━━━第七章・白き三ツ鱗と黒き震皇━━━ 9
「足の裏が土に付いてる限り、縮地はいつでも使えるんだとよ……」
先ほど光房本人が得意気に話していた縮地の条件を、双七は忌々しげに呟いた。
「……それは真か?」
「あぁ、間違いねぇぜ。さっきクソ野郎自身が自慢してたからよぉ」
「ならば……、方法はあるか……」
縮地を破る作戦を思いついた様子の利光に対し、どことなく焦りを見せる光房が、
「そろそろォ、確実にヤっちゃうかァ! どすこぉーい、となァ!」
ナマズの髭をにょろにょろ波打たせながら、四股を踏むように右足を高く上げた。
ズドンとそれを降ろした次の瞬間、大地が揺れ始める。
「まじかよ……」
地震は次第に大きくなってゆく。踏ん張りきれず、真っ先に腰を付けた双七に向かって、
「はい、一匹始末ゥ!」
血に飢えた女刺鎌槍が突き出されるのだった。この状況では、敵以外に立ち上がれる者などいないはず。もはや、どうしようも無かった。
だがしかし──。
「なにぃィ!」
その致命的な一撃を、冷静に見据えて弾き返した者がいたのだ。一度ならず二度までも、仇であるはずの彼によって、絶体絶命の危機を救われた事になる。
「地震など、予には通じぬ……」
利光の足は、地面からわずかに浮いていた。鶴城の豪邸に潜入した時に、お雪が使った能力である。三人の中で唯一戦闘可能な彼が、太刀を巧みに振るいながら敵を遠ざけてゆく。
「くひゃっ、まぁいいさァ……。この手でキミを殺したかったからねェ!」
「兄上……」
甲高い金属音が、地響きの雑音に紛れて聞こえてくる。
宿命の兄弟対決が繰り広げられている場所へ、這いつくばってでも近づこうとする双七だったが──厳時は、そんな彼の足を掴んで行動を阻止した。




