表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/105

━━━第一章・深き緑の隠れ里━━━ 7


「あたいの事はオバサンじゃなくて、お姉様と呼びなっ! いいかい?」

 彼女は四十を超えているらしい。いくらなんでも、お姉様と呼べるような年齢としではない。

「えっ……?」

 戸惑うキサに、ずずいっと更にすごんでくるお多満たま。トラウマになりそう。

「次の返事はハイ。それ以外、口にしちゃだめ……、分かったかい?」

 しばらく気圧けおされて口をパクパクさせてたキサは、

「……ひゃいっ!」

 やっとの思いで返事を吐き出した。まるでヘビににらまれたカエルである。

「よしよし……、素直でイイ子だねぇ。きっと、いお嫁さんになるよぉ」

 満面の笑みで、キサの頭をでるお多満たま

「じゃあ、クソじじいのとこへ行っといで。呼ばれてんでしょ?」

「うん、ありがとっ、オバ……じゃなくてお姉様っ」

 一瞬の殺気を、確かに感じた。すたこらと逃げるように駆け出すキサ。

 緑の天井と呼ばれる、隠れ里を上空から隠している植物が、幾重いくえにも複雑にからみ合っておおっている為、昼間でも薄暗い。そんな中、枯れ木を倒して束ねただけの小さな橋を注意して渡り、生活用水にもなっている小川を辿たどって、さらに奥へ。


 里人さとびとは、圧倒的に[もののけ]が多い。途中、何匹もの彼らとすれ違うが、大別して二種類に分かれる。

 どちらかの耳に、赤い宝石のピアスがあるか否か。

 これは、[もののけ]にとっても、そして人間にとっても、重要な意味合いを持つ。赤い宝石は相方あいかたとなった人間の血液が固まったもので、<もののふ>になれるあかし。それを朝廷が公認した時に[もののけ]の耳に付けられる。以後、人間の協力者という事で狩られる心配は無い。逆を言うと、このピアスをしてないキサのような[もののけ]は、危険な存在として常に付け狙われるのだ。

「あたしも早く、あんな耳飾りしたいよ……」

 心に決めた人は、もういる。でも、ゴールはあまりにも遠い気がして──。


 キサのつぶやきをかき消すように、豪快に落ちる水しぶきと音が、さわやかに身体を通り過ぎる。

 いつの間にか、隠れ里の一番奥にあたる初段しょだんたきに差し掛かっていた。

 落差はニ十メートルほどで水のカーテンのような滝である。滝壺に虹が立つよう、里人さとびとの手によって工夫されており、隠れ里のシンボルに相応しい景観であった。

 次に、滝のずっと横に階段が作られている。それは途中で二股になっており、一方は、資金源の一つであるワサビ園と、あまり近づきたくない不気味なほこらに続く上流へ。もう片方は、隠れ里をぐるっと回って入り口付近の崖まで続く。

 息もえ──重い足取りで階段を踏みしめるキサ。心臓破りの石段とも呼ばれるこれを、毎日すいすい登っていける里人さとびとが、正直信じられない。

(もう、なんでこんな階段作ったのよぅ……)

 続いて、隠れ里の入り口付近。切り立った崖をいて作られたスペースに小さな神社があり、そこへ向かうキサをいくつもの鳥居が出迎える。もちろんそれらは、宮大工の手による朱塗りの立派な建造物では無く、適当な木材で体裁だけ取り繕ったお粗末なモノであった。

(あーっ、ついたーっ、もうだめ……っ、一歩も動けないよぅ)

 やっとこさ。最後の鳥居をくぐった所で精も根も尽き果てたキサが、ひざに手を置きながら荒い息をたてていたその時。

 背後からカサリと落ち葉を踏む音が聞こえ──。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ