表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/105

━━━第五章・敵地潜入━━━ 10


          * * *


 草木も眠るうしどき──という言葉がある。分かりやすく表せば、午前二時から二時半までを指す。そんな比喩ひゆがある時刻にも関わらず、今日に限ってここは騒然としていた。

 鎮西地方ちんぜいちほう最大の都市である鶴城つるぎ。そのあちこちで、武装した兵士が慌ただしく行き交い、時たま陣太鼓やホラ貝が鳴り響く。

 鎮西将軍ちんぜいしょうぐんこおりの 利光としみつが、約一年ぶりに陣触じんぶれを出したのだ。ちなみに、出陣命令の事である。

「とても、まずいっスね……」

 双七郎そうひちろう達が鎮西ちんぜい衛門督えもんのかみの公邸に潜入した頃から、見回りの兵をさりげなく遠ざけていた空吉そらきち。一番下っ端でも鎮西ちんぜい兵衛志ひょうえのさかんという官職を持つ彼だからこそ、可能な仕事であった。そうやって各々《おのおの》が適材適所で切り抜けた結果、何とかキサの救出に成功したのである。

 しかし、公邸に火を放ったのがまずかったのか、蜂の巣をつついたかのような大騒ぎに発展してしまい、現在の状況へと至る。

鎮西将軍ちんぜいしょうぐんこおりの 利光としみつか……、やっぱ只者ただものじゃないっスねぇ」

 そう、鮮やかな手際てぎわでテキパキと事を収めたのが利光としみつである。河童カッパ隊を呼び寄せて速やかに公邸を鎮火し、続いて放火犯とその逃走先まで割り出した。つまり、この陣触じんぶれは双七郎そうひちろう達の隠れ里をターゲットに出されたものであり──空吉そらきちは、他人事ひとごとのようにつぶやいている場合ではないのだが、

「さてっと、本業に移るっスか……」

 元々、空吉そらきちの任務はスパイである。あくまでも客観的な視点が求められ、時には自身の事さえも道具として割り切らなければならない。一切の私情を捨て、どこまでもクールに。

 彼は、しれっと──本格的に敵情視察を開始した。

「あれは天狗てんぐ兵……という事は、空襲も考えられるっスねぇ」

 大空を席巻する<もののふ>として有名な天狗てんぐは、ほぼ全員が正五位以上の官位を持っており、朝廷の様々なポジションで優遇されている。空を飛ぶ事は、それだけで絶大なアドバンテージを持ち、しかも制空権に関して他種の追随を許さない。

 一般的なイメージとして修験者姿の天狗てんぐが挙げられるが、それは本家本元の実力ある大天狗だいてんぐ達に許された格好らしい。鎮西将軍ちんぜいしょうぐんに従うここの天狗てんぐ兵は、あいめの直垂ひたたれ腹当はらあてという簡素な武装である。背中から突き出ている二つの羽根は灰色っぽいので、おそらく夜目の利く梟天狗ふくろうてんぐあたりか。彼らは、烏天狗からすてんぐと並ぶ下っ端天狗(てんぐ)の代表格である。

「あいつら木の棒なんか腰にぶら下げて……。ははぁん、なるほど……火の付いた松明たいまつを下へ投げ込む気っスね」

 隠れ里をおおい隠す緑の天井は、植物が幾重いくえにも複雑にからみ合ってできている。上空から火が落ちてきたらひとたまりも無い。またたく間に火の海と化すだろう。

「敵さんもなかなか、やるっスねぇ……」

 うんうんと、感心したように一人うなずく空吉そらきち。まるで他人事ひとごとである。

「あとの顔ぶれはだいたい……正五位から上の奴らっスか」

 地上部隊は、空吉そらきちより一つ上の役職に該当する<もののふ>達で構成されていた。

 それぞれが鎮西ちんぜい兵衛尉ひょうえのじょうの官職を持つ部隊長クラスの精鋭で、双七郎そうひちろうの師匠である稲薙いなぎの 道就(みちなり)と同等の実力者が、ざっと三十人ほど集まっている。

「諸君、よくぞ来てくれた……」

 馬上にて彼らの顔を見回した利光としみつから、おごそかに声が発せられた。もみ烏帽子えぼしかられる黒髪くろかみは冷たき夜風に揺れ、白い狩衣かりぎぬが三日月に鋭くえる。

「目的は……の伴侶である雪音ゆきねを、この手に取り戻す事だ。ゆえに、里人さとびとはことごとく生け捕りにせよ」

 衝撃のトップシークレットが、今明かされた。

 さすがに皆が、動揺を隠せないでいる。鎮西将軍ちんぜいしょうぐん自らの出陣が一年間無かったのも、そのような理由があったのかと、ざわめきが波紋のごとく広がっていった。

「まじっスか……?」

 空吉そらきちも耳を疑った。まさか、彼の相方あいかたが潜んでいるとは──いや、有り得ない。何かの間違いだろう。天下に名高き<もののふ>である冬将軍は、雪女と合体して成り立つ。そんな[もののけ]、隠れ里には──。

「…………お雪さん? それは無いっスよねぇ……はははっ」

 乾いた笑い──疑念を振り払おうと首を振る空吉そらきち。その間にも利光としみつの演説は続く。

此度こたびいくさは困難を極める……だが、諸君らは見事にげるであろう!」

 直後、ざわめきが歓声に変わった。攻撃を司る鎮西ちんぜい兵衛ひょうえに所属の精鋭達──誰もが自信に満ちた表情だ。

ついに空吉視点になってしまいました。

ブレ過ぎですねorz

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ