━━━第四章・月下に揺らいで━━━ 6
「おいおい……何泣いてるんだよ? 男が泣くなよ、てめぇこそカッコ悪りぃじゃねぇかよっ」
冷や水を浴びせられたように、黒い怒気が抜けていく。
「キサちゃんは……、子ギツネの時からずっとあんたの事ばかり……、あんたの事が好きで好きで、あんたの代わりにあたしが死んだっていいって……」
今のは空耳だろうか。どう考えても有り得ない事を、この空吉はほざいている。
「それなのに、あんたは……、あんたときたら………、もうはっきり言ってやるっスよ?」
「おぅ、言ってみろやぁ!」
空吉が一度、深呼吸する。ゴクリと、生唾を飲み込む双七郎。
その刹那であろう空白の間が、妙に長く感じられた。
「そんなに、お雪さんが好きっスか! あんたの……あんたのせいで……、どれだけキサちゃんが傷ついてきたか!」
「なんで……、んな事……、てめぇが知ってんだよおおおおおおぉぉぉ」
「見てりゃ、モロバレっスよ……」
「ぇ……、わ……わたし?」
(しまったあ!)
双七郎が痛恨の表情を浮かべた時は、既に遅し。
「ちっ……違うんだ! オレ……、オレは……、あ、あぁ、今日もイイ天気ですね!」
両手で唇を覆いながら目をぱちくりさせているお雪に、弁解しようとして訳の分からない事を口走った双七郎。ドツボにはまり込んでゆく。
「……ぇ? えぇ……? お月さまが出て……ますね?」
「あっという間に秋も終わって、お雪さんの降る季節になりますよ」
「……わたし? ……ぇ? 冬のこと……、でしょうか……?」
(何言ってんだ、オレはああああああぁぁぁ)
とにかく穴があったら入りたい。お雪の顔をまともに見れなくなった双七郎は、くるりと背を向けて頭を抱えながら、その場に座り込んだ。
「いいっスか、お雪さん。つまりはこういう事っスよ……」
かなり混乱している様子のお雪に、双七郎の気持ちを丁寧に説明する空吉。
「てめぇ! 余計な事言ってんじゃねぇよ!」
慌てて空吉の胸ぐらを掴み、なんとか言葉を阻止する双七郎だったが、
「そう……ですか……、双七郎さまは……わたしの事が……」
ついに肝心な所が伝わってしまったようで、今すぐここから立ち去りたい衝動に駆られる。
「逃げちゃダメっスよ。はっきりさせるっス!」
「くそっ、離せっ。ちっきしょう……」
空吉にそれを見透かされたように、がっちりと羽交い締めされる。もがく双七郎を見つめて、顔を紅潮させながらそわそわしているお雪が、やっと言葉を紡ぎ出した。
だがしかし──。
唐突に、予期せぬ告白。
一刻も早く逃げたい。
若いっていいなぁ(?)




