表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/105

━━━第六章・名と狐火を継ぎし弟子━━━ 2


「ちっ…………、ちっくしょ…………、ちっくしょおおぉぉ!」

 失恋と憎悪と嫉妬がき混ぜられた感情を、一気に吐き出すような双七郎そうひちろうの怒声。彼は師匠のおお太刀だちを血が出るほど力のあらん限りに握りしぼって、大地を蹴った。刀身からは猛々《たけだけ》しい炎が吹き出し、赤い糸で空気を縫うかのようにジグザグな軌跡を描く。

「邪魔立てするでない。なんと無粋ぶすいな……」

 されど、いつの間に握っていたのか。利光としみつは右手でなめらかに太刀を操り、相手の乱れきった太刀筋をいなす。

 双七郎そうひちろうは勢いあまってたたらを踏み、あと少しで小川に落ちる所だった。周囲が赤く燃えている為か、水の色は黒く見える。

「てめぇ、お雪さんから離れやがれぇ!」

 満ち足りた表情で白衣に包まれるお雪を前に、歯ぎしりする双七郎そうひちろう。よっぽど悔しいのか。彼の顔を下から覗いていたキサは、キュンと胸が苦しくなる。

「……そなたは、雪音ゆきねなんなのだ?」

 利光としみつが視線を向けた瞬間、凄まじいプレッシャーが身体と心を突き抜ける。生まれて初めて経験する感覚に、キサは気圧けおされ震えていた。

 だが、双七郎そうひちろうは負けていない。歯を食いしばって、鬼気迫るすごい形相ぎょうそう仇敵きゅうてきにらみ付けている。

「お……お雪さんは……、オレの……、オレの…………」

 キサの小さな胸を思いっきり締め付ける彼の言葉。今にも張り裂けそうだ。最後まで聞いてしまったら心が砕け散るかも。でも、双七郎そうひちろうの気持ちを聞いてみたいし。自分でも分からない矛盾した衝動をこらえるべく、尻尾をんだ彼女はその時を待つ。が──、

「……もう良い、聞かずともには分かる」

「なにっ、どういう意味だ!」

 利光としみつは、冷ややかに台詞せりふさえぎるのだった。ますます怒りをあらわにする双七郎そうひちろうとは反対に、とりあえずホッとしたキサは尻尾を離す。しかし、これでよかったのだろうか。なんだか、魚の骨がのどに引っかかったような気分である。

「<もののふ>になれば、雪音ゆきねの全てが分かる……、そういう事だ……」

 言うや否や、利光としみつは白き狩衣かりぎぬをばさりとぎ取り、代わってむらさき一色いっしょくに染め上げられたよろい直垂ひたたれを外気にさらす。それは大鎧おおよろいの下に着込きこむ着物の事で、腕の動きのさまたげにならぬよう普通の直垂ひたたれよりそでが短いのが特徴だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ