━━━第二章・荒ぶる湖畔のスシ屋台━━━ 8
そう──。
「ばっ、ばかな……」
「うそ……でしょ」
道就と白露様の表情が凍りつくのも無理はない。
激しい炎にまかれて絶命したはずの利光が、何事も無かったかのようにむっくりと起き上がったのだ。
「なっ……、なんという奴じゃ……」
驚愕して言葉を詰まらせる道就をよそに、ぽんぽんと袴を叩く利光。続いて、真っ黒に焦げて変わり果てた狩衣の肩口をおもむろに掴むと、ばさりと乱暴にはぎ取って投げ捨てた。
狩衣の下から現れたのは、紫一色に染め上げられた鎧直垂。それは大鎧の下に着込む衣服の事で、腕の動きの妨げにならぬよう普通の直垂より袖が短いのが特徴である。
「役者も揃った……。予の……、真の力を見るがよい……」
ひと通り、周囲を見回した利光の足元に寒風が渦巻き、
「従一位以上の……、<もののふ>だけが纏える神威の力をな……」
猛烈な吹雪となって四方へ放出される。
「月寒江清・六ツ花威!」
次に、裂帛の気合いと共に一旦放出された猛吹雪が利光へと集束してゆき、円筒状に渦巻いて一本の氷柱を作り上げる。
「いかん! 白露様、お逃げ下され!」
「でも……」
案の定、白露様は動かなかった。こうなれば、今の全力で何とか抑えるしかない。鮮やかだった赤い髪が半分ほど白髪に戻っている道就は、地面に突き立った大太刀を一瞥する。
大太刀に宿った──もう半分の炎が、必ずや双七郎を導いてくれるだろう。
道就は、白露様を生かすべく大地を蹴った。
「全身全霊の纏火じゃあ!」
壮絶な、玉砕の特攻。
神威とやらが現れる前に、全ての熱を出し切って敵を打ち砕く。それしか手は無い。
しかし、道就が到達するまさに直前、氷柱が自ら砕け散った。
「さらばだ……、銀世界で安らかに眠れ」
冬将軍の真なる姿と、灼熱の炎をたなびかせた紅蓮翁。双方の視線がただ一瞬、交錯する。
(双七郎、決して負けるな……。何があっても勝つのじゃあ!)
辺りは白一色に染まった。その圧倒的なまでの勢いに、何もかもが、かき消されたのだった。
正一位以上の、<もののふ>だけが纏える神威の力
月寒江清・六ツ花威
として、
今後の設定に活かす予定ではあります。
とりあえず、2回目の過去シーンはここで終わります。




