━━━第四章・月下に揺らいで━━━ 1
圧倒的な──白の世界が行き過ぎた。
水墨画の如く、浮き出るかのように視界が戻って来る。
そう、時は一年前。
神威の力を開放した評 利光──冬将軍は、何もかもを消し去った。
肌を刺す冷気、地表に降りた霜。
そして──。
横たわる翁と、動かなくなった白い大蛇。
「………………終わった……か」
萎烏帽子からこぼれた利光の銀髪が、冷たい風になびく。解除された神威は、光の粒子となって空気中に溶け込んでいった。
本当に、これで良かったのだろうか。
鎮西地方の守り神である〝白露ノ大蛇〟は、討伐されるべき邪悪な存在であったのか。
此度の征討を朝廷に奏上したのは、確かに利光だったが──元々の出所は兄である。つまり、評氏の正統後継者であった評 光房が、この件を強く希望したのだ。
「あなたが…………」
落ち着いて深みのある女の言葉が、かろうじて聞こえた。もちろん、聞き覚えのある声。さすがは守り神と崇められるだけあって、大した生命力だ。
「黒き神の……、邪悪な力を……、用いて……、天下を……、奪おうとして……も……」
「戯れ言を……申すな。天下に仇成すのはそなたではないか……」
一笑に付した利光の真意を探る──ような眼差しを向けた白露は、
「……何も、知らないの……、ですね……」
溜め息をつき、青さを取り戻した天を仰ぎ見る。
またまた唐突に過去シーンへと飛びました。
これで、三回目でしょうか。




