━━━第五章・敵地潜入━━━ 12
筆名・嵯峨 卯近
ワープロ原稿紙 A4・39字詰め34行 / 126枚
※2009年に、とある新人賞へ応募した小説で、同時に人生初の長編作品です。
結果は、一次選考突破で二次選考落選でした。
話の作り方が強引なのと、キャラ視点がブレているのと、和風世界なのに現代用語使いまくりで違和感が激しいのと、問題点が結構あります。
あと、あらすじは当時の応募規約に則って書いたもので、思いっきりネタバレになっております。
以上の注意点を踏まえて、長々とした拙い小説ではございますが、読んでいただけると幸いです。
錫杖の首根っこを両手で持つ黒頭巾の坊主が、不気味に佇んでいた。
「お主……かような所で何をしておる?」
空吉の位置からは見えないが、坊主の後ろに落ちた小石は二つに割れている。
「びっ、びっくりしたっスよぉ……。あんたこそ何してんスか?」
気配はまったく無かったはず。空吉の額から、冷ややかな汗が流れる。
「質問に答えぬか!」
この坊主、まともな道を歩んできた人間ではない。おそらく、裏を生業とするプロであろう。なんちゃってスパイを気取った空吉とは、まとっている空気そのものが違うのだ。
「み……、見張りっスよ。お偉いさんからの命令っス!」
「ほほぅ……、それは妙な事を申すものだ。賊が逃走した方角と逆を見張れとは……?」
「うっ……」
そう、ここは双七郎達が向かった西とは正反対。つまり、鶴城の東門をくぐって少し歩いた場所である。言葉に窮した空吉は、そのままごまかし続けるべきか、いっそ実力行使に出るべきか、頭を悩ませていた。
が──、
「某と殺り合うおつもりか……。それもよかろう」
坊主の言葉にハッとする空吉。無意識の内に身体が構えていたのだ。こうなった以上、やぶれかぶれだ。
「某の……<もののふ>の字は、影法師。将軍様に仕える影の身ながら、正三位を戴いてござる」
名乗りを上げた黒坊主に、空吉は愕然とする。
(まじっスか……)
あまりにも、実力が違い過ぎる。三位以上を冠する者は殿上人と呼ばれ、恐れ多くも皇尊に拝謁を許されている。それに──どこまで眉唾かは知らないが、山や街を簡単に吹き飛ばすほどの破壊力を持つらしい。
「いざ、殺生つかまつる……」
シャラランと錫杖を流れるように振り、腰を落として構えた影法師。冷徹な雰囲気を身に纏った彼に、隙はどこにも見当たらない。
「空吉親分、ただいま到着っち!」
待ち人、やっと来たる。まさに地獄に仏とはこの事。
絶妙のタイミングでチュウ太が空吉の肩に乗り、囁いたのだ。
「お覚悟めされよ!」
影法師が音もなく地を這って迫り来る。しかし、先程とは打って変わって自信に満ちた笑みを浮かべる空吉が──突如として消えた。
「なんと!」
いくら正三位が凄いとは言え、足の速さで競うなら必ず勝てる。チュウ太と合体して韋駄天と呼ばれる<もののふ>になった空吉は、そう強く確信した。
(駆けっこでは、誰もオイラにかなわないっすよ!)
瞬時に、辺りの景色が変わった。夜風と一体化したかような速さで、森を颯爽と駆け抜ける。
(そろそろ、いいっスかねぇ……)
あの場から、相当離れたに違いない。
手頃な大木を見つけた空吉は、腕をクロスして衝撃に備える。
「ぐはっ」
森の深淵にこだまする衝突音。
走り出したら如何なる者も追いつけないスピードを誇る<もののふ>の弱点が、何かにぶつからないと止まれないというもの。まさに身体を張ったランナーである。
(ここまで来たら……)
韋駄天VS影法師。
サブキャラ同士がぶつかり合います。




