━━━第六章・名と狐火を継ぎし弟子━━━ 18
崩れた石段の上にかろうじて残った鳥居の先端に、片足で降りる利光。
「意外に……、やるじゃないですかぁ?」
トボけた笑みを浮かべる厳時に異変が──両腕の神威が砕け散ったのだ。確かに手応えはなかったはず。しかし、不思議な事に本人は平然としている。
「あぁ、これはワザとですよ。やっぱりクソマジメに制御してると、発作がひどくて困っちゃいますねぇ……」
とんでもない事だった。何故なら、神威は身を守る為の甲冑ではない。強大な神の力を抑えつける為の拘束具なのだ。さらりと言ってのける神経が信じられない。
「暴走した私めの豪腕、半端じゃないですよぉ!」
宣言通り、厳時の毛深い両腕が更に膨れあがって不格好な姿になる。イメージとしてはゴリラが近いだろう。そのような変化を遂げた彼が、甲羅割大薙刀を無造作に掴んで水平に大きく薙いだ。
距離はかなり離れていたが──嫌な予感に従った利光は、速やかにジャンプして避難する。
「なんという……」
「フム……、カンは鋭いようで」
足場にしていた鳥居が木っ端微塵に吹き飛ぶ。
もののふ[#「もののふ」に丸傍点]の能力や妖術の類ではない。想像を絶する純粋な剛力で空気を切り裂き、衝撃をぶつけてきたのだ。
「どうです、私めの力を思い知ったでしょう。降参してみませんかぁ?」
「断る……」
「お雪君が飛び出した時に、なぜ私めが攻撃を仕掛けなかったのか。色々と、察していただきたかったんですが……」
両者の額に付いた〝白い鱗〟が、まばゆい光彩を放ち始める。
「知らんな……」
「まだまだ卵の殻が付いた二十歳のひよっこでは、分かりませんか。そうですか……」
その言葉を聞き、さすがにムッとした表情を浮かべた利光。
「言いたい事があるなら、刃で語るがよい……」
「分かりました……、とくと語って差し上げましょう。白露様の遺志を継ぎし〝三ツ鱗の<もののふ>〟となった私達の、真の敵とは誰なのかを!」
厳時は、静かに左足を一歩前に出し、地面に円を描くように後ろへ回す。
そして、半身が後方へ行ったと共に腰をぐっと落として、気合いの音声を張り上げた。
「ぐほおおおおおおぉぉぉ」
獰猛な獣が如き雄叫びを発しながら、厳時が大地を砕いて跳ぶ。地割れが近くの残骸を飲み込んだ。
「冬将軍を……、侮るでないぞ!」
短くも鋭い喝を放った利光は、太刀で満月を描くように一度回す。辺りの空気が急激に冷えて地面には霜が降りる。
「評の秘剣……、一振り〝三〟太刀の真髄を……、見るがよい!」
両者の刃はこうして交わり、壮絶な衝撃波と轟音による神威祭が始まった。この日をもって白漣山の麓は、地殻変動が起こったかのように様変わりする。隠れ里のシンボルであった初段ノ滝周辺は大きく削られ、いつしか霜ヶ沼と呼ばれるようになる。
祭りは、朝日が顔を覗かせたと同時に終焉を迎えた。神の怒りが鎮まったかのような静寂の中で、清々しい光を浴びた二人の影が伸びる。
彼らは身体を支え合いながら、次なる戦場へ向けて歩いていくのだった。
唐突な設定と急過ぎる展開に、ご注意下さい。




