━━━第七章・白き三ツ鱗と黒き震皇━━━ 10
「今の私達が行っても、足手まといになるだけです……」
「でもよぉ……」
「ここはお任せしましょう。私めの大薙刀と互角だったのですから……、彼一人でも何とかなるはずです」
様々な事情を知らない双七はピンと来なかったが、大剣豪と称された猿宝斎と合体し、その技術を持つ厳時でさえ互角。されど、太刀を以て長柄武器を相手取ろうとすれば、三倍の技量が必要と一般的に云われている。
つまり──利光の剣に関する実力は、単純に見積もって大剣豪三人に匹敵するのだ。
天と地ほどの、実力の差があった兄弟は──今や、ほとんど互角の戦いをしていた。
「正妻の子として生まれ、兄でもあるボクちゃんを差し置いて、従一位になったキミが当主の座にも就いた時の……、ボクちゃんの悔しさが分かるかァ?」
光房は鎌槍を頭上で一回転させ、遠心力を存分に乗せた足払いをかける。
「こう見えても……、ずっと……、逆襲の機会を狙っていたんだよォ!」
兄の語りを無言で聞きながら、小さく跳ねてそれを回避した利光は、太刀をやや上段にかざして、真っ直ぐ振り下ろす。
「古文書に、黒露大蛇の記述を見た時……、これしかないと思ったのさァ!」
一歩、光房は後ずさってその刃から逃れた。続いて、後ろ部分の石突で突き出し、返して柄の部分で中段薙ぎ、最後に一旦槍を退いた上で穂先を繰り出すという三段槍法を仕掛ける。
「兄上は……、その為に鎮西征伐を奏上させたというのか…………?」
二段目までは避け、最後は穂先にある鎌の部分に太刀を引っ掛けて、敵の攻撃全てを捌いた利光は、ここで重い口を開く。
「その通りだよォ! キミは本当におバカさんだったねェ。ボクちゃんの為に、何の罪も無い白露ノ大蛇を殺してくれたんだからァ。おかげさまで、こうして震皇に成れたんだけど、それは感謝しなくちゃいけないかなァ? くーっひゃっひゃっひゃっひゃっ」
当然ながら、正五位の光房が単独で征討軍を動かすのは、天地がひっくり返っても不可能である。そこで目を付けたのが、弟の利光が持つ絶大な影響力だった。従一位の意見ならば、朝廷も無視できない。こうして、いろんな人間を散々利用して犠牲を強いた挙句、まんまと最強の力を手に入れた訳だ。なんとも、やりきれない事であろうか。
「…………許さん!」
表向き、普段から感情を滅多に出さない利光が、鋭い怒りの声を発した。




