━━━第三章・キツネの嫁入り黒き影━━━ 13
だがその時、双七郎が持つ大太刀の刀身が真っ赤に輝き、熱の侵入を防ぐバリアを形成する。すさまじい熱気の渦が、刃を合わせた両者の周りから陽炎を立ち上らせる。
「くっひゃああああああぁぁぁ」
「うおおおおおおぉぉぉ」
文字通り、火力と火力の鍔迫り合い。二人の咆哮が響き渡った。
「馬鹿ナっ! このボクちゃんが押され……」
皮肉にも、逆の意味で身分の違いが顕著になったようだ。家柄と権威を振りかざして何不自由なく暮らしてきた光房では、卑しく貧しいながらも野山を庭のように駆けずり回って育った双七郎に、純粋な腕力で勝てる道理は無かった。
「師匠ぉ! オレに……、こいつをぶっ倒す力をおおおおおおぉぉぉっ!」
<もののふ>になれない双七郎が勝つのは今。まさに、千載一遇のチャンスはここにあり。
「ちょおしに、乗るなああああァァ!」
力押しが不利と見るや、光房は太刀を流れるように右下段へ引き、身体を少し沈めた。
全身全霊の力を上へ注いでいた双七郎は、前へつんのめる形に──。
「やべぇっ」
「くひゃあ、死ーぃねェ!」
最悪の大逆転劇だった。双七郎の死角に入り込んだ光房は、右やや下段から脇腹を狙った水平の横薙ぎを、狂気に満ちあふれた表情で放つ。
もはや、万事が休した。
(オレはこんなところで……。師匠の仇さえとれずに死ぬのか……。やっぱ<もののふ>じゃないと無理なのか……。ひでぇぜ、ちきしょう……)
されど、これから奇跡が繰り広げられる──。
そんな彼の、すでに諦めてしまった心に、抵抗するような身体の動きであった。
「なにィ!」
致命傷を与えるはずだった一撃を防がれ、顔をひきつらせた光房。躍起になって連撃を繰り出す。左から右──下から上。縦横無尽に弧を描く太刀筋。だがいずれも、意思を持ったかのような師匠の大太刀に阻まれ、双七郎に傷一つ負わせられない。
「ばかナっ、バカなァ、馬鹿なああああああぁぁぁ」
なおも奇跡は続く。ことごとく斬撃を受け止められた光房から、余裕と冷静さが消えていった。それに対して、師匠の大太刀から巻き起こる炎に包まれた双七郎は、相手の動きを読んだかのように、虚ろな瞳で戦っている。
「ぷじゃけんじゃねええええええェェェ」
頭が沸点を超え、光房は怒りを核爆発させる。一歩後ろへ退き、太刀を高らかと大上段に振りかぶった。
双七郎はその動きに反応した。受けて立つと言わんばかりに、大太刀をサッと水平に倒す。
「一振りィ」
光房は、ズドンと力強く右足を踏み出し、双七郎に向かって渾身の一撃が振り下ろされた。
「二太刀いいいいィィ!」
甲高く響き渡った剣戟。両者から熱風が吹き荒れ、木々のいくつかに火が付く。
光房は太刀を振り抜き、刃先についた血が蒸気を出す。
「ぐはっ……」
口から呻きが洩れた。双七郎の右肩が血で滲んでゆく。
そして、無防備な状態になってふらつき──。
「くっひゃひゃあーっ、死ね死ね死ね死ーっねェ」
光房の狂喜乱舞。凄惨な殺人ショーの幕が上がった。
残酷な追い打ちを受け続け、糸の切れた人形のように踊った双七郎は、為す術もなく切り刻まれた果てに、ついに倒れる。
彼の手から師匠の大太刀がこぼれた瞬間、燃え盛っていた刀身の炎が消えてゆく。
「やーっとくたばりやがったかァ……」
声と息を荒げ、肩を上下させながら、己の太刀を逆手に掴んだ光房。
「<もののふ>で評の秘剣はヤバイってぇのに、やらせやがってェ……」
しっかりと両手で握りしめ、頭上へ持ち上げる。
「このゴミくずがああああァァ」
仰向けに倒れた双七郎の心臓を、凶刃が貫かんとしたその時である。
「まちなはれ!」
激しいバトル、決着。
そして、現れたのは敵か味方か?!




