━━━第四章・月下に揺らいで━━━ 4
「<もののふ>になるには……、二つの方法があるんや」
猿宝斎が相変わらず目を閉じたまま、重い口調で話し始める。途端、辺りが静まりかえった気がした。
「[もののけ]と人間、お互いが信頼し合って心も身体も結びつく方法とやな……」
それは何度も呪文の如く、師匠から聞かされた事だった。双七郎の脳裏に、師匠とバサラの勇姿がおぼろげに浮かび上がる。
少し深呼吸した後、猿宝斎は感情を爆発させるように言い放つ。
「[もののけ]の心を潰して無理矢理結びつく事なんや! これをする奴は最低やで!」
「そうっスよ! ヤツはいつもそうやって、女の子の[もののけ]を無理矢理自分のモノにしてきたっスよ! ちょー最低な人間っス! みんなもそう言ってるっス!」
空吉も興奮しながら猿宝斎に同意した。光房は、部署こそ違うが彼の上司にあたる。しかし、平気でヤツ呼ばわりして憎しみすら感じさせるその言葉は、実際に対峙した双七郎には充分すぎるほど頷けた。
「……ぇ? 心……潰して……無理矢理……結びつく?」
そんな彼らの説明を聞いて、可愛らしく人差し指を唇に付けながら首を傾げているお雪さん。なんて純粋で萌える娘なんだろう。どこかのさらわれたキツネさんとはエライ違いだ。双七郎は、思わずキュッと抱きしめたくなる衝動を抑えつけるのに必死だった。
「えっと、そうっスね……、どう説明したらいいっスか?」
空吉も戸惑いながら、視線をあさっての方へ泳がせていた。
「そこのニイサンは見とると思うんやけど、黒ぅてトゲトゲした首輪があったやろ?」
猿宝斎にそう言われて、双七郎は思い出した。光房の相方であるマリの首に、悪趣味な首輪が巻いてあったのを。
「あれはな……、反抗的な[もののけ]を痛めつけて、言うこと聞かす為の道具なんや」
詳しい仕組みや成り立ちを一切省いて、猿宝斎は説明する。
──どんなに我慢強い[もののけ]でも、一ヶ月もあれば降参してしまう事。
──[もののけ]を対象とした人身売買業者は、これを幅広く利用している事。
──好事家は好んでこれを使い、調教と称して性的虐待を行っている事。
「えっとキサさん……今夜にも無理矢理……、そんな事されてしまうん……ですね?」
男三人に背を向けたお雪はもじもじしながら、いつもより更に小さい声で呟いた。猿宝斎が、性的な部分を卑猥に表現したのだ。刺激が強すぎたのか、彼女の顔が真っ赤になっている。
ピュアな……?




