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━━━第二章・荒ぶる湖畔のスシ屋台━━━ 9


          * * *


 あの時の双七郎そうひちろうには、どうしようもできなかった。なにせ気絶していたのだから。

 あれほどくやしかった事はない。もうあんな思いはしたくない。

 その一心で、自らの身体を鍛え、強くなろうと努力してきたのだ。

 だが、<もののふ>どころか[もののけ]にすら勝てない現実に、行き詰まっている。

 どうしようもないのか──いや。

 この鮨屋すしやのオヤジに弟子入りできれば、きっと道は切り開けるはず。

「だからたの……」

「よっしゃできたでぇ、味わっておくんなまし」

 爪が食い込むほど拳を握りしめてワナワナと震える双七郎そうひちろうの、やっと出掛かった言葉をあっさりさえぎったオヤジは、豪快なデカさのオニギリが乗った皿を二人の前に置く。

 ごくりと生唾なまつばを飲み込みながら、おそるおそるオニギリを口へと近づけるキサ。

「いっ、いただくわよ……」

 ぱく、むしゃり。

「どやっ、ワテ特製のふりかけオニギリは?」

「……っんまい!」

 一口かじるや否や、満悦まんえつの笑みを浮かべたキサは、ガツガツと一気にそれらを食べ尽くした。もう、やみつきである。

「オッチャンの、このオニギリ……、天下一だわっ!」

「そんなことあらへんでっ」

 キサにめられて、まんざらでもない様子のオヤジ。少し声が上擦うわずっている。

「ほんまに美味うまいんは海苔のりオニギリと言うてな、そらぁごっつう美味うまいんやけどな。海苔のりは高すぎてワテら庶民しょみんじゃ手がでまへんのや。まぁ、いつかぎょーさんもうけて、食べさしてやるさかいのぅ!」

 みやこ貴族しか食べれないという贅沢品ぜいたくひん海苔のり。キサ達にとって、かろうじて名前だけは聞いた事がある程度の、縁遠い代物だ。しかし、オヤジが心底うまそうに語るのを聞いてて、口の中から唾液だえきがあふれてくる。

「楽しみにしてるよっ」

 オニギリを食べてすっかり機嫌を直したキサが、向日葵ひまわりのような明るい笑顔を振りまく。これがさっきまで、ヒステリーを起こして色々な物を投げつけてきた狂暴女とは、到底思えない変貌ぶりである。

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