━━━第七章・白き三ツ鱗と黒き震皇━━━ 23
何度も数え直して、己が目を疑ったが、
「金毛白面・九尾威…………、なのか?」
間違い無かった。天下最強である正一位関白殿下と全く同じ<もののふ>が、目の前に存在するのだ。それは同時に、天下を揺るがしかねない危険性を孕んでいた。朝廷護持を何よりも優先させる立場の利光は、最悪のシナリオに際しての策を密かに脳裏で練り始めた。
だがしかし──。
「いえ、微妙に違いますよ……あれはもっと……、質の悪いモノですよ」
「なに……?」
「御覧なさい。九尾なのに……、神威のカケラすら無いのです」
既に事態は、利光の想像する最悪を超えていた。
前述した通り、神威は防具にあらず。その実、暴走を防ぐ拘束具なのである。
狐火使いの頂点を極め、九尾を制御できているのなら──神威を纏っていなければならないはずだった。
「つまり……、暴走していると……、言いたいのか……?」
更に言えば──双七とおぼしきそれは、人である事すら怪しかった。
全身は黄金に輝く毛に覆われ、四ツ足で空中に浮かんでいる。まさに〝九尾のキツネ〟と呼ぶにふさわしい姿であったのだ。
「その通りなのですよ」
いともあっさり言う厳時だが、黒露大蛇に匹敵する強大な──しかも味方とは限らない化け物の出現に、内心では動揺していた。頬を伝う冷や汗が、それを如実に物語っている。
「む……、あれは蛍火か……?」
涙をそそる、甲高い響きを含んだ一声を発した九尾。その周囲で、火の玉がぽつぽつと浮かび上がってゆく。次第にそれは増え続け、尋常な数では無くなる。
「違います……、第三尾・蛍火に似ていますが、全然別モノですよ。若い頃に一度だけ、関白殿下が使われたのを見た事があります……」
「ほぅ……?」
「確かあれは……第七尾・流火に違いありません。一国を焼き尽くした、とんでもない破壊力を持っています。来ましたよ、気を付けて下さいっ!」
厳時が警告を発したのと、炎の流星群が降り注いだのは、ほとんど同時だった。
見渡す限りの朱に染まった光景。耳をつんざく轟音と熱せられた蒸気に包まれる。
天から絶え間なく落つる火群は、地上にはびこる罪業を一気に浄化するが如き勢いで、その全てを焼き払うのだった。




