━━━第七章・白き三ツ鱗と黒き震皇━━━ 5
全てを諦めてしまった、そんな彼の心に──、
(あたしに任せて、野生と女のカンってのを見せてやるわっ!)
キサの声が響いた。
ワラにもすがる思いで、大太刀を鞘に収めた双七。目を閉じて構えも解く。
外見は何も変わらないが、<もののふ>・紅蓮小僧の主導権をキサに譲渡したのだ。
「そこよっ!」
双七の口から少女の鋭い声が発せられ、何もない虚空へ向けて右手が弧を描いた。
「なにぃィ!」
右手の紅い爪が見事に、朱塗りの鎌槍を吹っ飛ばす。
ゆらりと現れた光房の顔が、驚愕と苦痛に歪んだ。野生と女のカン、恐るべし。
「あの時はよくも、あたしの太腿を触ってくれたわねぇ!」
硬直している光房に対し、更に追い打ちをかけるキサ。左手で肩口をひっかいた直後、足払いで転倒させ、右足爪で非情の金的蹴りをかます。女の復讐、情け容赦無し。
「ボクちゃんの……、ボクちゃんの……、アレがああああああぁぁぁ」
パパパパァンと、爆竹が連続で弾けるような音が鳴り響く。爆裂爪の効果で、光房の急所を含めた肉体が削られたのだ。
「おふゥ……、タマんないよォ」
苦悶の表情を浮かべ、光房は内股でよろよろと立ち上がった。じっとりと粘り気のある汗が、上半身を妖しく艶やかに映し出す。
「でもォ……、ボクちゃんの汁でもうすぐ癒えるんだけどねェ……。くひゃっ!」
あれだけ傷ついていた身体が、もう治りかけている。果てしなき震皇の力で御満悦な光房に対し──、
「痛みは感じるんでしょ? 遠慮なーく、苦しめて……あげるわぁ!」
よっぽど恨んでいたのか。明るくさっぱりした性格のキサが、ほの暗くも残酷な笑みを浮かべながら、足の爆裂爪を器用に使い分けて縦横無尽に爆走する。
体術と格闘術に関しての扱いは、双七よりも彼女の方がはるかに上手であろう。
またしても、冴え渡った野生と女のカンで光房を探り当て、フルボッコにする。
「いたィ、いたィ、やめておくレェ!」
両手ひっかき、足爪の蹴り、エルボーからアッパーカット。
美しい格闘乱舞が続いてゆき、ラストは爆裂爪の効果による花火で飾られた。
光房は吹っ飛び、キサの操る身体がガクリと崩れおれる。まさかのダブルノックダウン。
「ぷはーァ……、つい……、ムキになって震拳打っちゃったよォ……」
しばらく間を置いて立ち上がったのは、妖しい汗で全身びっしょりの光房。
乱舞を食らう中で、彼はたった一発のパンチを繰り出したのだ。相手の腹部へ突き刺さったそれは、ただのパンチでは無い。地震のような振動が身体内部の隅々まで行き渡り、最終的には脳震盪で気を失う仕組み。
双七を常に包んでいた炎は消え去っており、戦闘不能である事は明らかだった。
「さァて、ブスッと行くかァ」
光房は縮地を駆使して、女刺鎌槍を一瞬で手に取った。
穂先が、仰向けに倒れる双七へ向けられたその時──。
「兄上……。暴虐もそこまでだ……」




