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━━━第四章・月下に揺らいで━━━ 3

          * * *


 透き通る秋虫の大合唱が、九露湖くろこだい瀑布ばくふと呼ばれる豪快な滝の音に乗せて、さわやかに鼓膜を騒がせ続けている。夜のとばりりた湖畔、月の光に照らし出されたのは四つの人影。

 こおりの 光房みつふさによって、双七郎そうひちろうは大怪我を負い、キサがさらわれてしまった後の事である。

「……キサは、しばらく殺されないんだな?」

 湖面に映し出された三日月が、絶え間無く揺らいでいるのを眺めながら、双七郎そうひちろうは問うた。

「仕込むって言っとったから、そうやろな…………今の所は」

 腕組みしながら、切り株に腰を下ろす猿宝斎えんぽうさいが、目を閉じたまま答える。

 深手は無かったものの、全身に切り傷を負って気を失った双七郎そうひちろうを、この九露湖くろこのほとりまで運んできたのは彼である。

 その道中、無惨な姿に変わり果てたマリの姿を見たという。光房みつふさが、逃亡するのに足手まといになった相方あいかたの彼女を、躊躇ためらいもなく斬り捨てたのであろう。

 いずれはキサも、そのようになるとの確信を含んで、猿宝斎えんぽうさいは今の所と付け加えたのだ。

「仕込むって……、何をするん……ですか?」

 おずおずと消え入るような声で、お雪はたずねる。

 双七郎そうひちろうの傷をいやしたのは彼女であった。雪女という[もののけ]は、冷気を吹き付けて生命を奪う事で有名なのだが、それとは正反対の能力を持っているのはあまり知られていない。お雪(いわ)く、冷気を吹き付けた時に敵が凍えてしまうのは、体温そのものを奪い取ったのが原因らしい。そして、吸った体温をいやしの力として他者に分け与える事もできるそうだ。ちなみに、これらの体温とは生命力に近いニュアンスである。

 周りの木々を見渡すと、お雪の能力について納得がいくだろう。近くに生えていた木だけが、すっかり落葉しているのだ。つまり、双七郎そうひちろうの傷を治した生命力は、元々それらの木から吸い取ったのである。

「ヤツが仕込むって言ったら、アレしか無いっス!」

 隠れ里とこの場所を何度も往復して、さすがに疲れている様子の空吉そらきちが、忌々しげに歯ぎしりしながら言い捨てた。下っ端ながら鎮西府ちんぜいふの役人でありスパイの彼は、ここにいる誰よりも敵情に詳しい。

 空吉そらきち──韋駄天いだてんと呼ばれる<もののふ>は、持てる能力を全開にしてめざましい活躍を見せた。

 そう、長老の判断でお雪を連れてきたのも、若竹色の新しい直垂ひたたれ双七郎そうひちろうが着ていられるのも、彼の脚力を抜きにしては語れない。おかげで双七郎そうひちろうは、一命を取り留めたのだから。

仕込む……、意味深。

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