━━━第六章・名と狐火を継ぎし弟子━━━ 3
「我こそは……、冬将軍なり!」
利光の言葉に、雪音の周りから一陣の風が舞い上がる。長い髪が一瞬だけふわりと巻き上げられ、赤い宝石のピアスと額の〝白い鱗〟が光った。
その直後、彼女の身体が雪の結晶として散り、猛烈な吹雪となって四方へ放出される。骨の髄まで凍えるような冷気と突風の激しさに、双七郎は立っているのがやっと──キサは目も開けていられなかった。
「月寒江清・六ツ花威!」
裂帛の気合いと共に一旦放出された猛吹雪が、利光へと収束してゆき──円筒状に渦巻いて一本の氷柱を作り上げる。
最後に、それが粉雪の如く綺麗に砕け散って、中から現れたのは──。
「神威を纏えた……か。予は、もう以前と変わらぬ力を取り戻したのだな……」
銀を基調として蒼が少し混じった、平家物語絵巻に登場するような大鎧姿の武者。
そう──。
神威とは<もののふ>の力を極限にまで高めて物質化した、豪華絢爛たる甲冑の事だったのだ。
「そっ……それが、何だって言うんだよ? くそっ」
きっと寒さの為なのか、双七郎はガタガタ震えながら言い捨てた。キサは心なし身体を縮めて、彼の首を毛皮で暖めようとする。キュッと。
「知らぬのか……? <もののふ>になれば、お互いの心が共有される……つまり、雪音の今までの記憶も予に伝わるのだ……ふっふっふ……、はっはっはっはっは」
利光は、珍しく含み笑いを──いや、たまらず笑い出した。おそらくお雪の記憶を知ったのであろうが、なぜか双七郎の顔がみるみる青ざめてゆく。ひょっとして心当たりが、二人の間に何かあったのか。ムッとしたキサは更に身体を縮める。ギュウッと。
「ぐ、ぐえ……」
双七郎が首に手をかけて変な声を上げているが、きっと気のせいだろう。そんな些細な事よりも、利光の笑い声に激しく反応した隠れ里の若い衆が三人ほど、お多満オバサンの制止を振り切ってこちらへ走って来るのが見えた。




