━━━第七章・白き三ツ鱗と黒き震皇━━━ 25
【こしゃくなああああああぁぁぁ】
溢れんばかりの猛々《たけだけ》しい筋肉をしならせて、黒き神のプライドを賭けたカウンターパンチで迎え打つ。髭が無いので、大震拳は使えなかった。
しかし、金色に輝く九つの尻尾をたなびかせ、黒露大蛇の腕をかいくぐった九尾は、右足にガブリと噛み付いた。
「いっ、いけません。あの力はっ!」
その口から漏れる青白い光を見て、顔面蒼白となった厳時が思わず叫んだ。
「どうした……?」
オウム返しに即座の説明を求める利光。
「あれこそ……、天下最高の威力を誇る第九尾・終火です。関白殿下も、一度だけお使いなされましたが……十年もの間、草木も生えなくなった土地を御覧になって以来、禁じ手となった忌まわしき最終能力なのです」
「……なにっ!」
「おそらくは、鎮西地方そのものが荒野と化すでしょう」
「くっ……、本末転倒とはこの事か……」
この鎮西地方を──、強いては天下を守る為に──、白露の遺志とやらを背負って黒露大蛇と戦ったのだ。それを自分達の手で破滅させてしまっては元も子も無い。利光は、瞬時に策をあれこれ巡らす。
「どうやら、この手しか…………、なさそうですねぇ…………」
苦渋に満ちた難しい表情を浮かべる厳時が、しぶしぶ言葉を紡ぎ出した。
「策があるのかっ?」
「ありますとも…………ただ、かなり分の悪い賭けですが…………」
身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ──という言葉があるように、いくら可能性が低くても、やってみなければ分からないではないか。
「…………私達二人の神威をワザと暴走させ、私達の意識が保っていられる僅かな時間でケリを付けるのです。<もののふ>・冬将軍の暴走で、おそらく終火を相殺できるだけの冷気を出せるはず……。あとは、私めの暴走で被害を最小限に食い止めるという策なんですが……」
厳時が思い切って明かした戦術は、無謀どころでは無かった。さすがの利光も──戸惑いを隠せない。
「それしか…………、ないというのなら…………」
鎮西地方を支配する鎮西将軍が、史上最大の決断を即座に下した。
兎にも角にも、何もしなくて後悔するよりは──やってから後悔した方が良いのだ。
「ゆくぞ!」
利光は瞬く間に距離を縮めて、九尾が噛み付く黒露大蛇の右足を両手で掴み、
「…………うおおおおおおぉぉぉ」
生涯でも滅多に無いであろう雄叫びを張り上げた。六ツ花威と呼ばれる優雅で上品な神威が、ダイヤモンドダストの如く粉々に砕け散った。




