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━━━第七章・白き三ツ鱗と黒き震皇━━━ 24



          * * *


 半分しか無かった九露湖くろこの水は、そのほとんどを蒸発によって失ったであろう。周囲の森は赤々と燃え広がり、穏やかな流れをデタラメに変えられた二段にだんがわが荒れている。

 利光としみつは、重苦しい水蒸気を吹き払って視界をクリアにするべく、冷気を突風に変えて解放させてみた。

「…………よし」

 思惑通りに事が進んだので、ひとまず安心という所か。こおりの秘剣で消耗しきっていた雪音ゆきねが、なんとか持ち直したようだ。

「心配はしていませんでしたが、アナタも無事でしたか。味方にられたら洒落シャレになりませんよねぇ……まったく。あとでキサ君には、キツーイお灸でも据えてやりましょう」

 視界がくっきりひらけた事で、それぞれの状態が見えてくる。

 桁違いの防御を誇る神威かむいまとった二人は、ただ突っ立ってるだけでもダメージを負う事は無かった──いや、もしくは味方をちゃんと判別してくれていたのだろうか。彼らの近くに降り注いだ流火ながれびは、若干威力が弱かったように思える。

【げぼぅああああああっ、ぐふぅっふぅっふぅっふぅっ…………】

 一方、敵である黒露くろ大蛇おろちの肉体は、見るも無惨な姿と化していた。火線が集中したのか、大火傷を負ったように肌がただれており、しかも黒煙が立ちのぼっている。

【ムッ……ムシケラ……、ムシケラどもがああああああァァァ】

 ドバッと如何いかなる重傷もたちどころに治すという汗が、身体中から分泌される。黒煙はたちまち白い蒸気に代わり、卵が腐ったような異臭が辺りに漂う。

【もう許さんぞおおおおおおォォォ】

 あっという間に再生された黒い筋肉が、はちきれんばかりに膨張し、血管も浮かび上がってビクンビクンと波打つ。

 黒露くろ大蛇おろちは、完全に怒り狂って我を忘れている様子だった。何故なら、現状を打破できる唯一の手段とも言える女刺めざしの鎌槍かまやりを、上空の九尾きゅうびに向かって凄まじい勢いで投げつけたのだ。音速の壁を超えた投げ槍が空を裂く、が──。

「くるるるぅぅぅぉぉぉおおおおん」

 一声(いなな)いた九尾きゅうびの姿がまばゆい光と化し、曲線を描くように下へ流れた。音速の鎌槍と光速のキツネが交差する。破裂音が響いた瞬間にも、一筋の光は地表スレスレで流れてゆき、それは黒露くろ大蛇おろちに向かう。

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