━━━第三章・キツネの嫁入り黒き影━━━ 2
そのような双七郎の願いを、天は聞き届けてくれたのか。それとも、キサの涙に呼応したのか。雲一つ無い青空から、ぱらぱらと雨が降ってきた。
「雨かよ? おっかしいな、晴れてるのに……」
思わず空を見上げた双七郎の、脳裏によぎる幾つかのキーワード。
──天気雨。
──キツネの住処が集中する土地。
「やべぇ!」
叫ぶや否や、双七郎はキサの脇に手を差し込んだ。
「あっきゃあああ、何すんのよぉ!」
驚きと恥ずかしさのあまり、変な声を上げてしまうキサ。されど、一切抵抗しなかった。
「うっせぇ、黙ってろ」
双七郎の腕に力が入った。キサの軽い身体が、簡単に持ち上がる。
そのまま、近くの草むらへ身を隠すように押し倒し、彼女をしっかり抑えつけた。
(双ちゃんなら……ナニしても……いいよ)
あまりにも唐突過ぎて尻尾が対応できなかったのか。キサの股ぐらは無防備であった。しかも、ただでさえ短い着物の裾が捲れている。当然ながら、中は何も穿いていない。穿き物は、京貴族の女子しか使えない贅沢品であるからだ。丸見えかもしれないと、気にすれば気にするほど息が荒くなってゆく。
「声立てるんじゃねぇぞ、じっとしてろよ……」
(初めてだから……、無理に決まってるじゃない……)
彼の感触が、体温が、鼓動が、隅々まで伝わってくる。キサはもう、目を開けていられなかった。ギュッとつぶって、その時を待つ。
だがしかし──。
「来やがったぜ」
「はぁ?」
双七郎の言っている事が理解できなかった。予想とは大きく異なる成り行きに、くすぶっていた怒りが再び込み上げてくる。ここまで覚悟させておいて──いい赤っ恥だった。
「黙ってろ……」
不満をはっきり伝えるべく甲高い悲鳴を上げようとしたキサの口が、咄嗟にふさがれた。彼の押し殺した声にただならぬ雰囲気を感じたので、とりあえず大人しくする。
(もぉっ、覚えてなさいよ! 後でぜーんぶ、埋め合わせしてもらうからねっ)
しばらくすると、自分達が今向かっている道──つまりは狐鯉川の上流から鈴の音が聞こえて来た。双七郎がずっと凝視している方へ、キサもおそるおそる視線を向けてみると、不思議な行列が映りこむ。
(あっ……)
それは、キサがずっと憧れている光景だった。
行列に参加してる人々は全員、狐の面を被っている。
周りには、狐火と言われる火の玉がふよふよと漂い、時にすさまじい速度で飛び交う。
何より目を惹くのは、白装束に身を包んだ女達に囲まれた、宙に浮いている朱塗りの駕籠。
そう、狐の嫁入りである──。
ライトノベルの定番、濡れ場がやってまいりました。
雨に濡れた二人は……?
そして、ありがちな展開に終わります。




