━━━第二章・荒ぶる湖畔のスシ屋台━━━ 7
終わったか──ようやく安心した道就が、その場にへたり込む。
そんな彼をねぎらうように、
「やりましたね」
女性の声が響き渡った。落ち着いて深みのある大人の声だ。
「白露様……何故、このような所へ! 貴女様にもしもの事があれば……っ」
そう、トドメを刺そうとしていた利光の調子を狂わし、道就に逆転勝利をもたらした要因を作ったのは、他ならぬ鎮西地方の守り神だったのだ。
利光が彼女の事を〝白露ノ大蛇〟と言っていたように、その正体は想像を絶するほどの巨大な白ヘビであった。陽の光をまばゆく照り返す無数の白い鱗が、厳粛かつ神々《こうごう》しい雰囲気を醸し出している。
「……あなたが一人で死のうとしているのを、黙って見過ごせるとお思いですか?」
道就は失念していた──。
自らが率先して身体を張り、危険に立ち向かうであろう、白露様の性格を。
だからこそ、鎮西地方の人々は白露様を守り神として慕い、どこまでもついてゆく。今回の件で、圧倒的不利にも関わらず義勇軍として成り立つ数が集まったのは、一重に、そのような彼女の人徳である。
「でも……、よかったではありませんか。敵を倒す事ができたのですから」
「そういう問題ではございませぬ……」
とは言ったものの、道就は胸をつまらせる思いだった。たかが老いぼれ一人の、安い命の為に、白露様は駆けつけて下さったのだ。やはり、強大な朝廷を敵に回してでも彼女を守るという判断は、決して間違いではなかった。
今、この場で倒した〝冬将軍こと評 利光〟は、朝廷の中でもトップクラスの強さを誇る<もののふ>ではあるが、まだまだ強敵どもが残っている。そして近い将来、必ず襲ってくるだろう。
勝って兜の緒を締めよ──との言葉があるように、白露様を最後まで守り抜く覚悟を新たにした道就は、多少よろめきながらも気力を振り絞って、ガクガク震える両の足で立ち上がるのだった。
ふと利光の方へ視線を移せば、相変わらず仰向けに横たわって微動だにしないが、既にその身体を包んでいた炎は消えている。
季節外れを感じさせるほどの冷たい風が、さらに体温を奪ってゆく。
「あとは、あやつらをどうするか……ですじゃ」
遙か向こうの敵陣にはまだ、こちらを圧倒するだけの軍勢が控えている。一騎打ちには勝ったが、それで終わりという訳ではなさそうだ。総大将が倒されたにも関わらず、なぜか統率に乱れが感じられない。
「まだ……、終わってないからだ……」
不意に発せられた青年の声は、道就の胸中に秘めた疑問を一気に晴らす。
だが、それは最悪の事態を意味していた。




