたのだ。
しかし、その時──朝日を背に、新たな人影が現れ来たる。
「評の秘剣……、一振り三太刀!」
銀の甲冑が朝日を乱反射させた為、黒露大蛇は怯んでしまった。もう、鎌槍を水平に倒して防御するしか術は無い。
直後、太刀を受けたと思われる衝撃を感じ取った。手応えあり──防ぎきったのだ。
【ぐふふふふぅ……、惜しかったなぁ、ムシケラどもよ!】
鎌槍によって阻まれたであろう太刀を引いた利光は、そのまま敵の背後に着地する。
朝日を照り返した刀身を鞘へ滑らせながら──、
「龍の髭を断ち切ったと伝わる、この髭切太刀。ナマズの髭を切る事など、造作もない……」
カチリと、刃が鯉口に収まる音が響き渡った。
【ぐおおおおおおっ、吾輩の……っ、吾輩のヒゲがああああああぁぁぁ】
口を両手で覆いながら、黒露大蛇は大声で悶える。
三つ同時に放たれた斬撃のうち、彼が受け止めたのは一つだけ。残った二つが、それぞれの髭を見事に断ち切る事によって、震皇の──ほぼ全ての能力は失われたのだった。
「ふふ……、これで……、もう……、厄介な能力は……、使えまい……」
利光の神威が──いや、全身がぼやけている。
何故なら、突きの動作で髭を切るのは不可能が為に、評の秘剣を普通に放つ必要があったのだが、その代償として相方の[もののけ]──つまり、雪音に大きな負担を掛けてしまったのだ。
「あとは私めに任せて下さい。一気に畳み掛けますよぉ!」
そんな彼の様子を一瞥し、甲羅割大薙刀を両手に携えた厳時は、すべてに決着を付けるべく力強く大地を蹴った。




