━━━第六章・名と狐火を継ぎし弟子━━━ 1
信じられない光景が広がっていた──。
双七郎は、呆然と口を開けて眺めている。そのショックは計り知れないだろう。
隠れ里のあちこちで、怒号と剣戟の音が響き渡っている。見上げれば、赤々と燃え盛った空。緑の天井が空襲によって炎に包まれたのだ。そこから火の粉が飛び散ったのか、火事になっている住居も多かった。ただし、これは予定外だと敵がざわめいていた事から、空襲は指揮系統のアクシデントらしい。
攻め入ってきた地上の敵は、一人一人が恐ろしく強かった。あっという間に、里人の半数が捕縛されたのだ。お多満オバサンと塗壁が合体した<もののふ>、そして大剣豪と称される猿宝斎の二人が中心となり、隠れ里の残った強者を集めて必死に抵抗しているが、明らかに劣勢である。膝を屈するのは時間の問題だと思えてならない。
キサはそんな状況を、双七郎の首に巻き付きながら見ていた。未だ気を失ったフリをしているが、いわゆる狸寝入り。キツネなのにというツッコミは却下である。ズタボロだった身体は直ちにお雪が癒してくれたので、意識を取り戻すのも早かったのだ。しかし、その命の恩人は今、目の前に広がる信じられない光景の一翼を担っている。
キサにとって、それは都合の良い事なのは間違いない。なにせ最大の恋敵が消えたのだから。
ただ、彼女の心中は複雑だった。
全ての記憶を取り戻していたお雪は、
炎けぶる隠れ里で──、
双七郎とキサの目前で──、
師匠の憎き仇である評 利光と──熱い口づけをしていたのだ。
「なんでだよ……お雪さん、なんでそんな奴なんかと……」
内蔵を鷲掴みにされたような呻き声で、双七郎は我知らず呟いていた。
「雪音……。予はずっとそなたを待っていた……」
「……お殿さま……夢にずっと出てきました。今のような白衣を着て……わたしを迎えに来てくれるんです……」
ギャラリーがいるにも関わらず、二人だけの世界に浸る利光と雪音。そんな彼らに外界からの声が届くはずも無かった。




