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━━━第三章・キツネの嫁入り黒き影━━━ 14


          * * *


 炎にえた白フンドシ。茶色い剛毛におおわれた筋肉が、剛力をみなぎらせる。角刈りの髪に水玉の鉢巻きをぎゅっと締め、右耳の赤いピアスと白い歯がキラリと光った。

「うげェ!」

 ムサい声に釣られて振り向けば、そのようにマッチョなオヤジが、包丁を二本──握りしめて仁王立ちしていたのだ。直視したのが光房みつふさでなくとも、精神的ショックによりうめいてしまうのは無理からぬ事だった。

「下の湖にドスぐろぅて汚いモンが流れてきよったから、様子見に来たんやけどな……」

 この──猿の[もののけ]は、下流の九露湖くろこ鮨屋台すしやたいを営んでいた。そう、今は気を失っている双七郎そうひちろうとキサの二人がウマいオニギリを食べた、あの屋台のオヤジである。

「で……?」

 汚物を見るように顔をゆがめながら、心底馬鹿にしきった声で光房みつふさは問う。

「そこのお二人さんは、ワテの大事なお客やさかい。手ぇ出さんといてくれまへんか?」

「…………………………」

 しばし、時が凍り付いた──。

 パチパチッと、周りで火のぜる音だけが聞こえる。

「ボクちゃん何も見えてなーぁい! ので、ブスっとなァ」

「ちょいマテやぁ!」

 筋肉オヤジに関する全ての記憶を無かった事にした光房みつふさは、一旦止めたやいばを再び振り下ろし、双七郎そうひちろうにトドメを刺そうとする。

「マテって言っとるやろぉ! ボケぇ!」

 ツッコミが聞こえた瞬間、幻覚だと思い込もうとした筋肉オヤジが目の前に現れる。予想外の脚力に意表をかれた光房みつふさは、咄嗟とっさの対処ができなかった。

「うごォ」

 まともに体当たりを食らって吹っ飛び、受け身すら取れずに転がった。

「うほっ、ニイサン生きてまっか?」

 すぐさまオヤジは、双七郎そうひちろうの具合を素早く確かめる。

 ほほをペシペシ叩いてみても意識は無いが、出血と傷の様子から深手は負っていないようだ。一刻を争う容態ではないのが、不幸中の幸いと言ったところか。

強力な助っ人、スシ屋台のオヤジあらわる。

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