━━━第七章・白き三ツ鱗と黒き震皇━━━ 24
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半分しか無かった九露湖の水は、そのほとんどを蒸発によって失ったであろう。周囲の森は赤々と燃え広がり、穏やかな流れをデタラメに変えられた二段川が荒れている。
利光は、重苦しい水蒸気を吹き払って視界をクリアにするべく、冷気を突風に変えて解放させてみた。
「…………よし」
思惑通りに事が進んだので、ひとまず安心という所か。評の秘剣で消耗しきっていた雪音が、なんとか持ち直したようだ。
「心配はしていませんでしたが、アナタも無事でしたか。味方に殺られたら洒落になりませんよねぇ……まったく。あとでキサ君には、キツーイお灸でも据えてやりましょう」
視界がくっきり開けた事で、それぞれの状態が見えてくる。
桁違いの防御を誇る神威を纏った二人は、ただ突っ立ってるだけでもダメージを負う事は無かった──いや、もしくは味方をちゃんと判別してくれていたのだろうか。彼らの近くに降り注いだ流火は、若干威力が弱かったように思える。
【げぼぅああああああっ、ぐふぅっふぅっふぅっふぅっ…………】
一方、敵である黒露大蛇の肉体は、見るも無惨な姿と化していた。火線が集中したのか、大火傷を負ったように肌がただれており、しかも黒煙が立ちのぼっている。
【ムッ……ムシケラ……、ムシケラどもがああああああァァァ】
ドバッと如何なる重傷もたちどころに治すという汗が、身体中から分泌される。黒煙はたちまち白い蒸気に代わり、卵が腐ったような異臭が辺りに漂う。
【もう許さんぞおおおおおおォォォ】
あっという間に再生された黒い筋肉が、はちきれんばかりに膨張し、血管も浮かび上がってビクンビクンと波打つ。
黒露大蛇は、完全に怒り狂って我を忘れている様子だった。何故なら、現状を打破できる唯一の手段とも言える女刺鎌槍を、上空の九尾に向かって凄まじい勢いで投げつけたのだ。音速の壁を超えた投げ槍が空を裂く、が──。
「くるるるぅぅぅぉぉぉおおおおん」
一声嘶いた九尾の姿がまばゆい光と化し、曲線を描くように下へ流れた。音速の鎌槍と光速のキツネが交差する。破裂音が響いた瞬間にも、一筋の光は地表スレスレで流れてゆき、それは黒露大蛇に向かう。




