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━━━第三章・キツネの嫁入り黒き影━━━ 15


「いたたた……キミぃ、いったい何者なにもんだよォ! ボクちゃんにこーぉんな事しちゃってからに、覚悟はできてるんだろねェ!」

 苛立ちをあらわに、太刀を地面に刺して立ち上がる光房みつふさ

何者なにもんやと言う前にな、まず自分から名乗れや! それが礼儀やドアホゥ!」

「なっ、なにをおォ! 正五位鎮西(ちんぜい)衛門佐えもんのすけにして<もののふ>四尾しびこうたる、こおりの 光房みつふさに向かっての数々の無礼。もーぉ、断じて許さなーぁい!」

 不作法を指摘されて頭に血がのぼった光房みつふさは、地団駄じだんだを踏みながらまくし立てるように名乗りを上げた。

 ひとしきり虚空へ向かって太刀を振り回した後、左下段にそれを降ろし──弾丸のごとく突撃。

「くっひゃーっ! 第二尾・けむりィ」

 光房みつふさの身体からボフっと、爆発するように煙が広がった。瞬く間に筋肉オヤジの視界をおおう。

 それに対し──。

「ワテは猿宝斎えんぽうさいやっ! 大剣豪だいけんごうと呼ばれた男やでぇ!」

 姑息な手は一切通じない相手だと知らしめる為、筋肉オヤジは気合いを放つように名乗った。彼こそが、にわかには信じられない数々の伝説を生み出した、鎮西地方ちんぜいちほうの大剣豪であったのだ。

 山を砕き、海を真っ二つに割ったという、想像を絶する逸話が今も伝わる猿宝斎えんぽうさいにとって、煙に紛れて背後から突き出された光房みつふさの刃先を、そのままの体勢かつ包丁一本で受け止める事など、朝飯前である。

「なにぃィ!」

 光房みつふさ驚愕きょうがくのあまり、ほんの一瞬だけ動きを止めた。されど──そのわずかな隙が、武芸の達人相手では命取りになりかねない。

「あんさん……、身体の芯がまったく定まってへんなぁ」

 やれやれと呆れた猿宝斎えんぽうさいが、光房みつふさ右脛(みぎすね)をちょこんと蹴る。

「うぎゃあっ! やばィ……、第三尾・蛍火ほたるびッ!」

 それによって、積み木がガラガラと崩れるかのような無様ぶざまかつ恥ずかしい倒れ方をした光房みつふさ。慌てふためきながら、<もののふ>固有の能力を展開させる。

 彼の周りに突然、無数の火の玉が浮かび上がり、

「ぐほぅ」

 近くにいた猿宝斎えんぽうさいに、それらの一部がぶつかった。パパパパァンッと、爆竹が弾けたに等しい連続した破裂音が響く。

「この蛍火ほたるびは鉄壁の防御を誇るのさァ! くっひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」

 鬼の首を取ったかのように、光房みつふさは高らかに笑っていたが、

「はぁーあ……、あんさんにはがっかりやで。しんが無ければしんも無い。大仰おおぎょうに四つの尻尾を付けて四尾しびこうやて? 見かけ倒しもええとこやな……」

 ぐさりと刺さる、重い響きを含んだ猿宝斎えんぽうさいの言葉に、

「ひゃ……」

 光房みつふさの、バカのような笑い声が止まった。

スシ屋台のオヤジが大剣豪とか、あまりに唐突で無茶な展開となっとります。

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