━━━第七章・白き三ツ鱗と黒き震皇━━━ 3
「あァ……、さっき鶴城まで行って来たんだよォ」
光房の返答は、とんでもないものだった。
ここから鎮西地方随一の主要都市である鶴城までは、普通に徒歩で半日はかかる。駿足自慢の<もののふ>でさえ一分で往復するなど、物理的に不可能だ。どうせハッタリだろう。
「これを取りにねェ……」
いつの間にか握っていた朱塗りの棒を、ぶんぶん振り回す光房。否、あれは棒にあらず。
確か──鶴城の豪邸でキサを助け出した時に、双七は見ていた。
「ゴミを片づける時に使う、自慢の逸品でさァ。女刺鎌槍と名付けたんだよォ」
「メザシ……、魚のか?」
「ちっがーうよォ。女を刺すと書いてメザシと言うのさァ。くーっ、ひゃっひゃっひゃっ」
不意に、尻尾の毛が逆立った。キサの激しい怒りが痛いほど伝わってくる──抑えきれない。
手足の爪が紅く輝き、身体中の炎が一層たぎる。
<もののふ>に成った時から、第一尾・纏火が常時発動しているのだ。
「このクソ野郎がああああああぁぁぁ」
敵のペースに押されつつあった双七は、流れを変えるべくキサの憤怒に身を委ねる。
足の爆裂爪で地面をえぐり、爆速を加えた左肩でタックル。相手がひるんだ隙を見計らって、右手の大太刀で一気にたたみ掛けるつもりだった。
が──、
「ちっ……、どうなってやがるんだ……」
余裕の表情を浮かべた光房が、またしても姿を消した。
「ここだよォ」
必死に気配を探る双七の──右の耳元で囁く不快な声。すぐ近くだ。
しかし、振り向いても誰もいない。
「こっちこっちィ」
「なっ……」
幻でも見ているのだろうか。それとも疲れているのか。
双七はゴシゴシと目をこするが、一向に改善されなかった。
「くーっひゃひゃひゃ、これは縮地というんだよォ。驚いたかィ?」
得意気に震皇の能力を披露する光房。
そう──、
それはまさに、瞬間移動であったのだ。




