━━━第六章・名と狐火を継ぎし弟子━━━ 4
「なにがおかしい、くそったれめぇ!」
「俺らをナメたらいかんぜよっ!」
「総大将の首、貰い受ける!」
三人は、もがき苦しむ双七郎の横を走り抜け、ただまっすぐに銀の鎧武者に向かって武器を掲げた。対して、隠れ里の中でもトップクラスの実力を持つ<もののふ>の彼らを前に、構えすら取らずに棒立ちの利光。まだ笑っている。
「ぐ……、ちっくしょお、そいつはオレの仇だぞっ、横取りすんじゃねええええええぇぇぇ」
キサマフラーを強引に剥ぎ取って、横へ放り投げたと同時に駆け出す双七郎。彼の目を見たキサは、分かってしまった。たまらず叫ぶ。
(だめ……だめよっ! 逝くならあたしも連れてってよ。置き去りなんてヤダーッ!)
されどキツネの姿をしているキサの声は、誰が聞いても人間の言葉では無かった。双七郎の行く先を睨み付ける彼女だが、先に斬りかかった若者達の様子が何やらおかしい。
「なんじゃ、こりゃあ!」
三つの刃は神威と呼ばれる甲冑によって、文字通り動きを止められていたのだ。両者は凍り付き、ピタリとくっついて離れない。こうしている間にも、強烈な冷気が持ち主である三人の体力を奪ってゆく。
「この神威は……、そなたら如きに打ち砕ける物では無い……。万が一……、できたとしても、さらなる地獄を味わうだけだろうがな……」
利光はそう言うと、先程の笑みをスッと収め、無表情で覇気のある面構えに切り替えた。右手の太刀は持ったままで振るう気配はないが、周りのオーラが鋭く刺々《とげとげ》しいモノへと変わっていく。若者達の顔が、得体の知れない恐怖に引きつったその時──。
「ドタマが、ガラ空きだぜぇ!」
異変を察知し、すぐさま鎧に原因があると分析した双七郎が、頭への真っ向唐竹割りを敢行した。利光は何故か兜を装着していないのだ。額の〝白い鱗〟がきらりと光った唯一の弱点へ、師匠の大太刀が今こそ吼える。赤々と燃えたぎった劫火の鉄槌が下されようとしたが、
「うおおおおおおっ、くたばりやがれええええええぇぇぇ」
「むぅ……」
右手を高らかに、太刀を真横へ倒した利光は、澄ました顔でそれを阻止した。
甲高い金属音と共に、熱気と冷気が混じった一陣の突風が巻き起こる。続いて、全体重を押し出して力業に持ち込む双七郎。両者、鍔迫り合いの体勢に。
だがしかし──。
「……もうよかろう。そなたらと遊ぶのもこれまで……。さらばだ!」
「あんだとっ!」
辺りが白一色に染まりつつある。その圧倒的なまでの勢いに、炎など瞬時にかき消され、全ての感覚が消え失せてゆく。




